第40話_実食
村田はライトに目を向け、
「はーびっくりした..ライト、大丈夫か?」
と静かに尋ねた。
ライトは村田の問いに小さく頷き、やや強張った表情で答えた。
「あ..うん。すごいおばあさん?だね」
彼の言葉には、ケラプおばさんの圧倒的な存在感に対する驚きと、
少しの恐れが感じられた。
村田は冗談を交えて緊張を和らげようとした。
「あぁ、俺も初めて見た。裏でなんかヤバい事でもやってるのか?」
しかし、その試みはライトの不安をさらに煽る結果となった。
「うぅ..僕たち生きて帰れるかな..」
ライトの声は震えていた。
「おい怖いことを言うな」
と村田は苦笑いしつつも、ライトを励ました。
そして、予期せぬ瞬間に、
「..お待たせいたしました」
とケラプが再び現れた。
彼女の丸太のような腕には、焼きたてのアップルパイを乗せた皿が二つ。
ライトは驚きのあまり声を上げ、椅子から転げ落ちてしまった。
「お客様、大丈夫ですか..」
と、ケラプは心配そうにライトを見下ろし、
その巨大な左手だけで彼を軽々と持ち上げた。
その力強さに、ライトはさらに恐怖を感じ、
「うわー食べられるー!」
とパニックに陥った。
しかし、ケラプは冷静に
「お怪我は、大丈夫そうですね..」
と言い、ライトを優しく椅子に座らせた。
その意外な優しさに、ライトは戸惑いながらも
「あ、ありがとう」
と小さく感謝の言葉を返した。
「それではごゆっくりと..」
ケラプは去っていった。
待ちに待ったアップルパイが二人の前に置かれた時、
部屋は甘美な香りで満たされた。
パイはまるで太陽のように輝いており、その見た目だけで食欲をそそられた。
「これは、すごいな....」
村田の声は驚嘆に満ちていた。
彼の目は、目の前のアップルパイに釘付けになり、その美しさに心を奪われていた。
「こんな食べ物初めて見たよ..」
ライトが目を輝かせながら言った。
彼は少し震える手でフォークを取り、期待と緊張で息を呑んだ。
そして、フォークがパイの中に沈む瞬間、ザクッという音が心地よく響いた。
パイが割れると、その中からはさらに豊かなリンゴの香りとともに、
温かい蒸気が立ち上がった。
ライトは遠慮がちにフォークに乗せたパイの一片を口に運んだ。
その瞬間、彼の顔が驚きと歓喜で照らされた。
「リンゴの甘酸っぱさと、クラストのバターの風味が完璧に調和してる..それに、中のフィリングはとろりとしていて、口の中でゆっくりと、まるで夕暮れ時に沈む太陽のように溶けるんだ...」
ライトが興奮を抑えきれずに言った。
「すごく美味い..んだな、それだけはわかった」
村田はライトの反応を見て、少し笑みを浮かべたが、
好奇心に負け自分も食べてみることにした。
フォークを手に取り慎重にパイを切り分け、
一口食べると彼の目が輝き、味わい深い表情を浮かべた。
「リンゴのフレッシュな甘さとスパイスの効いた風味、それにサクサクとしたパイ生地が絶妙にマッチしている。なんて素晴らしいバランスなんだ..」
村田の声は感動に満ちており、彼の食レポにライトも笑顔でうなずいた。
二人はしばらく言葉を交わさず、ただその絶品のアップルパイに魅了され続けた。
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