ゲノム～失われた大陸の秘密～

第16話_カイン

「カイン？男性の名前を知っているんですか！？」

村田の声には、新たな情報に対する驚きと興味が満ち溢れていた。

グレイスは一瞬の沈黙の後、重い心で頷いた。

「二人とも、私がメガラニアで働いていたということは知っていますね？カインはそこの職場の同僚でした」

と静かに語り始めた。

彼の声には、過去を振り返る時の微かな哀愁が感じられた。

「..彼は天才でした。もし闇に手を染めなければ、大陸一の医者となっていたことでしょう」

と続けると、グレイスの瞳にはかつての同僚への尊敬と、

彼の選んだ道への悲しみが浮かんでいた。

深く息を吸い込み、

「莫大な金を受け取ることを条件にリベルタスと裏で手を組んでいたのです」

と言葉に力を込めた。

グレイスの口調には、かつての信頼を裏切られた時の衝撃と怒りが色濃く反映されていた。

リベルタスはアドリア大陸から脱出することを目的とした過激派集団のことだと過去にグレイスから聞いたことがある。

「そのことを知った私は失望し、国から離れこの街に流れ着きました」

と静かに付け加えた。

その言葉からは、過去の決断に対する確固たる意志と、新たな人生を歩み始めた時の覚悟が感じられた。

グレイスはライトを真っ直ぐに見つめ、

「自分の過去を知る旅において、リベルタスとの接触は避けられません。それでも、行くのですか？」

と深刻な口調で問いかけた。

彼の目には、ライトへの深い心配と決意を尊重する覚悟が映っていた。

ライトは一瞬ためらいながらも、決意を新たにして

「..正直グレイスと別れるのは寂しい..けど、それでも知りたいんだ、僕が生まれた理由を」

と力強く答えた。

彼の言葉には、自分の運命を探求する強い意志と、

グレイスへの深い感謝が込められていた。

「それに、僕はカインさんから何かを託された気がするんだ、まだ何かはわからないけど、その何かを果たすためにね」

とライトは続け、その瞳には使命感と決意の光が輝いていた。

グレイスはライトの言葉に心を打たれ、

「....わかりました、あなたは自分の意思を貫き通す、そんな子でしたね」

と優しく微笑んだ。

その微笑みには、ライトへの無償の愛情と支援の約束が込められていた。

「ですがライト、魔法の才能があるにしても君はまだ10歳の子どもです。一人では行かせられません」

その言葉には、ライトを守りたいという切実な願いが込められていた。

「そこで村田さんにお願いがあります、ライトの旅に同行してもらえますか？」

グレイスがこの重要な頼みごとを切り出すと、部屋の空気が一変した。

彼の眼差しは村田に向けられ、その中には切実な願いと、彼への信頼が溢れていた。

村田はその突然の提案に少し戸惑いを隠せず、驚きのあまりしばし言葉を失った。

「俺、ですか？」

彼の声は上ずり、一瞬その場に固まったように見えた。

しかし、彼の目は徐々に決意の光を帯び始め、ライトを見ると、

少年の期待に満ちた瞳に心を打たれた。

グレイスは優しく微笑みながら、さらに言葉を続けた。

「本当は私が付いていきたいのですが、もう歳ですからね..診療所の事はご心配なさらないでください」

彼の声は少し寂しげで、手は自然と自分の膝に落ち、歳月の重みを感じさせた。

そして、グレイスは村田の目を真っ直ぐに見つめ、

「旅の最中、困難に直面することがあるでしょう。どうかライトを導いてあげてください」

と心からの願いを込めて頼んだ。

少しの間考えた後、村田は深く頷き、新たな役割を受け入れる覚悟を決めました。

「わかりました、ライトの事は任せてください」

彼の声は固い決意を含んでおり、ライトへ向けた笑顔は、

これから始まる冒険への期待を物語っていました。