第28話:おもちゃ箱にさようなら、次は素敵なお茶会へ
『スフィアも幻灯機を使うといい、ほしいおもちゃがなにかあるなら、それをお礼に君にあげられるから』
《星》のコアは、私にもそんなことを言ってきた。だけど……
「うーん、でも私は特に欲しいものとか無いんだよね。ある意味ではここにあるおもちゃ全部ほしいくらいなんだけど」
『子供の頃に遊んでいたおもちゃとか、ほしかったおもちゃとかないのかい?』
「私記憶が無くて。正直どんなもので遊んでたとか、何が好きだったとか全然わからないんだよね」
『そうか、それはわるかった』
《星》のコアに謝られてしまった。少し申し訳ない気分になる。
「なら、その無くした記憶を探るために、幻灯機を使ってみるってのはどうだい? なにかヒントくらいは出てくるかも」
キズナの提案になるほどと思った。
「頭いいね、キズナ。それ採用」
「どういたしまして」
私は、キズナから幻灯機を受け取ると、ハンドルを回し始めた。普通であれば、ここでフィルムが生成されて、私の過去の映像が流れるはず。
「……でないね」
しばらく回し続けていたが、なにも映像は投影されなかった。それどころかこれまで出ていたようなフィルムもできあがってこない。
壊れてしまったのかと、他の人にもう一度試してもらったが特に問題は無いようだった。
私だけ過去が見られない?
「やっぱり記憶が無いと、使えないのかな」
少しだけさみしい気持ちになった。
『わからない。でもひょっとしたら、スフィアは過去にほしいものや無くしたものが無かったのかもね』
「……うん、そうかもね」
私はそう思い込むことにした。実際欲しいものがあったわけではないのでいいのだが、記憶に少しだけ期待したので、残念さは残った。
『ひょっとしたら、スフィアは記憶が無いんじゃなくて……』
《星》のコアがつぶやくように何かを言っていた。私にではなく独り言のように。私はなぜかそれを聞かなかったことにした。その方がいい気がしたから。
『じゃあ、スフィアには代わりにこれをあげるよ』
そういって《星》のコアがくれたのは、ちょっと厚みのある板で、表面はガラスのようになめらかだ。横には少し出っ張りがある、ボタンだろうか。
「これは?」
『《星声の変換器》。通話機だよ。翻訳機でもあるかも」
「翻訳機?」
『うん、さっきスフィア以外の人にはぼくの声が聞こえなくて不便だったでしょ。だからぼくらの声を聞こえるようにする通話機をつくってみた』
「ありがとう! それすごい便利! だって、前回も今回も私だけしゃべれるから、みんなに不思議な目で見られるんだもの」
『保証は出来ないけど、他の《星》のコアと話す機会があったら使ってみるといい。こんなのでよかったかな?』
「うん、ありがと。最高のお土産だよ」
キズナにもこのことを伝えると、ひどく驚いたようだ。
「いいや、ちょっとこれはありがたいけど万能すぎない? おもちゃってなんでもあり?」
そう言いながら、説明された使い方で《星声の変換器》を起動している。
『おもちゃは常に進化しているんだ。おもちゃかそうでないかは遊ぶ人の心が決めるんだよ』
「うわ、聞こえた!」
キズナが心の底から驚いているのが面白い。
私はくすっとこらえきれずに笑う。
「スフィアはこんなことをやってたのか」
笑ったことに突っ込みすら入らない。よほど驚いたんだろうなあ。
「うん、話が出来るって素敵だよ。次の機会があったら使ってみよう」
「《星》のコアなんて気軽に話すものでは本来無いんだけどなあ……とにかくありがとうございます」
「うん、ありがとう。うれしかった」
『ああ、君たちの旅がおもちゃのように楽しさにあふれたものでありますように』
私たちは《星》のコアにさようならをいって、博物館の地下をあとにした。
「案内ありがとうございました。とっても楽しかったです。どのおもちゃも最高でした」
私は出口まで見送りに来てくれたトイロ館長にお礼を言った。
「いえいえ、楽しんでいたなら何よりです。それに、スフィア様にはこの《星》をよりよい形に進化させてもらいました。こちらこそお礼を言いたいくらいです。これからこの《星》はもっと、人の求めるおもちゃで楽しんでもらえる博物館になるでしょう」
私とトイロ館長はお互いに笑顔を交わし合った。トイロ館長の横には、シークさんが見送り側として立っている。
「シークさんはここに残るのでしたよね」
キズナの言葉にシークさんが深く頷く。
「ああ、俺はここに残って働こうと思う。大切なおもちゃを見つけてもらった恩もあるし、おもちゃの楽しさを俺も伝えてみたいから」
その顔に迷いは無い。心から居るべき道を見つけたという雰囲気を感じた。
「これからもっと賑やかになりますよ。期待しています」
「ええ、頑張ります」
トイロ館長とシークさんは意外にいいコンビかもしれないなと思った。
「それじゃ、そろそろいくよスフィア」
「うん、名残惜しいけど、またきます!」
「是非おいでくださいませ、またおもちゃの《星》のおもちゃ博物館へのお越しをお待ちしております」
トイロ館長のうやうやしいお辞儀とシークさんの振る手を見て、私たちは博物館をあとにした。
私たちは再び星間列車の『おもちゃ博物館』駅まで戻ってきた。
振り返ると博物館はとても小さく見えたが、その中には計り知れない大きな楽しさが詰まっていたことを今の私は知っている。
「さて、この《星》でのツアーは終了だ。今回も報酬をもらうとするよ」
そういうと鞄の中から、2度目となる《
もう勝ってはわかっているので、ギフトボックスを手に、目を閉じこの《星》の楽しかった出来事を思い出す。
たくさんのおもちゃに感動した最初。
人形や模型の精巧さに心打たれた。
積み木やブロックで作る楽しさを堪能した。
コマやパズル遊ぶおもちゃに熱中した。
そしてボードゲームは一人では出来ない頭を使う嗜好の遊戯を同行者と楽しめた。
そしてなにより、また《星》のコアと会えた。お話が出来た。失われた過去を見てそれを取り出せる幻灯機の不思議さ、おもちゃに感動する人の姿。きっとどれも一生忘れない。
これからの《星》でもこう言う体験が出来るのだろうか。
そんなことを考えていると、私の中からまた
暖かい何かが湧き出てきた。前にも感じた思い出のあたたかさだ。
思い出が作り出す強いエネルギーは、光となってギフトボックスに吸い込まれていく。
目を開けると、ギフトボックスの半分より少し少ないくらいに紫から濃い青にゆらめく液体がたまっている。
「ありがとう。前と同じかそれ以上か。本当に楽しんでもらっているようでうれしいよ」
キズナの言葉はどこか素直だ。
キズナが手に入れたブリキのおもちゃは、大切そうに鞄にそっとしまわれたのを私は知っている。きっと今回は私だけじゃなくて、キズナも楽しんでいるはずだと思っていた。
「うん、楽しかった。前みたいな冒険もいいけど、今回みたいな施設観光も素敵だね。方向性が違ってよかった」
「それはなにより」
私たちはチケットを買い、星間列車に再び乗り込む。少し慣れてきて落ち着く場所になってきた列車が、発車のベルとともに輝き揺れ、急加速していく。
私たちはまたこの《マボロシの海》を行く流れ星になっているんだ。不思議だけど、とってもファンタジーで冒険で、わくわくのある旅。
移動の余韻が、これまでの旅を振り返る余裕をくれる。思い返す旅に自分の中で少しずつ昇華されていくんだろう。
そして、今回も素敵な思い出とともに手に入れたお土産一つ。トランクは少しずつ思い出で価値を増していく。
ああ、旅ってなんて素敵なんだろう。
「キズナ、それで次はどこにいくの? これだけ楽しいところを立て続けで次も大丈夫?」
冗談交じりに言う。
「もちろん、これからのツアーも方向は違えどもっと楽しいところだらけさ」
「それは素敵ね」
「とはいえ、次はツアー全体としては少し休憩的。中休みと言ってもいいかもね」
「休みなんていいよ。もっと激しいところだって問題ないからね!」
「さて話を聞いても、そんなこと言ってられるかな?」
キズナはニヤリ。
「どういうこと?」
「次の旅の場所はね……」
「うん、どこ?」
「お茶会の《星》さ」
「お茶会の《星》!? 何それ素敵! おいしいお茶とかお菓子とかを楽しめる《星》なの?」
「その通り、ここまでは《星》の願いの作るアトラクションや形を楽しんだから、次の《星》では食事と流れる時間を楽しんでもらうよ」
「わあ、素敵! いってみたい。じゃ、決定! 次はお茶会の《星》へ!」
お茶会の《星》。
どんな楽しい時間が楽しめるのだろう。
おいしいお茶、おいしいお菓子、楽しい会話と時間。
きっと想像を遙か超えてくるのだろう。
そんなことを思いながら、私は列車の振動の中でまどろみの中に落ちていった。
きっとまた愉快な夢を見るのだろう。
おもちゃの《星》は夢の《星》
子供のころの楽しさと、大人が思う憧れと
遊ぶ楽しさと思い出の浸る心がつまった
楽しい楽しいおもちゃ箱
ただ遊んで心を解放しても
自分の世界を作るもいい
ああ、なんておもちゃは自由なんだろう
無限の形
無限の遊び方
あの楽しさの中に
人が大切にしたくなる何かがあった
きっとおもちゃは楽しさを閉じ込めた記憶の箱
いつか、いつでも箱を開ければ
その楽しい時代がそこにある
きっと私にもいつか
そんなときが来るといいな
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