第56話 味噌漬け
小皿に生成された味噌をじっと見た私は、ゆっくりとそれを指の先につけてそれを口に運んだ。
「んっ、美味しい。なんか凄いダシが聞いている気がするけど……」
指に付けた味噌を舐めてみると、塩味と甘みのバランスが絶妙な味噌の味の他に、昆布のダシのような風味が口の中に広がってきた。
あれ? 確か材料には昆布とか書かれてなかったんだけどな。
「あ、これダシ入り味噌だ」
どこか懐かしさも感じると思ったら、これ実家で使ってるダシ入り味噌の味に似ているんだ。あくまで、似ているというだけで、こっちの方が品があって美味しいけど。
私の実家では、味噌汁とかを作るときいつも入れる調味料は味噌だけだった。ダシを取らないのかと聞いたところ、母親がダシも入っている味噌もあるのだと教えてくれた。
そうだった。そういえば、想像した味がダシ入り味噌の味だったんだ。
「でも、ダシが入っているだけお得かな? 美味しいし」
そんなことを考えながら、私はもう一口だけ生成されたダシ入り味噌を口に運んでいた。
今回は魔力よりも味の再現にこだわった結果、意図せずダシ入り味噌ができたってことだろう。
実際にイメージしたのがダシ入り味噌だったわけだし、完成品がダシ入り味噌になるのも納得だ。
別にダシが入っていて困ることはないし、問題ないだろう。
念のために確認しておこうと思って全知鑑定を使用すると、先程まで味噌の材料が書いてあった画面が別の文字を表示させた。
【魔法の合わせ味噌……日本の合わせ味噌模して作った物。付与効果 治癒魔法小】
よっし、鑑定結果特に問題はないみたいだ。
今後はこの味をベースにして、色んな魔法の付与を考えても面白いかもしれない。
まぁ、それは今後考えていくことにしよう。
とりあえず、これで準備は整った。
さて、ここからは料理の時間だ。
まず初めに、ボアポークのお肉を厚さ1cmほどのサイズで切る。そのお肉に筋切りをした後、次は味噌漬けの味噌のソース作りに移る。
本当は玉ねぎとかショウガとかあれば良かったんだけど、今回はそれらがないからシンプルにいくことにする。
小皿に生成した味噌、生成したみりんとお酒を2:1:1くらいの割合で入れて、そこに砂糖を少々加えてよく混ぜ合わせる。
その混ぜ合わせた味噌のソースをボアポークのお肉に塗って、その上から余ったソースを上からかける。
ちゃんとお肉が味噌に漬けられているのを確認したら、後は一時間ほどその状態で放置して、味噌の味が染み込むのを静かに待つ。
ここは早く焼いて食べてしまい気持ちを抑え込むのが重要なのだ。
堪えた分だけ、ちゃんと味噌の味がお肉に染みてくれることを私は知っている。味噌漬けは、漬けた時間を裏切らないものなのだ。
そして、一時間ほどが経過したら、味噌がついた状態のお肉を油を引いたフライパンへ優しく投入する。
弱火で少しだけ焼いたら、蓋を置いて蒸し焼きにする。焼き加減を見ながらお肉に火が通ってきたなと思ったら、蓋を外して火を強めてしっかりと焼いていく。
フライパンに付いた味噌のソースが沸々となっているのを眺めながら、裏面に焼き色と味噌の焦げが付いたらひっくり返して、同じように火を通していく。
最後に両面をしっかりと焼いて、フライパンに付いているソースをお肉に纏わりつかせたら、完成。
「『ボアポークの味噌漬け』、完成」
程よく焦げた味噌の香りが厨房に広がり、それだけで食欲を強くそそってくる。
これは食べなくても分かる。……美味いやつだ。
私は人数分焼いた物を皿に乗せて、ウキウキな気分でそれをエルドさんたちの元へと運んだのだった。
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