第54話 宿での食事

「なんか変に疲れました」


 結局、その日は馬車で行ける所まで行って、夜には街のエネストに入ったところで今日は止まることになった。


 馬車に座っていただけなのに、ずっとじっとしているというのも、それはそれで案外疲れるものだった。


 シキと一緒に走っていた方が疲れなかったかもしれないが、エリーザ伯爵の屋敷から来てくれた御者の人を驚かせないためにも、私は馬車の中で静かにしていたのだった。


 本日泊ることになった宿はエネストの中心から外れている田舎なのに、落ち着いている綺麗な宿だった。


 他にも安い宿もあったのだが、エリーザ伯爵の所の御者さんも一緒だったので、ある程度の宿に泊まることにしたのだった。


 ここで宿代をケチってポケットマネーにすることも考えたが、さすがに印象が悪いだろう。


 それに、エリーザ伯爵から貰ったお金はあくまで旅費と滞在費。この旅の中である程度は使わないと、エリーザ伯爵にも失礼だろうという話にもなったのだった。


 御者の方が宿の手続きまでしてくれるのを少し遠くで見ていると、宿の店主の年配の女性と話していた御者の男性が私たちの方にやってきた。


「ご飯はこの宿で食べることもできるみたいですけど、どうしますか?」


 どうやら、素泊まりか外で食べるか選べるタイプの宿らしく、私たちがどうした以下の確認に来てくれたみたいだった。


 なんだか今日はエリーザ伯爵の屋敷を出てからずっと動いてないし、何かしらしたい気分だし、このまま宿で食べて寝るのはつまらない。


 かといって、外に食べに行っても多分シンプル過ぎる料理しかないだろう。


 そう思った私は、御者の男性の奥にいる女将さんらしき人と目を合わせてから口を開いた。


「あの、厨房を借りることってできますか?」


「ん? ああ、厨房を貸すくらいなら全然構わないよ」


 女将さんは私と目が合うと、口元を緩めた優しい表情を浮かべてた表情でそんな言葉を言ってくれた。


「何か作ってくれるのか?」


「はい。少し元気が有り余っているので、何か作ろうかと」


 ずっと馬車に乗っていたので、少しぼーっとする感じがする。料理でもすれば、そんな気持ちを多少は晴れるだろう。


 そう思った私は、厨房を借りて料理をすることにしたのだった。


 これは別に、食事代をケチるとかそんなんじゃない。


たまたま最近暇をしていたシキが狩りをしてきた食材がアイテムボックスにあって、たまたま私が調味料を生成で来て、たまたま料理ができる環境だからしようと思っただけ。


 そう、だから食事代をケチるとはそんなことではないのだ。……うん、たまたまなのだ。


 私は誰に言うでもなくそんな言い訳を胸の中で独り言のように言いながら、女将さんに案内されて厨房へ向かったのだった。

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