ハクスラゲーム転生

止流うず

001 自主的追放 Ⅰ



 かつて遊んだゲームの世界に転生したらどう思う?

 たくさん遊んだ。それこそ毎日毎日連日連夜永遠と思えるほど遊んだゲーム。

 当時の最新VRRPGだった。

 MMOじゃない。オフライン環境ゆえの時間加速最大100倍機能までついたゲーム。

 100倍の時間ですら遊びきれないほどの超濃密な世界観。

 世界の住民は全て最新AI搭載のNPC。

 嗚呼、懐かしきは五感すべてを使って、遊び、堪能し尽くした新しい世界。

 夢中になって遊んだ。何度も何度も遊んだ。あらゆるルートをクリアし、職業を変えて繰り返し遊んだ。個人が作った追加MODを導入してさえ遊んだ。

 攻略サイトの運営メンバーにもなった。

 ゲームに存在するあらゆる要素を収集して記録して世界を知り尽くした。RTAに挑戦したりもした。

 なぁ、そんなゲームの世界にやってこれたら、どうする?

 喜ぶ? 楽しむ? 得意満面にあらゆる知識を試してみる?

 俺か? そうだな。俺なら……――


                ◇◆◇◆◇


 故郷の村から一番近い位置にある、ここ近辺では一番大きな都市である城塞都市エグセス。

 そのエグセス内にある冒険者ギルドのロビーで俺たちは喜び合っていた。

「おお、これが冒険者証か! やったぜ! みんな!!」

 故郷の村の村長の息子にして『勇者』のブレイズが手に持った冒険者証を掲げ、喜びの声を上げれば、それに対してパーティーメンバー全員が喜びの声で応える。

 その中には俺もいた。

 皆からは少しだけ離れているけれども。


 ――それは俺が仲間たちの中で一人だけ『職業』が弱いとされていたからだ。


 この世界では、十五歳になると教会で聖職者から『職業』を授けて貰う。

 『職業』とは、スキルの取得や武器への適正などをただの人間に与える力のことだ。

 『職業』を与えられた人間は、この世界に蔓延る人類の天敵種たる『魔物』と戦えるようになる。

 それは子供から大人になる儀式。一人前、という奴だ。

 そうして『職業』を得て村から街へと移動できるようになった俺たちは、この城塞都市へとやってきた。


 ――冒険者になり、一旗揚げるために。


 村に縛られて一生を終える。それを回避するためにだ。

 そうして冒険者ギルドで見習い未満として登録をし、一週間程度『初級冒険者訓練』という名前の、剣の振り方だの森での活動方法だの野営の仕方だののやり方を先輩冒険者たちから手取足取り習って、簡単には死なないことを確認されてからようやく『見習い』としての活動を許されたわけだ。

 だから冒険者証を貰ったと言っても、まだまだ一人前の冒険者として扱って貰うには月日はかかる。

(それに俺はこのあともう一仕事する必要があるんだけど……ああ、面倒だ)

 生まれたときから一緒に過ごしてきた彼らと別れるのは多少憂鬱になるが、俺の目的・・のためには仕方のないことでもあった。

「さぁ! 俺たちの伝説の始まりを祝って、宴会でもしようぜ!!」

「えぇ……お金まだあったかなぁ」

「コットン! 盛り下がること言うな! 稼げばいいんだよ! 稼げば!!」

 昔からなんの根拠もなく大言を吐く癖のあるブレイズが仲間であるコットンにオーバーなリアクションで対応している。

 ブレイズの言葉は、昔はただ大声で喚くだけのものだったが、職業付与の儀式でこの世界における最優の前衛職『勇者』を引き当ててからその言葉には多少の現実味が伴うようになっていた。

(ただ、勇者はステータスのCHAみりょくを上昇させる効果があるスキルを覚えるからそのせいかな)

 ちなみに、この世界の『勇者』に『魔王』討伐の義務などはないが、『勇者』ほどに将来性のある職業を手に入れられると国やギルドから税金や施設の利用などに多少の優遇を受けられたりする。

 当たり前だがこの世界で良い職・・・というのは善きもの。善きものを授けられた者は善き人とされるものなのだ。

(逆に言えば、性能の低いものは悪いもので、それを授かった人間は悪い人間ってことになるけど)

 俺の現状・・は前世を得ているからゆえの怠慢というべきか、俺が職業に対する世間の目をあまり意識しすぎなかったせいで起きている自業自得でもあった。

「ほら、行くぞ行くぞ!! みんな! ついてこい!!」

 俺が考え事をしている間にコットンとの言い合いを終えたブレイズが先に立って歩いていく。

(ブレイズ……お前は――)

 俺はあまりこのブレイズという同年代の少年が好きではなかった。

 だが、この大言を間近で聞くのもこれが最後だと思うと少しの感傷に浸らされる気がして、感慨深くなる。

「宴会! 宴会! 宴会だー!!」

「ちょっと、ブレイズ。うるさいわよ」

「少し黙ってほしい」

 ブレイズと俺、コットンを含めた他三人の仲間はギルドのロビーから併設された食堂へと歩いていく。

 騒いでいるブレイズだが、周囲から向けられる視線は厳しいものではない。

 それもそのはずだ。ギルドの食堂には俺たちと同じように、近くの村から出てきた連中が同じように初級訓練を終え、冒険者としての門出を祝うべく宴会をやっているからだ。

 普段はギルドで威張り散らしている先輩冒険者たちも今日ぐらいは俺たちド素人の見習いをいい気分にさせてくれるつもりなのか、ギルドの隅に数人いて、暴れそうな見習いどもを注意しているだけだった。

 そうして皆で席につけば、ブレイズは酒場のメニューを見ながら機嫌良さそうに笑い、それに釣られて皆が笑う。

 俺はブレイズの隣に座ったコットンを見た。

 俺の彼女。恋人。将来を誓いあった愛すべき女。

 彼女は俺ではなく、ブレイズを見ている。ブレイズを見て、仕方ないなぁと笑っている。

(そうか。そうだよな)

 これはもう、しょうがない。

 職業選択を間違えたのは、俺なのだから……――しょうがない。


 ――さぁ、言うぞ・・・


「ああ、ちょっと待ってくれブレイズ」

「あん? なんだよエド。話ならエールを頼んでからでも」

「いろいろと悩んだんだが、パーティーを抜けさせてほしい」


 そうして、しん、と音が消えた。


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