第漆話 新潟二泊 (前編)

 国鉄ホテル新潟駅 3301号室 5月12日 06:00 


「ん~…ふわぁ…」


 …ここは何処だ?

 ……あぁ、そういやアイツ紫雲が車で長岡に行くとか言ってたな。

 じゃぁここは長岡なのか?

 にしても、豪華な部屋だなぁ。

 …服、外行きの服のまま寝たのか。


「んふふ~…」


 彩華は隣で気持ちよさそうに寝ている。

 頭を撫でると更に笑顔になった。

 可愛い。


「外は…あぁ、凄い雨だ」


 彩華が起きない様に、リビングのテレビを付ける。

 音量は出来るだけ小さく。


〈新潟地方気象台、午前6時発表。新潟県全域に大雨暴風警報が発令されています〉


 こりゃ道路も封鎖されてるなぁ…。

 今日は帰れねぇな。


〈現在、避難指示が出ている地域は以下の通りで―――〉


「ってかココ何処なんだ」


 俺はインフォメーションブックを探す。

 そこにホテルの名前が書かれてるはずだ。


「あったあった」


 インフォメーションブックは金庫が収納されている収納の上にあった。

 それを手に取り、ホテルの名前を確認する。

 国鉄ホテル新潟駅前、ココは新潟なのか。


「にしても…良い部屋とったな、アイツ」


 そうだ、もう1泊するって電話しないとな。

 俺は電話を手に取り、フロントに掛ける。


「12番っと…」


 内線はすぐに繋がった。


『はい、フロントでございます』


「今日、もう1泊したいんですけど」


『延泊ですね、少々お待ちください』


 このままこの部屋に泊まれたら良いのだが。

 移動するとなったら面倒だ。


『お待たせしました、本日もそちらのお部屋は空いておりましたので、そのままお泊りいただけます』


「分かりました。支払いはどうすれば?」


『お帰りになられるまでにフロントでお支払い下さい』


「分かりました。今から行っても大丈夫ですか?」


『はい、構いません』


「ありがとうございます」


『では、失礼します』


 良かった、移動しなくて済みそうだ。

 さて…払わねぇとな…。


「クレカ…クレカ…」


 机の上に置いてあった俺のクレカを持って、フロントに向かう。

 一応現金を持って行こう、クレカが使えなかったら困る。

 あ、鎮守府にも連絡しねぇと…。



 3301号室 06:15

 無事に延泊料をクレカで払う事が出来た。

 朝食付きで12万4100円、高けぇ。

 鎮守府にも連絡したから、これで心置きなく過ごせる。


「ってかこの臭い…風呂入ってねぇな…昨日」


 さっさと風呂入るか。

 臭う状態でレストランには行きたくねぇ。


「部屋に風呂あんの良いな~」


 彩華はまだ寝ている。

 机の上には飲みかけの日本酒があった、多分酔ったんだろう。

 アイツ紫雲が飲ませたんだろうな、絶対。


「天気先に見とくか…」


 スマホで明日の天気を確認する。

 明日晴れるんかな…。


「明日はぁ…曇りか」


 曇りなら良い。

 雨でも道路が封鎖されなければいい。

 とにかく、帰れそうで良かった。


「さー、風呂入るかぁ」


 着ている服をベッドに脱ぎ捨てて、風呂に入る。

 わざわざ畳む必要も無い、どうせまた着るんだから。

 帰る時まで適当な場所に放置しとけば良い。


「よいせっ」


 風呂とトイレは一緒になっている。

 だが、それぞれすりガラスで出来た仕切りがある。


「窓もあるのか」


 外壁の部分が全て窓になっていて、景色を見ながら風呂に入れる。

 だが、今は雨が打ち付けられていて外が見えない。


「残念だな…まぁいいか」


 さっさと身体洗っちまうか、朝飯は10時までだったが、早い方が良い。

 後々なると混んで来るし、腹も減って来る。

 でも彩華を起こすのも悪いしなぁ。


「いいや、さっさと風呂入ろう」



 32分後… 寝室…


「はぁ~豪雨の中の風呂も面白れぇな~…あ?」


「あっ」


 風呂から上がると、私が脱ぎ捨てた服を彩華が着ていた。

 着ていると言っても、ダボダボだ。


「ダボダボじゃねぇか~可愛いなぁ~」


「えっと…その…」


 俺はあまりの可愛さに素っ裸で抱き着いてしまった。

 彩華は混乱してるがそんな事俺の知ったこっちゃない。


「し、紫風ちゃん」


「ほんっと可愛いな~彩華は~」


 綺麗な銀髪を撫でまわす。

 柔らかくてサラサラしている。


「ん~良い匂いっ!」


 思わず彩華の髪を嗅いでしまった。

 いつもなら彩華は胸に顔を擦り付けてくるはずだが、今回は擦り付けて来ない。

 動揺してるのだろう。


「可愛いなぁ…ホント…」


 ショートしている彩華を愛でていると、外が光り、落雷が発生した。


「ひゃっ!?」


 驚く彩華。

 彩華は昔から雷を怖がっている。

 これは昔のトラウマが元凶である。


「うぅ…」


「大丈夫だ、俺が居る」


「…うん」



 数分後

 彩華が着ていた俺の服を再度着用。

 朝食会場へ向かう。

 朝食は2種類、ビュッフェか和定食。


「彩華」


「ん?」


「和定食かビュッフェ、どっちがいい」


「和定食!」


「OK」


 どちらも最上階の34階、1つ上の階だ。

 にしても、新潟にこんな物建てて儲かってんのか?

 東京にもっとでけぇの建てた方が儲かるだろ。



 数分後 34階 レストラン下越


「やっぱイイとこだから飯うめぇなぁ…」


「天気は最悪だけどね」


 飯は最高、天気も良けりゃ満点だったんだがな。

 人間に天気は操れない。


「ま、こんな日の方が珍しいだろ?」


「それもそうだね」


 打ち付ける雨があまりにも激しいので、窓からは何も見えない。

 見えるのは雨水のカーテンだけだ。


「…なぁ、昨日の晩飯何食ったんだ?」


「私は海鮮丼、紫雲ちゃんはお刺身」


「ほーん」


 身体は夜と朝続けて魚って事か。

 まぁ、身体は同じでも俺とアイツは違うから大丈夫だ。


「鮭…朝飯の定番だよなぁ」


 焼き鮭に白米、味噌汁、それと適当な1品。

 これだけありゃ十分だ。

 だが、流石は国鉄ホテル。

 良く分からない1品が沢山付いてきやがる。

 まぁ、美味いから食うけど。


「朝は素朴で良いんだよ…こんなに多くなくていいんだよ…」


「でも食べてるじゃん」


「そりゃ美味いうまいからな、食うに決まってる」


「ふーん」


 折角朝飯がプランに入ってるんだ、食わなきゃ損だ。


「ごちそうさま」


 食い終わった。

 明日はビュッフェにしようかね…いや、彩華の気分次第だな。


「美味しかった、ごちそうさま」


「おう、じゃ、部屋戻ろうか」


「うん」


 朝食を食べ終え、部屋に戻った。

 部屋は朝食中に整備されており、荷物はそのままだがベッドシーツが新しい物に交換されている。


 彩華は部屋に帰るなりベッドに飛び込んで行った。

 俺もそれに続いてベッドに飛び込む。


 テレビは相変わらずだ。

 この大雨の事しか言っていない。

 ニュースしかやっていないし、ニュースがやってない時間は定点カメラの映像が垂れ流し続けられている。


「しょーもねーなー」


「仕方ないよ、こんな大雨だもん」


「ちぇー」


 俺は立ち上がって、インフォメーションブックを手に取る。

 何かおもしれーモンはねぇかな~。


「Wi-Fi…モーニングコール…ん~…お!」


 衣服の洗濯。

 服を洗濯して、乾かしてアイロンもしてくれるらしい。


「なぁ、彩華。服洗いたいって思ってねぇか?」


「うん!洗いたーい!」


 ベッドでゴロゴロしている彩華。

 可愛い、めっちゃ可愛い。


「洗ってくれるらしいぞ」


「えぇー!便利ー!」


「んじゃ、頼むぞー」


 数分後… 

 玄関のチャイムが鳴る。

 まるで家みたいだ。


「はーい」


 俺と彩華が来る時に来ていた服を洗ってもらう。

 部屋にあったカゴに服を入れて、来た人にそれを渡す。


「お洗濯物を受け取りに参りました」


「ありがとうございまーす」


 カゴを受け取ると、礼を言ってすぐ帰って行った。

 礼を言うのはこっちの方なのにな。


「やっぱズボンの方が落ち着くな」


 俺はヒラヒラしたスカートはあんま好きじゃない。

 だが彩華はスカートを履いている姿があまりにも似合っているらしく、俺は彩華に言われるがままスカートを履いている。


「ねぇねぇ紫風ちゃーん」


「ん?何だ?」


 彩華が貸し出し用のPCで何かを調べている。

 何かの会社のホームページか?


「さっき着てた外行きの服って何処で買ったんだっけ?」


「あぁ、あれか?」


「うん」


「あれオーダーメイド」


「そうなの?」


「あぁ、親父が第一種軍装モデルに作ってくれた」


 親父が入隊祝いにあの服をくれた。

 モデルは第一種軍装だから、紺色に金色のボタン。

 ボタンには櫻と錨が描かれている。

 その上、肩に階級章まで付けられる。


「GSFってトコだ、親父の同級生がやってんだ」


「ジ、GSF!?」


「ん?どうした?」


「し、知らないの紫風ちゃん!?」


「な、何がだ?」


「日本製の最高級ブランド!高いけどめっちゃ人気なんだよ!」


「ほーん、そうなのか」


 そんな事はどうでもいい。

 まぁ、確かにあの服肌触りとか良いとは思っていたが。

 そんな良いブランドだったのか。


「あの服そんなイイ奴だったんだ…」


「んで、それがどうしたんだ?」


「わ、私も紫風ちゃんと同じブランドの服着たいな~って思って」


「ほーん、良いじゃねぇか。作ってもらおうぜ」


「えっ、でっ、でも…作るのは数年待ちだし…高いし…」


「金は俺が何とかするし、数年待ち何て、親父に頼めば1か月だぜ?」


「い、良いのかな…?」


「当たり前だろ、自分の親父だろ?」


「そ、それはそうだk―――」


 玄関のチャイムが鳴った。

 洗濯が終わるにしては早すぎるし、何だ?

 洗えねぇモンが入ってたのか?

 俺は部屋の扉をゆっくり開ける。

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