第13話 時を超えたパパ活

 目の前に、赤と黄色でオッドアイの女子がいる。


 立ったまま腕を組んだ、ブレザーとスカートの制服姿。


 黒髪ロングで、ご令嬢が普通のJKに成りきってみた感じだ。


「私は……あなたの娘です! 会いたかったですわ、お父さん?」


 向き合っている俺は、うなずいた。


 りょう愛花莉あかりと名乗った、俺の娘は――


「え? まさか、有亜ありあの!?」

「そうですわ!」


 冗談キツい……。


 確かに、目立つオッドアイだし、何となく親近感を覚える。


 だが!


「お母さんは、あり得ないですか?」


「初対面で、詩央里しおりじゃたないの? とか、最大でも小さいだの言ってきた奴に――」

 ブホッ!


 気分を落ち着けるためか、紙コップを口につけていた愛花莉は、噴き出した。


 ゴホゴホッと、せる。


「大丈夫か?」


 涙目になった愛花莉が、こちらを見た。


「え、ええ……」


 視線は、何があった? と言いたげ。


「お前の想像とは違うぞ? 単に、挑発されただけ……。未来のお前の事情を知らんから、何とも言えない! 知りたければ、戻ったあとで誰かに聞け」


「そ、そうさせていただきますわ……。しかし、お母さんにも良いところが――」

「グループ交際をすれば、憎まれ口を叩いた挙句に、俺の手首の関節を決めながら銃口を突きつける。さらには、自分が嫌だからと、俺を婚約者にして、面倒なお見合いから逃げたんだぞ、あいつ!」


 思い出したら、腹が立ってきた。


 口元をひくつかせた愛花莉は、顔を伏せた。


「……どうしても、嫌だと?」


「女が多すぎて、有亜を迎え入れる必要もない……。あいつは防衛省にいるし、魔法師マギクスとしても異色だ。あいつ自身に怒っているが、問題はそこじゃない! 室矢むろや家は、中央省庁に介入する余地を与えたくない」


 愛花莉はうつむいたまま、息を吐いた。


 上体を戻した彼女は、どこか吹っ切れた様子だ。


 さっきまでの有亜とよく似たシニカルな雰囲気が、消えている。


「では、最後に1つだけ、お願いを……」


「その前に、俺も聞きたい」


 愛花莉は、首を縦に振った。


 それを見た俺は、率直に言う。


「過去に戻ったことは、驚かない。だけど、俺が父親であるのなら、こうやって接触したうえに『自分は娘である』と明かすことで、未来が変わるだろう?」


 逡巡しゅんじゅんした愛花莉は、観念したように告げる。


「実はですね? 娘の私たちは、お父さんに会えなくて……。年末年始などの季節の挨拶を儀礼的にするだけで」


「え、そうなの?」


 笑顔になった愛花莉は、衝撃的な事実を告げる。


「はい! お母さん達が色々と理由を作って、お父さんと娘だけにしないんですよ。会う機会も数えるほど」


「……実の娘に手を出すと思われてんの!?」


 知りたくもない未来が!


 フォローするように、愛花莉が付け加える。


「なまじ知っているだけに、『もしかしたら』の考えがあるのでしょう」


 うへー。


「なので、お父さんの顔を見に来たんですよ? ろくに会えないから、ここで知られても大丈夫」


「その理屈だと、母親には――」

「秘密にしてくださいませ」


 考えをまとめるため、持っていた紙コップを口に運ぶ。


 残りを飲み干し、愛花莉を見た。


「それで、お願いは?」


「私とデートをしてください、お父さん!」



 ◇



「あれ?」


 隠れている梁有亜は、首をかしげた。


 片手で向けていた、先端にアンテナをつけたような形状のガンマイクを下ろす。


「おかしいわね? 待ち合わせだと思ったのにぃ……」


 駅前で誰かを待っていた、梁愛花莉。


 そこに室矢重遠しげとおがやってきて――


 気づけば、また愛花莉だけに。


 彼女も、どこかへ立ち去った。



「まだ、追いかけるの?」


 年下の親友である咲良さくらマルグリットの声に、有亜は振り返った。


「ええ! うちのキャンパスにいた怪しい人物だもの……。それに、あの子が重遠の毒牙にかからないよう、見張らないとぉ!」


 壁にもたれているマルグリットは、その巨乳を支えるように腕を組んだまま。


「ねえ、有亜? ……何でもない。とにかく、あの2人の邪魔はしないで」


「そうね……」


 マルグリットは、生返事を聞きながら、どこまで話したものか? と悩む。


 親友に無理強いをする気はないが、さりとて……。


「予想していたけど、監視がキツいわね! あの女子を見張っているのが、警察だけで2、3チームとは」


「東京で正体不明のMA(マニューバ・アーマー)が暴れ回って、与党のVIPが襲撃された……。直後に、この連続失踪事件よ? むしろ、穏便なぐらいだわぁ」



 世間話をするマルグリットは、室矢カレナの眷属けんぞくだ。


 それだけに、重遠が時間を止めて、有亜の未来の娘である愛花莉と話していたことも知っている。


 周囲をフレームワークのように把握すれば、日本警察だけではなく、密かに狙っていたスパイの慌てふためく様子が……。


 警察チームを盗聴する。


『室矢くんに接触しますか? ターゲットの顔を見ているはず』

『いや、ここではリスクが高すぎる!』


『慎重すぎでは?』

『俺たちが詰めよれば、どうせ消えた! 室矢を尾行しつつ、「梁あかり」と再び会ったら、その会話と行動パターンを分析する』


『彼女が出現しそうなのは、オープンキャンパスの次元振動研究室と、それだけ……。分かりました! 警視庁に連絡して――』


 八代やしろ沙矢さや吉見よしみの会話を聞いたマルグリットは、思わず呟く。


「好奇心はネコをも殺す、か……」

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