第4話 ストロベリーは食べごろになったー③

 4mのMA(マニューバ・アーマー)は、廃マンションの屋上に立つ天ヶ瀬あまがせうららを見下ろした。


 人間相手にはオーバーキールの弾丸が、次々に殺到。


 同時に、MAも突進。


 麗は、魔法による身体強化をしつつも、踏み込んだ床によるベクトル加速。


 突風となり、衝撃波だけで人がバラバラになる弾幕より先へ――


「うぉおおおっ!?」

「なっ……」


 ちょうど屋上に足を踏み出すところだった機動捜査隊の2人は、艦砲のような銃撃をすんでのところで回避。


 屋上のドアは、コンクリの破片を受け止め、代わりに殉職した。


 その衝撃で2人は逆再生のように吹っ飛ぶも、階段から落ちる事態は避けた。


 いっぽう、MAに銃撃されている麗は、コントの男2人を気にする余裕はなく、その理由もない。


 アサルトライフルで撃つも正面装甲に弾かれ、安全装置をかけた後にスリングで背中へ回した。

 新体操のように、両手で床を叩くように後ろへ飛び跳ねつつ、屋上の端から飛び降りる。


 ところが――


 チュイイン!


 独特の機械音と共に、パープルに塗装されたMAも追従。


 落下していく少女と、横で並んだ。


 巨人と目が合った麗は、思わず叫ぶ。


「えっ!?」


 従来のMAでは不可能な、まるで慣性制御をしているような動き。


 両手で構えたヘビーマシンガンの銃口が向けられる前に、麗は夕花梨ゆかりシリーズの権能である糸を切り替え、空中サーカスのように違う軌道へ。


 直後に、艦砲と同じ弾丸が通りすぎていく。


 振り子のように横へ飛んでいった麗が停車していた車のボンネットに叩きつけられるも、身体強化で耐えた。


 すぐに飛び跳ねて、汚い路地を走り出す。


 大きく凹んだ車両は、MAの銃撃で爆散した。


 機捜きそう2人は、捜査車両についての始末書が確定。

 いわゆる、コラテラル・ダメージだ。


 保険?

 戦争や紛争で効くわけないじゃん。



 ◇



 多くのモニターや装置がある、指揮車両の中。


 赤が入った、パープルの瞳。

 

 上品にウェーブする黒髪を持つ少女……。


 いや、美女になった悠月ゆづき明夜音あやねは、周りの女に押さえられていた。


「ご辛抱ください、明夜音さま!」

魔法師マギクスを向かわせていますので」


 ふぬぬ! と擬音がつきそうな明夜音は、興奮していた。


妹分いもうとぶんの麗が、命懸けで戦っているのに!」


 悠月家の私兵だけに、次期当主の明夜音が命じれば、動かざるを得ない。


 周辺を警戒しつつも、全員が気にする。


 テレパシーと同じ戦術データリンクで、咲良さくらマルグリットの声が明夜音の頭の中で響く。


『部下を困らせるのは止めなさい! 正体不明のMAを撃破したから、麗の援護に向かうわ!』


 それを聞いた明夜音は、ようやく落ち着いた。


「ごめんなさい……。メグが麗をフォローします。増援は戻しつつ、周囲の監視を続行しなさい! 警察と防衛軍、ならびにスパイ、反社会的な勢力をチェック」


「「「ハッ!」」」


 座っているオペレーターが報告する。


「該当エリアは、戦闘による被害が拡大中……。警察は与党のパーティーを襲撃された事後処理と、行方不明の外務大臣の捜索で、かなり混乱している模様!」


「配備は?」


 明夜音の質問に、オペレーターが答える。


「該当エリアの外廓がいかくに、機動隊を並べています……。不法滞在の外国人や反社が多いエリアだから、下手につつきたくないのでしょう」


「どっちみち、ウチで手こずるMAには、たった1機でも蹂躙じゅうりんされますね? 陸上防衛軍は、MAを出せず。警察のほうはゴム弾だから、軍用に役立たず」


 注目された明夜音は、指示を出す。


「警察や防衛軍が美味しいところだけ奪うのは、許しません! メグが破壊したMAをこちらで回収しつつ、残り1機も可能ならば……。抵抗する勢力は排除しなさい。敵の拘束は、MAパイロット2名だけ。それ以外は無力化」


 言外に、目撃した警察をやっても構わない、と告げた。


 ここで犯人を特定するのは、不可能だ。


「了解!」


 返事をした側近が、すぐ部隊に命じる。


 息を吐いた明夜音は、いよいよ室矢むろや家や自分の真価が問われる時期になったと緊張する。


 今の明夜音は、悠月グループや秘密結社の “Weisheitヴァイスハイト undウント Magieマギー(叡智と魔術)” の運営で、その資質を問われているのだ。


 真牙しんが流の派閥としても、役目を果たさなければならない。


 大学生になった明夜音は、モラトリアムを終えた。

 紫苑しおん学園の思い出と、室矢家でのきずなだけが頼り。


「明夜音さま! 警視庁の特殊ケース対応専門部隊から通信です」


「私が対応します。繋ぎなさい」


 渡されたヘッドセットをつけた明夜音は、オペレーターの合図で、口の前にあるマイクに触った。


「悠月です。……協力する気はございません。……私共わたくしどもは襲ってきた悪漢に自衛しているだけです。……せめて、警察庁にいる上級幹部(プロヴェータ)を出しなさい。では、失礼」


 マイクを触った明夜音は、外したヘッドセットを差し出す。


 近くで立つ者が、それを受け取る。


 一連の流れを見ていた人物は、母親の悠月五夜いつよさまに似てきたな? と感じた。

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