「サンダーバード」

手錠と腰縄をかけられ

荷物を持ち

移送当日である

新大阪で乗り換えるということは

故郷を通り過ぎるわけである

ひと目見ることができる

せめてもの救いだと

自分に言いきかせた

もう間もなく

王子保駅である

雷鳥はとんでもない速さで

通り過ぎた

まさに一瞬である

疾きこと風の如くである

感傷に浸ることも

いまのわたしには

許されないらしい

隣に座る職員に話しかけた

「島根の冬は寒いですか?」

「寒いね。島根あさひはとくに寒いよ」

「でしたら雪も積もるのですね」

「ええ。でも他の刑務所みたいに隙間風はないから

安心していいよ」

寒さが苦手なわたしは

少し気が楽になった

到着するまでのあいだ

その現実がまるで

夢か幻のようであった

ただ

お昼に頂いた鶏五目弁当は

じつに美味であった

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