死の妖精

 デスが俺に持ちかけたのはある種の協力関係だった。


 俺は彼女と行動を共にし、妖精の主な食糧である魔力を与える。

 そして彼女は、俺に戦う力をくれた。


 自分の死を怖がる俺を安心させる為の、ほぼ最強と言っても過言でない力を。


 「私の作った妖精剣はどう?」

 「……信じられない。刀身を当てるだけで相手を絶命させられる剣なんて」

 「死の妖精なんだもん。これぐらいは余裕だよ」


 彼女は俺の肩に乗り、自慢げにそう言った。

 俺の魔力を吸いながら、目の前のモンスターの屍を眺めては楽しそうにデスは語る。


 「やっぱり戦場は良いよね。常に死と隣り合わせ。私の大好きな匂いが充満してる」

 「どうして、そんなに楽しそうな顔が出来るんだ」


 鼻に突く鉄の匂い。

 さっきの戦い、少しでも判断が遅れていたら野垂死んでいたのは俺の方だったろう。

 そう考えるだけで気分が悪い。


 俺じゃない他の生物の死を見るだけで、自分が死んだ時の記憶が脳内で連鎖する。

 とても楽しそうに出来る状況なんかでは無いんだ。


 「花の妖精は何があろうとお花が大好きで、出来るだけ花を大切にする人間の傍に居ようとする。火の妖精は何があろうと火が好きで、出来るだけ火を大切にしようとする人の傍に居ようとする。他の妖精で言い換えたら想像しやすいよ」


 「お前は死の妖精だから、誰かの死を感じられる瞬間が好きって事か?」


 「そ~だよ。因みにオーガは『死の記憶』なんて本来ありえない記憶を持ってる。私にとって最上のパートナーなわけ」


 「何がパートナーだ。俺はお前みたいな奴とパートナーになる気は無い」


 ただでさえ、死に関連する情報なんて仕入れたくないんだ。

 こんな奴とずっと一緒なんて受け入れられるものか。


 「今はこうしないと俺が俺として生きていけないから協力関係を結んでいるだけだ。他の解決方法が見つかったらすぐにお前なんて捨ててやるからな」


 「いつになったら来るだろうね。私を捨てる時」


 デスは余裕そうにそう言うと、俺の首に抱きついてスリスリと体をこすりつけた。

 なんでも、死の匂いを強烈に感じられる最高のスポットらしい。


 「オーガが元々肉体派の人間でよかった」

 「なんだよ、いきなり」

 「流行してる魔法使い系の人間だと私の妖精剣は使いこなせないからさ。体が軟弱すぎてモンスターに刀身当てられないの」


 体の相性もばっちりだね、なんてねっとりと言うもんだから気持ちが悪いと切り捨ててやった。

 だけど、俺の言葉を異に返さずデスは俺の体をぺたぺたと触り、今日一日中俺の筋肉をほめちぎった。


 そんな彼女の言動は、ギチギチに閉まった心の扉の鍵をゆっくりゆっくりと開けられている様な妙な感覚があった。

 

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