第43話 幻か否か

「うん。車窓に叩きつけるくらいだったみたいだね」


 車窓に叩きつける程。それはよっぽどだな。豪雨警報が出てもおかしくない。


「ならやっぱり雨が降ったのは嘘だろう」


「どうしてそうなるのさ。目の錯覚とかじゃ済まされないんだよ?雨が降ったかどうかってのは」


「いや、雨が降ったら通常はどうなるか考えたらいい」


 窓の外を。見ているのでわからないが、恐らく首を傾げているだろう。


「この雨で電車が遅れたりするんだ。彼女が言う雨の強さはこれ以上だったんだろう。なら尚更、おかしい」


 俺は雨の音に耳を傾ける。そして1つ深呼吸をした。


「車窓に叩きつけるほどの雨なら、きっとヘリコプターは飛ばない。いや、飛べない」


 だが…


「でもどのみちおかしくない?」


 千春の言うことは、俺も考えていたことだった。


「雨が降っていたんだったらヘリコプターは飛ばないのはわかるんだけど、もしそうならまつりはどうなるの?」


 そう。祭りは開催されたことがおかしくなる。雨1つで狂わされる。祭りは雨が降ったら中止。雨が降っていたならヘリコプターは飛ばない。ただ相川が聞いたのはヘリコプターの音だった。実物を見たわけではない。子どもの時の話だ。子どもの耳がヘリコプターの音だと感じ取っただけ。

豪雨警報が出てもおかしくないほどの雨が降っても祭りは開催された。祭りが予定通り開催されたなら、雨が降ったことは嘘になる。そうすればヘリコプターの音を聞いてもなんら不思議ではない。


「なんかむずなってきたな」


 フラワーフェスティバルがあるのは5月のGW中。この地域では、というより、ほとんどの地域ではもう雪は降らない。いや…一応確かめてみるか。


「梶原、5月に雪が降る異常気象がこの地域であったのかどうか、調べてくれ」


「イエッサー」


 待つこと1、2分。


「そんなのはないね。何ならつばちゃんに朗報だ。フラワーフェスティバルのあるGWは、毎年のように晴天だったみたいだよ。雨が降った日は一度もないみたい。ただ何年か、2日前とか3日前に雨が降った事例はあるね」


 ほう、それは嬉しい情報だが…


「これで雨と雪が降ってないことが証明されたね」


 千春はどこか嬉しそうだ。まぁ、懸念点が1つなくなったのは嬉しいことだ。


「じゃぁ結局相川さんが見たのはなんやってん」


「そこだよね」


 千春のテンションが一気に上がる。2人で何やら盛り上がっているが、まぁ放っておいてもいいだろう。


「実はね、俺花粉症なんだよ」


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