第30話 不明な動機
保健室を後にした俺らは、梶原の忘れ物を取りに教室に1度上がった。どうやら筆箱を忘れていたらしい。東階段から降りて左手。突き当りの教室は美術部だ。中からは、笑い声や大きな声が聞こえてくる。ちらりと中を見ると、談笑している者が多く、うちの部活と同じような場所なのだなと少し仲間意識が芽生えた。
「美術部も賑やかだね」
梶原は美術部の前を通ったあと、そう口にこぼした。
「部員が多い分、賑やかだね」
「傍から見たら俺達もああいう感じなんやろか」
「なんか活動してるのかな」
千春の疑問には、誰にも答えなかった。答えなかったというよりかは、答えられなかったということに思える。もちろん、俺もそのうちの1人だ。
「まぁ近くになればわかるやろ」
「そうだよ。俺達も何するか考えとかないとね」
急ぐ必要も無いだろう。たしか文化祭は10月とかだったはずだ。
俺は少し部活の面々に見覚えがあって、一瞬立ち止まったのだが、その隙に3人は先に行ってしまったようだ。
「わお!入部希望者?!」
「あ、いえ。少し気になっただけで」
話しかけてきたのは、昼に学食で会ったあの人だ。席を譲るように促してきたあの張本人。それは向こうも気づいたようで眉が上がった。
「さっきはどうも」
笑顔で会釈をされたので俺も軽く会釈をした。
「美術部だったんですね」
「敬語いらないよ」
美術部員は、足元を指さして言った。なんのことかわからなかったが、要するにスリッパの色が同じだから同級生だよと言いたいんだろう。
「このチラシ、バラでないのか?一つ欲しい」
「あーいいよ。ちょっとまってて。中にあるから取ってくる」
明るい茶髪でお団子を作られると、俺みたいに鈍感でファッションに興味のないやつからすればただの飾り。殴られたり燃える覚悟でいうのならみたらし団子にしか見えん。
中に入っていったタイミングで俺も中を覗いてみた。楽しそうに談笑するグループが幾つか見える。その中には絵を描いている孤高の一匹狼もいるがとても集中できる環境ではないだろうな。
少し見ていると、奥からチラシを持ってくるお団子が見えた。流石に言ったら殺されるだろうな。
「はいこれ。興味あったらまた来てね」
「なーなーみー?ユイいたの?!」
「まだー!今から探しに行くの」
中から呼ぶのは、昼にお団子と行動をともにしているグループだ。あれ。あの場にいたのは4人じゃなかったか?ひとり足りない。あいつは美術部員じゃないのか?
「あの、ユイというのは」
「あー。部員なの。でも全然顔出さなくって。靴はあるから校舎内にはいるんだと思うんだけど。今まで1回も見つからなくて」
恐らく由依というのは、あの5人組のうちの1人。この部室にいない1人。
もしかして……
「そのユイ…ユイさんの髪って、このくらいのショート?」
俺は手を肩の位置に持っていき、長さを表した。どうやら全く違うらしい。笑いながら顔の前で手を振った。
「まさか!ロングだよ。腰くらいまで伸びてるの。会ったときはまだ短かったけどね」
短かった…今俺が示したくらいだろうか。
あの保健室にいた奴ではないのか。それならばもう話は楽だったのにな。
……どの道犯人はもうあれしかない。あとは動機だが…。まぁ…それはユウレイにに聞きながらでいいだろう。
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