第18話 お地蔵さんの見つけ方
浩二君か勇作さんと二人で行動しなかった私だけお地蔵さんを直接見ることは出来なかった。
他のみんなはお地蔵さんと一緒に写真を撮っていた。とても嬉しそうに写真に写っているんだけど、それって本当に嬉しいことなのかなと思ってしまった。
私にだけ見えないという事は、私は見てはいけないものなんじゃないかなと思ってしまったこともあって、これ以上探さない方が良いような気もしてきたのだ。
「それで、うまなちゃんだけお地蔵さんが見つけられなかったって事なんだね。あのお地蔵さんは私も毎回見つけられるって感じじゃないから仕方ないと思うんだけど、愛華ちゃん以外はみんな見つけられたって信じられないかも。それが本当だとしたら、愛華ちゃんの親より凄い力を持ってるって事なのかもしれないよ」
「お父さんやお母さんより凄いってのはよくわからないけど、愛華ちゃんも清澄さんも毎回見つけられるわけじゃないって事なの?」
「そうだね。あそこのお地蔵さんは誰にも会わないように逃げ回ってるからね。恥ずかしがり屋のお地蔵さんなんだよ。出来るだけ誰にも会わないようにコソコソとしながらも町の子供たちを見守ってるって感じなんだ。だから、隠れてるからって悪いことしようとしているわけじゃないってのを理解しておいてね」
写真を選びながらいつものように話をしていた。昨日あった出来事で一番印象に残っていたのがお地蔵さん探しだったので当然その話になったわけだが、意外にも愛華ちゃんは私の話を真剣に聞いてくれていたのだ。からかわれたりするのかなと身構えてしまったのだけれど愛華ちゃんは私にお地蔵さんの事を教えてくれたのだ。
お地蔵さんが隠れている場所はもともと緑地帯で自然豊かな場所であった。
住宅も今ほど多くなく、小さな子供が道路に飛び出してしまう事も多々あったそうだ。
事故に遭った子供のために誰かが置いたお地蔵さんではあったが、亡くなった子供だけではなく生きている子供たちにもお地蔵さんの影響はあったのである。誰かが教えたわけでもないのに子供たちはみな道路に飛び出す前に立ち止まってお地蔵さんに向かって手を合わせていた。急に飛び出す子供は激減し事故もほとんど無くなり悲惨な目に合う子供はほぼいなくなって誰もが平和に過ごすことが出来るようになっていった。
この町も人が増えると家を建てる場所が減っていき、お地蔵さんがあった場所の近くにも次々と家が建っていって子供たちの遊び場も減少して遊んでいる姿を見かけることも少なくなっていった。それが理由なのかはわからないが、現在のように住宅街になったときにはお地蔵さんもどこか他の場所へ移されてしまったようである。新しく住んでいる人が家の近くにお地蔵さんがあることを不気味に思ったからなのか、不動産業者がお地蔵さんがあることを好ましく思わなかったのかは不明だが、あの地域からお地蔵さんがいつの間にかいなくなっていたのは事実なのである。
そんなお地蔵さんも完全にいなくなったのではなく、目には見えない存在となってあのあたりで子供たちを見守っているという事だ。
あそこにお地蔵さんがあったことを知らない子供たちから広まったお地蔵さんの話も今ではこの町の七不思議の一つとして語り継がれている。
小さな子供が元気に走り回っていると何処からともなく呼びかける声が聞こえて振り返ると、そこには小さなお地蔵さんが優しい表情を浮かべて呼んでいるように見えるそうだ。あのあたりの子供は何度かそのようなことを経験することで、道路に飛び出すようなことはせずに立ち止まって確認してから道路を渡るようになったそうだ。
「じゃあ、お地蔵さんっていい人なんだね。私はそういうの見たことも聞いたこともなかったから知らなかったな。それと、この町の七不思議って初耳なんだけど」
「うまなちゃんはそういう話に関わらないように周りが気を使ってたんじゃないかな。ほら、君のご両親って有名な霊能力者だから君もそうなんじゃないかって思われてたんだと思うよ。気を使っていたというよりは、そういった噂話を本物の霊能力者が否定することを恐れていたのかもしれないね。ほら、本当か嘘かわからない話題で盛り上がっているときに真実を突きつけられるとさめちゃうでしょ。そういうのがうまなちゃんの周りで自然とおこなわれてたんじゃないかな」
「そうかもしれない。小学校の宿泊研修でも私たちの代だけ肝試しが無かったみたいだよ。私としてはどっちでも良かったんでいいけど、クラスの人達はみんな残念がってたな。私が原因だなんて知らなかったけど、卒業するときに誰かにそんなことを言われたような気がしているよ」
「私がうまなちゃんの担任だったり学年主任だったら肝試しなんて企画しないかも。私はそっち側だから理解は出来るけど、何も知らない人が栗宮院午彪と奈緒美の娘に肝試しをさせるなんて怖くて出来ないと思うよ。霊能力を信じているか信じていないかが問題じゃなくて、有名な霊能力者が両親の子供に肝試しをさせたら本物を呼んじゃうんじゃないかって思ってるじゃないかな」
「私もお父さんもお母さんもそんなこと気にしたりなんてしないんだけどな」
「意外とそういうもんなんだよ。本人は気にしてなくても周りが必要以上に気を使うことなんてあるんだしね。それに、七不思議の一つであるお化け写真館の話だって私たちは全然気にしてないし、真名先輩に至ってはその事が売名になって客足も伸びるんじゃないかって言ってるくらいだからね」
「随分と逞しいんだね。それで、どうして私だけがお地蔵さんに会えなかったんだと思うのかな?」
愛華ちゃんは私の質問をはぐらかそうとしていたけれど、私はその手には乗らずに真剣に聞き出そうとしていた。私だけがお地蔵さんに会えなかったなんて悲しい話だと思う。少なくとも、私に何か原因があるのだったら教えてもらいたい。
「私がその場で見ていたわけじゃないから正確なことは言えないけどさ、うまなちゃんだけが会えなかったのは仕方ないんじゃないかな。多分だけど、うまなちゃんだけがお地蔵さんに会えなかったってのは気にすることでもないと思う。どうしても会いたいって言うんだったら、来月の終わりくらいに真名先輩と一緒に行くといいよ」
「清澄さんと一緒に行ったら私もお地蔵さんを見つけられるの?」
「たぶんね。うまなちゃんが見たお地蔵さんとちょっと違うかもしれないけど、会えることは確かだと思うよ」
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