最強勇者が倒せない!
@rihito0131
世界一の暗殺者
「魔王様、人間達から勇者が誕生したそうです」
「そうか、ついにか」
魔王は玉座から立ち上がる。
「では、ミーラよ。勇者を殺せ」
「はい、わかりました」
ミーラと呼ばれた彼女は、謁見室を後にする。
彼女は魔王軍が有する最高で最大の武器。黒を基調とした服を好み、全てが謎に包まれている。彼女について分かっていることは、世界一の暗殺者であるということだけだ。
「勇者か。どれほど強いのか、楽しみであるな」
魔王は玉座に座り直し、ニヤリと笑った。
勇者と呼ばれた青年は平原で、魔物を討伐していた。
彼は勇者とは思えない程に、体が貧相だ。
その手に持った剣も、そこまでの力を感じられない。
「はぁ、はぁ。これで最後か」
勇者は魔物の死体を見下ろしながら呟く。
「ねぇ。勇者様?」
ミーラが木陰から姿を現す。
「ああ、そうだよ」
「勇者になってみてどう?」
勇者は剣を鞘に納める。
「悪くないよ」
「そ、良かったわね」
ミーラは微笑むと、懐から短剣を取り出した。
そして、そのまま勇者に突き刺す。
しかし、勇者は体を捻ってそれを躱す。
「何のつもりだ?」
勇者はミーラを睨み付ける。
「あなたが本物かどうか確かめたかっただけ」
「どういうことだ?」
勇者は剣を抜く。そして、ミーラに斬りかかる。しかし、彼女は簡単にそれを避ける。
「本物のようね」
ミーラは短剣を構える。
「どういうつもりだ?」
「勇者を殺せ。とのご命令なので。」
勇者は剣を構える。
そして、二人は同時に動き出した。
ミーラは素早い動きで、勇者を翻弄する。
しかし、勇者はその攻撃を的確に防いでいく。
二人の攻防は続く。だが、次第に勇者が押し始める。
ミーラの動きに慣れてきたのだ。
そしてついに、彼女の腕を切り落とすことに成功する。
しかし、その瞬間に勇者の腹に激痛が走る。
「ぐはっ」
勇者は吐血し、膝をつく。
「油断ね」
ミーラがニヤリと笑う。
彼女の手にはいつの間にかナイフが握られていた。
そのナイフで勇者を切りつけたのだ。
「はぁ。めんどくさいな」
勇者は手に持った剣をダラりと下げた。
「今から僕の能力を使う。死にたくなければここから去れ」
ミーラは首を傾げる。
「能力? なにそれ」
勇者は本当に気だるそうに能力を発動する。
その瞬間ミーラは理解した。この勇者が何者なのかを、身の毛がよだつ程の寒気。それは世界一の暗殺者と呼ばれたミーラでさえ経験したことのない恐怖。
「ま、まさか……」
ミーラは震える声で呟く。
その能力が発動した。
その瞬間、世界が一変する。
先程まで平原だった場所は一瞬にして荒野と化し、空が赤く染まる。
そして地面から無数の魔物が現れた。それは魔王軍に所属する魔物達だ。
その数は数百を超えているだろう。その光景はまさに地獄絵図であった。
「な、なんだこれは」
ミーラは思わず叫ぶ。こんな能力は聞いたことがない。
「で?まだやるの?」
勇者は気だるそうに言う。
「くっ」
ミーラは短剣を構えるが、足がすくんで動けなかった。
「じゃあね」
勇者は剣を振るった。その瞬間に魔物達が動き出す。
その光景はまるで地獄絵図のようだった。魔王軍が次々と突撃してくるのだ。それも一方的に虐殺される形で。
その時だった。魔物達が一斉に消えた。
「ねえ。まだやるの?早く逃げなよ」
ミーラはその言葉を聞き終える前にこの場から姿を消していた。
勇者は剣を鞘に納めると、大きく伸びをした。
「あー疲れた」
◇◇◇
「なんだお前逃げ帰って来たのか」
魔王は玉座に座ったまま、ミーラを見る。
「はい。申し訳ありません」
ミーラは膝をつき頭を下げる。
「まぁよい。次の策を考えるぞ」
魔王は立ち上がりマントを翻すと、自室に戻るのだった。
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