06 夕陽の普通列車

 ローズウッド駅から再び旅が始まります。

 街の北側にあるこの駅は、バラの街の雰囲気に合わせてログハウス調の駅舎となっています。木材で建てられた温かみのある駅舎は、まるで森の中にひっそりと佇む秘密の場所のようでした。


 駅舎の外壁は丸太を積み上げたようなデザインで、自然の素材を活かした風格が漂っています。屋根は赤褐色のシダーシェイクで覆われ、木々に囲まれたローズウッドの風景と調和しています。


 入口にはバラの蔓を模した鉄のフレームがあり、美しいバラの花びらの形をしたドアがゆっくりと開かれます。ドアの取っ手にはバラの形が彫り込まれ、訪れる人々をバラの世界へと誘います。


 駅舎内は、温もりのある木の壁と天井で覆われていました。床には素朴な木材が敷かれ、足元にはバラの模様のラグが置かれています。大きな石の暖炉があり、冬でも暖かく過ごせるようになっているようです。


 駅の中央にはバラの花びらをモチーフにした木の彫刻が飾られ、その周りには小さなバラの花壇が配置されています。バラの香りが駅内に漂い、旅行者たちを心地よい気分に包み込みます。


 ログハウス調の駅舎では、地元のアーティストによるバラの絵画や写真が飾られ、バラの美しさが駅の至る所に感じられます。駅のスタッフも親しみやすく、温かな笑顔で旅行者たちを迎え入れます。


 ローズウッド駅は、ログハウスの温かみとバラの美しさが融合した、心地よい場所として、多くの人々に愛されています。バラの街への旅の出発点として、駅舎の魅力が訪れる者の心をとらえ、新たな冒険への期待を高めていました。



 ここからは、15:45発の普通列車に乗り、美しい湖畔の街、エンシャンティアを目指します。

 ホームには、3両編成のディーゼルカーが止まっていました。車内は、下校途中の学生たちで満員でした。まるで放課後の学校のように賑やかな列車は、ゆっくりとローズウッド駅を発車しました。


 列車はローズウッド郊外の各駅に停車していきます。停車するたびに学生が1人、また1人と降車していきます。ローズウッド駅発車時点では、車内は喧騒に包まれていましたが、徐々に静かになっていきました。


 約30分走り、シルバーブルック駅に到着ししました。ここは、ローズウッド周辺の街では一番大きく、周囲には住宅街がひろがります。ここでは、大多数の学生たちや地元の乗客たちが降り、車内は一気に閑散とした雰囲気になりました。


 先程まであれほど賑やかで喧騒に包まれていた列車は、今はガランと静寂に包まれました。

「やれやれ、やっと静かになったな」とお爺さんが新聞を広げていました。


 16:17、静かになった列車は、シルバーブルック駅を発車しました。


 シルバーブルックを出ると、車窓は深い森へと変わりました。ここまでは丘陵地帯を走り、丘の斜面にはバラ畑が広がり、色とりどりの美しい風景でしたが、この先は鬱蒼とした森の中を走ります。


 夕陽が木々の間から車内に差し込みます。乗車率といい、車窓といい、先ほどまでの賑やかな雰囲気から一変、静かでローカルな雰囲気へと変わりました。

 ガタタン、ガタタン…と、リズミカルな音が車内に響きます。夕方の普通列車は軽快に走行していました。


 森の中の小さな無人駅で停車しました。1組の老夫婦を降ろすと、列車はすぐに発車しました。

 その老夫婦と目が合い、思わず手を振ると笑顔で振り返してくれました。仲睦まじく、温かそうな夫婦でした。


 次の駅も、その次の駅も、小さな無人駅でした。乗り降りはゼロですが、列車は律儀に停車して行きました。


 17:50、ミスティウッド駅に停まりました。ここからは森林鉄道が伸びていて、上質な木材が搬出されています。駅の構内には、小さな機関車や貨車が停まっていました。


 ミスティウッド駅を出てしばらく走ると、列車は森を抜け、湖畔の線路を走ります。セレスティア湖です。


 湖の水は夕陽に染まり、綺麗なオレンジとピンク色に輝いていました。

 湖畔には飲み物片手にのんびりと過ごす人、ジョギングをする人、ダンスの練習をしている学生たちなど、のんびりとした風景が見られます。また、遠くの湖面には鳥たちが舞い、夕陽に照らされて美しい影を映し出していました。

 それはまるで、この世の楽園のような景色でした。


 18:40、普通列車は定刻より少し遅れて、終点のエンシャンティア駅に到着しました。

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