第10話 模擬戦
「無能は社会的に死ぬがいい」
マリグナントの一言にクレスカスたちが反応した。
「そんな?!兄さん?!あんまりだろ?!」
「そうですよ!兄さん。俺たち兄弟じゃないですか!」
マリグナントは2人を軽蔑の目で見て口を開いた。
「それがどうかしたのか?無能ども。無能が淘汰される。これはそれだけの話だろう?」
プルプル。
クズリットは拳を震えさせて俺を指さしてきた。
「兄さん、ではグランのやつはどうなるのですか?!」
「グランだと?」
マリグナントは俺を見てきた、が。
兄さんは鼻で笑った。
それを見てクズリットの顔には笑顔が浮かぶ。
「そうですよ。マリグナント兄さん!無能を到達するというのならグランを最初に淘汰すべきだ!そいつを国外追放するべきですよ!」
クレスカスも同意してきた。
「そうですよ!兄さん!俺たちより先にグランの奴を追放すべきだ!」
「ふむ」
マリグナントは俺を見てきた。
「だ、そうだが?グラン?」
「追放は避けたいところですね」
「だが、弟たちは自分たちだけ追放というのは嫌だと言っている」
「だが俺も追放は嫌ですね」
俺は傍聴席から立ち上がった。
そしてクズリックたちを見て言った。
最後の確認も込めて問いかける。
「どうしても指示には従えない、と?」
「当たり前だろ?!俺たちよりお前の方が無能だ!なんでそんなお前がのうのうと王族を続けられるんだよ?!おかしいだろ?!無能は追放!そういう話ならお前も追放されるべきだ!」
「はぁ……」
ため息を吐いて俺は苦肉の策として提案してやる事にした。
「では、俺が少なくともあなたがよりは優れていることを証明できれば、追放の話はなくなる、ということでいいですね?」
「お前が俺たちより優秀だと?!そんなことあるわけがないだろ?!何をやらせても無能のお前が!俺たちより優秀なんてありえん!」
「分かりました。では、どのように証明すればいいでしょう?」
「俺たちの間で勝負事が起きた時なにで順位を決めるかは知っているな?」
それは知っている。
簡単な話だ。
「模擬戦、でいいんでしたよね?」
「あぁ、そうだ。単純明快でいいだろう?俺が勝てばお前は俺より無能だ。よってお前も巻き添えで追放だ」
「俺が勝てばこれ以上絡むのはやめてくれるんですよね?」
「無論だ。まぁお前が勝つことなんてないだろうがな!」
俺はそのまま2人に声をかけた。
「庭でお待ちしておりますよ。どうにか話をつけてきて貰えますか?」
俺はそう言って地下議室を出た。
「やれやれ、今まで無能を演じてきたツケが回ってきた、ということか」
俺はそうやって呟きながら庭の方に向かうことにした。
その途中だった。
アリアが声をかけてくる。
「大変なことになってしまわれましたねグラン様。あ、私が審判をさせてもらうことになりました」
「まぁね。でも、すぐに終わるさ」
この決闘は俺の勝利で終わる。
分かりきっている話だった。
ので、アリアに頼むことにした。
「あぁ、そうそうアリア」
「どうしました?」
「回復薬の準備をしておいてくれないか」
「分かりましたが、どなたが使う予定なのでしょう?」
「兄貴2人だよ。多めに用意してあげてて欲しい。俺も加減を間違えるかもしれないからね」
俺はそう言うとそのまま庭の方に向かうことにした。
◇
庭で待っていると、俺より少し遅れる形で人がゾロゾロと集まってきた。
俺たち王子の母親だ。
ちなみにだが俺たち兄弟はほとんど母親が違う。
中には同じ母親から生まれた奴もいるが。
基本的には違っている。
そんなわけで、自分の子供以外はライバルだと思っている母親もいるわけであり。
「それにしてもあの無能の子が決闘だなんて、かわいそうに」
「このまま追放されてしまうのでしょうね、無能というだけなのに、かわいそう」
そんな言葉が周りの母親たちから聞こえてくる。
まぁ、聞きなれたものである。
そんな言葉の数々を聞いていると。
ザッザッザッ。
近衛騎士団に囲まれたクズリック達が歩いてきた。
「やい!グラン!俺ら兄貴が追放されようとしてるんだ!お前も追放されてしまえ!」
「そうだ!言い出しっぺ!お前も追放してやる!」
そんなことを言いながら2人は俺に近付いてくる。
会話するだけ無駄なので一方的に言ってやる。
「御託はいい。さっさとケリつけましょうか」
そう言うと2人は顔を見合せていた。
「こいつぅぅぅ!!」
「クレスカス兄さん!ギタギタにしてやりましょうよ!」
「そうだなっ!クズリット!」
2人はすぐさま俺に襲いかかってきた。
まだ戦闘開始の合図も鳴っていないのに。
もちろん、戦闘開始には本来戦闘開始の合図が必要だ。
つまり俺は完全な不意打ちを食らったことになる。
「うぉぉぉぉ!!!!」
まずはクズリットが接近してきた。
だが、俺は逆に懐に潜り込んで。
「なっ?!はやっ?!」
驚いているクズリットの胸の辺りに
「ドラゴンファング」
掌を押し付けた。
「がっ……」
それだけでクズリットは痺れて動けなくなった。
だが、俺は隙を晒すことになっていた。
「もらったぞ!グラン!」
俺に向かって攻撃してくるのはクレスカス。
「ファイアボール」
「パリィ」
俺は飛んできた火の球を弾き返した。
「なんだと?!」
そして、驚いているクレスカスに近付くと。
「ひっ……」
「ドラゴンファング」
ドン!
手のひらを胸の辺りに叩きつけた。
「こ、これが……ドラゴンファング……?」
そう呟いて四つん這いになるクレスカス。
「体が動かん、何だこの技は……げほっ……」
激しく咳き込み始めたクレスカス。
さらに前に攻撃を受けたクズリットも動く様子は見えない。
そこでアリアが叫んだ。
「しょ、勝者グラン様!これにて決闘は終わりだ!双方武器を収めてください!これ以上の攻撃は禁止します!」
そのあとにフレイヤの叫び声が上がった。
「やっぱり、グラン様がナンバーワンですわね!」
俺はそんな言葉を聞きながら兄さんたち2人の前に立った。
「あーあ、2人揃って不意打ちまでしても勝てないなんて、残念な人達ですね」
俺はクズリックを見下ろしながらそう言ってやった。
「てめぇ……グランンンンンン……勝った気になるなよ……」
俺を睨みつけてくるクズリット。
「あーあーあー、どこの負け犬だろう?遠吠えが聞こえるなぁ。シツケが足りてないようですねぇ?ね、兄さん?」
俺はそう言いながら王様に目を向けた。
俺の視線の先では王様が俺を見ていた。
「おぉぉおぉぉ……グラン。すごいぞお前はぁっ!」
目をキラッキラにさせている王様であった。
(はぁ、今まで無能だと思われるように振舞ってきたのに、これで台無しになってしまったな)
さてこれからは、どう立ち回るべきか。
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