第8話【クレスカス視点】どうしたらいんだ?
グランが世界樹に登っている頃クレスカスとフレイヤの2人も世界樹の森へと足を踏み入れていた。
もちろん、先導するのはクレスカスである。
「フレイヤ様こちらへ。足元お気をつけください」
「ありがとうございます。クレスカス様」
彼女はここまでの対応でクレスカスの人を悪人だとは思っていなかった。
むしろ身内にも厳しく接していた分、信頼出来る人間とすら思っていた。
とは言え
(んー。やっぱりグラン様の方が好みかなー?どこにいるんだろう?早く会いたいなー?)
と思うくらいにはやはりグランのことを考えていた。
その事に気付かないクレスカスでもなかった。
(やはり俺のことは考えていないようだな、仕方ない。さっさとモンスターを倒しに行こう)
そうして、クレスカスは普段は立ち入りが禁止されているエリアの方に向かっていくことにした。
「こちらですよ。フレイヤ様」
クレスカスはそう言いながら気になっていたことを聞くことにした。
「そういえばグランとはどこで会ったのでしょう?」
「昨日、この国に来たんですよ。ちょうど神託の儀式をやっていたようで見ていたんですよ。でもそのとき暴漢に絡まれまして、助けて下さったのがグラン様だったのですよ」
「おかしいな。奴は無能のはずなのに」
「そうなんですか?」
って聞いてからフレイヤは思い出していた。
「あ、これ秘密にしておかないとダメだったのにっ!」
「秘密?なぜだかは分かりませんが、そうなのですね」
クレスカスがそう言った時だった。
近くの茂みからモンスターが飛び出してきた。
「ゲゲゲッ!」
緑色のゴブリンだった。
「ファイアボール」
ブォン!
クレスカスの放ったファイアボールはゴブリンに命中してゴブリンはその場で「ギョエェェェェ」と断末魔を上げて倒れた。
「おぉ、すごい威力ですね」
「でしょ?これが第5王子クレスカスの魔力ですよ。ははは」
でも、フレイヤはあまり興味がなさそうだった。そして、フレイヤは無邪気に聞いてきた。
「クレスカス様、ちょっといいですか?」
「えーっと、なんでしょう?」
フレイヤは見よう見まねで先日のグランの動きを再現した。
「えーっと、まずはこうで」
左手を前に出して手の甲をクレスカスに見せていた。
そして、クイックイッ。
「来なよって言ってました」
「えーっと、なんの話でしょう?」
そのままフレイヤは続けた。
「次に【パリィ】して」
両手の手首を重ねて手のひらは開いた状態で前に突き出す。
「ドラゴンファング!ってやってました。グラン様が」
「グランが?」
「はい。もちろん、出来るんですよね?クレスカス様も」
フレイヤは期待するよな目をしていた。
数秒の沈黙。
クレスカスは困っていた。
(なんだ、その技は?)
彼は魔法特化の人間である。
物理技なんて知らない。
だが
(おのれ。グランごときが知っていて、俺が知らないなど口が裂けても言えんぞ)
「えぇ、もちろん出来ますよ。フレイヤ様」
「すごい!やってみせてください!」
「次にちょうどいいモンスターが出たらやってみせますよ」
クレスカスがそう言った時だった。
ズゥン。
ズゥン。
巨大ななにかが歩くような音が聞こえてきた。
その音はもちろんフレイヤも聞いていて。
「なんの足音でしょう?」
「分かりませんが、フレイヤ様ご安心を。この俺がいれば例えどんな相手がきても【ドラゴンファング】でねじ伏せましょう」
「まぁ!さすがグラン様のお兄様ですね!皆さんとても強いようで私感動してしまいます!」
「ははは。グランを無能と言ったのです。最高峰の【ドラゴンファング】をお見せしますよ。フレイヤ様」
そう言ってクレスカスは足音の方角に目をやり、叫んだ。
「おらっ!かかってこい!俺はここだぞ!モンスター!」
「す、すごい、自らモンスターを挑発してるなんて、まるでグラン様のよう」
その言葉を聞いてクレスカスはイラッとしていた。
(なにがグランのようだよ。俺は俺だ。すこいドラゴンファングを見せて記憶を塗り替えてやる!)
クレスカスが決意を新たにしたときだった。
木々の間からそいつは姿を現した。
赤い体に巨大なツノ、オーガだった。
「ウガァァァァァァァアァァ!!!!」
「出たな、オーガ」
クレスカスは左手を前に突き出した。
手の甲を見せて、クイックイッ。
「きな」
クレスカスがそう言った時だった。
「ウガァァアァアァァアァア!!!!」
怒り狂ったかのようなオーガ。
突進してきた。
突進してくるオーガはまるで、トラックのように見える。
(あのさぁ、これどうやって【パリィ】すんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!)
「パリ……」
言いかけたクレスカスの言葉は続かない。
メキョッ。
左手が簡単に折れた。
そして、
「ドラゴン……」
ファングという言葉は続かない。
「ウガァァアァアァァアァア!!!!!」
オーガに突進されて空中に浮かんだクレスカスの体。
そのまま身動きの取れないクレスカスにオーガは蹴りを叩き込んだ。
「おがあぁあぁあぁぁぁあぁあ!!!!」
クレスカスの体は吹き飛んで行った。
「えっ?ドラゴンファングは?飛んでっちゃった」
ポツーンと残されたフレイヤは何も考えられなかった。
そのとき、スっと視線を向けてくるオーガ。
フレイヤとオーガの目が合う。
「ひ、ひぃぃぃ!!!」
フレイヤは逃げた。
「だ、だれかぁぁぁぁぁあぁぁああ!!!!!」
力の限り叫んだ。
「ウガァァアァアァァアァア!!!!」
後からはオーガが迫ってくる。
その時だった。
「グランブレイク」
聞き慣れたくらいのひょうひょうとした感じの声がフレイヤの耳に届いた。
そして、フレイヤは言った。
「やっぱりグラン様がナンバーワンです!」
このとき、フレイヤは確信した。
婚約者はこの人以外ありえない、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます