第13話
「ちゃんと鍵かけて、ゆっくり寝てね。もう怖がらなくて、いいからね」
大翔の言葉に佳奈多は小さく頷いた。いったい何をどうするというのだろう。きっと佳奈多を安心させるために言ってくれている。佳奈多は無理に笑顔を作った。
「う…あ、ありがと、大翔くん」
大翔は佳奈多の髪を撫でてから佳奈多の家を去っていった。佳奈多はすぐに鍵をかけて自分の部屋に入った。恐る恐る窓の外を見ると、大翔と目があった。部屋に戻った佳奈多に安心したのか、大翔は手を振って去っていく。佳奈多はベッドに上がり、毛布を被って座り込んだ。とても、眠れると思えない。明かりを消すのが怖くて電気をつけたまま、毛布に包まっていた。それからどのくらいたったのか、玄関から鍵を開けて扉を開く音が聞こえた。おそらく母だ。階段のきしむ音のあと、佳奈多の部屋の扉が開いた。
「佳奈多?起きているの?…やぁね、電気、つけたままで…」
返事をせずにいたら、電気が消されてしまった。しかしもう母が帰ってきてくれた。家に誰かがいる。佳奈多はほっと体から力を抜いた。きっとこれから父が帰ってくる。
おそらく母は父から帰宅の連絡を受けてから帰ってきている。いつも母は父よりも少し早く帰宅していた。佳奈多一人を置いて夜間外出していることを父に知られたら、父は母を叱りつけるだろう。いつも夕食は温めれば良いように準備されている。母がいつもどこにいるのか知らないが、今日に限っては自宅にいてほしかった。せめて母とコンビニへ行っていれば。佳奈多は体を震わせて眠れぬ夜を過ごした。
それから一週間。おじさんから連絡はなかった。翌日にでも来るだろうと思っていた着信はなかった。しかしその分、今夜連絡が来てしまうのではないかと怯えて、うまく眠れぬ日々が続いていた。
「かなちゃん、ちょっと来てほしいんだけど」
放課後、大翔に呼ばれて佳奈多は図書館ではなく別の教室へ移動した。いつも着替えに使っている教室だ。大翔は着替えの時と同じようにカーテンを締めて教室の鍵も閉めた。
いったい何が始まるのか。少し昂揚しているように見える大翔に、佳奈多は怖くなった。大翔は周りを確認してからスマートフォンを取り出して操作してから佳奈多に差し出す。
『君、お名前は?言えるかな?』
『ふっ、ふじ、…ふじの、かなた、』
佳奈多は全身総毛立った。大翔のスマホの画面には下半身を剥き出しにして泣く佳奈多が映っていた。あの時の、コンビニでおじさんが撮っていた動画だ。
「撮られたの、この動画だけで間違いないよね?」
「うっ、う、…」
佳奈多はスマートフォンの画面を両手で覆って何度も頷いた。
どうしてこの動画が大翔のスマホに入っているのか。
『かなた君のスマホで、おじさんのスマホにお電話しようかな。さ、ロックを解除して』
短い動画はすぐおわった。ねっとりとしたおじさんのあの声で、恐怖がよみがえる。佳奈多の体は震え始めた。
佳奈多は恐る恐る大翔を見上げる。大翔は笑っていた。
「良かった…この動画、もう俺以外誰も持ってないから。あのおじさんも、もう二度とかなちゃんの前には現れないから、安心して」
「どっ、どうして…?」
佳奈多は大翔にスマホを覆っていた手を取られた。強く握られて離れることができない。
どうしてこの動画を大翔が持っているのか。なぜ二度と現れないと断言できるのか。
「あのおじさんね、別の色んな子におんなじことしてたんだよ。俺が会ったのは女の子だったけど。見つけたんだ、あいつの部屋で」
大翔は佳奈多が動画を撮られたその日にあのおじさんの家に行ったらしい。明け方にコンビニを退勤したおじさんの後をつけたそうだ。殴って気絶させてスマホとパソコンを確認すると、佳奈多の動画の他にも何人かの少年少女の動画と写真と学生証が出てきた。
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