第11話
どうしてこんなことになったのか。佳奈多は頭を抱えて泣きじゃくった。これから、もしあの男に呼び出されたら、佳奈多は何をされてしまうのか。
背後で足音がして佳奈多は振り返った。スーツを着た男性がこちらを見ている。ただの仕事帰りの男性かもしれない。しかし佳奈多は恐怖で駆け出していた。
早く帰りたい。佳奈多は自宅までがむしゃらに走った。がむしゃらに走り、自宅に駆け込もうとして足を止めた。見知った姿を、自宅の前で見つけた。
「かなちゃん?」
ジャージ姿の大翔が佳奈多の自宅の前にいた。こんな時間に佳奈多の家の前でなにをしているのか。大翔は佳奈多を見て険しい顔になった。
「かなちゃん、どうしたの。何かあった?どうして、こんな時間に…」
「っふ…ふ、ぅ、ひっ、」
佳奈多は立っていられず、へたり込む。大翔に肩を抱かれた。見慣れた大翔に安堵した佳奈多は、大翔の胸に縋りついて泣いた。震える佳奈多を、大翔は背中を撫でながら落ち着くまで待ってくれている。
「かなちゃん、何が、あったの?」
大翔の押し殺した声が耳に入った。佳奈多は震えながら、言うべきなのかとても迷った。男に誰にも言うなと釘を差された。大翔の腕が緩み、佳奈多は顔を上げる。大翔は心配と怒りが入り混じったような顔をしていた。
「う、…あ、ぅ」
「言えないようなこと、したの?」
低い声に佳奈多はガタガタ震えた。大翔からも責められている気がして怖くなった。見に覚えのない万引き、その上盗んだものが避妊具だった。そう簡単に話せる内容じゃない。佳奈多が唇を噛み締めてうつむいていると、大翔に肩を抱かれて立たされた。
「お家、入ろう」
佳奈多の承諾を待たずに、大翔は佳奈多の手提げから鍵を取り出して玄関を開けた。玄関に両親の靴はどちらもなく、まだ帰ってきていないようだ。玄関に入るとすぐ階段があり、佳奈多の自室は2階にある。大翔は佳奈多の肩を抱いたまま階段を登った。大翔の力は強く、肩に置かれた大翔の手は佳奈多の肩に食い込んでいる。迷いなく2階の廊下の突き当たり、佳奈多の部屋にたどり着いた。部屋に入るやいなや、大翔は佳奈多をベッドに突き飛ばす。驚いた佳奈多は大翔を見た。
「かなちゃん。誰と、何、してきたの?」
大翔の瞳は怒りで燃えていた。何をどう捉えたのか、大翔は佳奈多の服に手をかける。抵抗したが力の差が大きく、大翔は佳奈多を布団に押し付けて、ズボンに手をかけた。さっきの、コンビニでの出来事が頭の中によみがえる。
『男の子が大好きなお友達を呼ぶから、その時に、えっちなことたくさんしようね』
「あっ…ぅ、わぁあ、あーーーっ!」
佳奈多は悲鳴を上げた。頭を抱えて力の限り叫んだ。
『なんでこんなもん盗んだんだ』
『お前のカバンから出てきたんだろうが!』
あの男の声が耳元で聞こえる。
「ち、ちが、…盗んで、盗んでない、盗んでないいぃっ!あーーーーーー!!!」
喉から血が出るのではないかと思うほど、佳奈多は絶叫した。頭の中の声を打ち消したかった。盗んでいないのに信じてもらえない。知らないおじさんに怒鳴りつけられた。どうしてこんな理不尽な目に遭うのか。その上大翔も怒っている。
佳奈多は頭の中が真っ白になった。
佳奈多はどうしたらいいのかわからなくて、頭を振り乱す。しかし強い力に止められて、大翔の手に口を塞がれた。目の前に真っ青な顔をした大翔がいた。
「かなちゃん…盗んでないって、どういうこと?」
大翔の怒りは収まったのだろうか。不安そうに佳奈多を見ている。佳奈多は荒い呼吸を繰り返した。青い顔の大翔の顔を改めてみて、佳奈多は少し落ち着いた。もう、大翔は怒っていないように見える。それでも体の震えは止まらず、大翔が口から手を離した途端、ガチガチと歯がなった。叫ばなくなった佳奈多を、大翔は覆いかぶさるように抱きしめた。
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