第21話

「私には分かってるのよ。あなたが【K】なんでしょう?」

 近見が沖島に耳打ちする。

「なら審判台に乗っても負ける訳ないわよね。代わってあげたら?」

「そ、そんなことは……」

「むしろいい隠れ蓑になると思わない? 誰も『王族』が自分から【天秤】に乗るなんて想像してないでしょうから」

「し、しかし……なんでそんな」

 沖野が迷って目を泳がせる。その優柔不断さを近見が心の中で嗤う。

(すぐ揺さぶられるんだから……もう一押しね)

 そこに近見が決めの一手を打つ。

「こんなシナリオはどうかしら。『恋人をかばって敵に立ち向かった「村」の勇者。しかし奮闘空しく・・・・・恋人は殺されてしまった。そして勇者はその後「大国」で英雄となった』なんていうのは。

 ……私の大手移籍の話、あれは本当よ。何ならあなたも来ない? 一緒に有名になりたくない? ……ほら、面倒なしがらみはここで棄ててしまえばいいじゃない……あなたが先に乗れば彼女も嫌とは言えなくなる。あなたが時間を稼いでくれれば、私がすぐに『王族』を見つけるわ。そして彼女だけが死んであなたは生き残る……」

 数分逡巡したあとに、沖島は小林の代わりに審判台に乗った。


 鐘と共に【天秤】が揺れ出す。そして今度はグレンツェンの沖島と、フォルティスのシライ、シカマの3人が空中に投げ出される。

「えっ、沖島さん? 沖島さぁーん!」「何故だぁぁぁぁー!」

 沖島の怨嗟の叫びが断崖を滑り落ちていく。


(フォルティス)

A● 2○ 3○ 4● 5● 6● 7○ 8● 9○ 10◯ X○ J○ Q○ K○


(グレンツェン)

A● 2● 3○ 4○ 5○ 6● 7○ 8○ 9○ 10◯ X○ J● Q○ K●


(最後まで馬鹿な男ね、私が許すわけなんてないでしょう? 恋人もすぐに後を追わせてあげるから先に地獄そこで待ってなさい……)



「これは……どういうことなのかしら?」

 アイコが隣にいるコーセイに訊く。

「おそらく【相討ち】ルールだな。【5】【8】の合計の『13』と【K】が相殺されたんだ。そしてそのルールは全体の合計数の勝敗より優先する、ということなんだろう」

「……ああ、ここで【『平民』が数で『王族』を殺しても【ゲーム】の勝利とはならない】のルールが適用されるのね! でも向こうの【K】は信じられないって顔で落ちていったわよ?」

「実際知らなかった・・・・・・んだろうな。同じ『チーム』のはずの女が、してやったりのご満悦な顔で落ちる男を見ていたからな」

「確かにあの女、派手でいかにも女帝って顔してるわ。ずっとそうやって他人を踏み台にして生きてきたのね。きっと座右の銘は弱肉強食とかだわ。あー嫌だ嫌だ!」

 アイコが身震いするのを見て、コーセイが思わず苦笑する。

「あんたがそれを言うか? 自分は違うとでも?」

「同じなわけ無いでしょう? 私は一人で強くなったのよ。そうでなければ生きられなかったから」

「そうかよ。あんたも苦労してんだな……今度一緒に飲むか?」

「同情? まあいいわ。サムライ・ロックを奢ってちょうだい」

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