黒猫ヤマトは死んだのさ/矢作川珍保

双葉紫明

第1話

その晩、風が吹いていた。

季節は冬だったろうか?

僕は同棲中の彼女のあきとふたり、仕事帰りの夜道の車中に居た。

後に結婚する事になるふたり、周りが見えていない。

衆目の届かない車中となると尚更、イチャイチャイチャイチャ、バカップルである。

「ん?ゴミ袋?」

急停車。

ヘッドライトに、路上にはためく黒いゴミ袋の端切れみたいに見えたものは、一匹の黒い子猫だった。

猫だとわかって、車を飛び出す。

僕は着ていた深緑の上着のすそを広げ、そこにその猫を乗せた。

死んでいたら、道端に避けてやろうと思った。

息はある。

微かに。

今になっては舌が出てたんだと思うけど、その時は口から出血している様に感じた。

動転、トランクに上着でくるんで優しく置き、ふたり車内に戻ると、とりあえず動物病院を探しては電話。

一刻を争う。

無駄に車を転がすより、確実に受け入れてもらえるところを探して最短で連れていこう。

何軒も時間外と断られた。

やっとの事で見つけ出した病院は、現場からそう遠くなかった。

「よし」

僕らの車は、逸る気持ちと裏腹、慎重に夜道を進んで迷う事なく動物病院へと辿りついた。

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