第3章 あの人の側に居たい
3-1
次の年の春。誉さんはちゃんと京大に合格していた。姉ちゃんも二流? 三流の私立の女子大に決まっていて、史也さんも一応 京都の大学に行くことに決まっていた。
私も春休みになった時、史也さんが遊びに来るからと、姉ちゃんがギターを教えてもらうらしい。だから、朝からお昼ご飯にと、おにぎりを作るのを手伝わされて、厚焼き玉子を焼かされていた。自分で作りなよーって言ったのだけど、マオのほうが上手ヤンと無理やり・・・。
昼前に来て、ガチャガチャと音がしていたけど、1時ごろになって、姉ちゃんが呼びに来て「マオ お味噌汁 作ってよー」と
「なんでー 自分でやりぃーなー」
「ええやん マオは天才やからー ねっ 一緒に食べよー」
と、逆らえずにぶつぶつ言いながら、茄子と油揚げを入れて3人分を。
「史也さん 合格おめでとう」と、一応 言っておいて
「まぁ 第一志望 落っこってて 恰好悪いんやけどな とりあえず ひっかかったわー」
「ねぇ 仲の良かった 同じ学校で この辺に住んでる人は?」私はそのことが聞きたかったのだ。
「あぁ 伊織利のことか? あいつもダメだって 去年にな 高校に入った時から ずぅ~っと好きだった子に振られたとかで落ち込んでいて それとラグビーも夏の合宿まで行って、秋までやってたんやわー だから、俺は 人生舐めていた 何にでも中半端で駄目なんだって 自分を見つめ直すとか言っちゃってさー それで、今は北海道の牧場に行ってるよ 日給2000円 だってさー あのバカ」
「えっ 振られたって?」
「そーなんだよ 相手はよくわかんないんだけどー 高校に入ってから、見かけたんだけど、それ以来、好きになって 俺には天使のような子なんだって だけど、向こうは まだ 中学生だから 告白も出来ないしなーって 昔から言ってたなぁー ようやく声を掛けて、OKもらったんだけど その子に、よくわからないままに振られたって そうとうショックだったみたいだよ しばらくは試験勉強も手につかないって言ってたもん」
「・・・」私のほうがショックよー
「へぇー あの子 恰好良いのに それを振る子っているんだぁー 何様だと思っているんだろうネ そのバカ女 伊織利 可哀そーぉ」と、姉ちゃんがボロカスに言っていた。姉ちゃん そのバカ女は私なんです。
それから、私は自分部屋に閉じこもって 「神様 私はバカ女です どうして あの人を信じることが出来なかったんだろう どうぞ 罰を与えてください」と、後悔して泣いていた。
その後も、姉ちゃんの部屋からは ボロン ガチャガチャの音がしていたが
「マオ! カイがウォーウォーとうるさいんだよー 散歩に連れてって来なよー」と、姉ちゃんの大声がして
「自分達がうるさいんだよね カイ へんな音がするから嫌なんだよねぇー」と、カイを連れて散歩に出た。足は自然とあの人が住んでいただろう山のほうに向いていたのだ。
(そんなに前から私のことを想っていてくれたんだろうか だのに 私 ひどいことを言ってしまってー) (私のせいで・・・ あんな風に言ったから、大学落っこったんだわ)
(ちがう! あなたが もっと 強引に押してきてくれたら…) (私なんかのことで・・だとしたら、あなたが悪いのよ 根性無し!) (私のせいにしないでよね! 自分をもっと みつめなさい そして強くなって帰って来て) と、自分に言い聞かせていた。だけど (私がもっと 素直になっていれば良かったの?) (あなたが 中途半端な言い方だったからよ! 女の私から はい! 待ってましたなんて言える訳ないじゃぁない!) と、まるで、あの人を前に言い合っているようになっている自分が居た。錯乱しかけていたのだ。
もう ずいぶん歩いてきた。カイがくたばり始めている。だけど、私は・・・ふと思った。まだ 帰るとまずい。たぶん 姉ちゃん達ふたりは、今頃ー だから、私をじゃまなんだと追い出すようにしたんだわー と 余計なことが 頭をよぎっていた。だって 姉ちゃんったら この頃 派手な下着なんだものー。そーいえば、今朝も いろいろと、選んでいた。
しばらく、カイを休ませて、又 歩き始めたのだ。すると あった! TATEOBI の表札が 洋風の家で 玄関前には 色とりどりのお花が・・・ でも、誰か居る雰囲気も無く、カーテンは閉まっていて シーンとした感じだった。ガレージには車も無かったのだ。私 その家を見て 訳もなく 涙が出てきていた。懐かしいものに触れたような気がしていたから・・・
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