第1章 彼を意識して

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 その夜も彼のことが頭から離れなかった。どうしてなのかわからないけど、気になっていたのだ。それに、彼も私のことを見ていたのかしらとも


真織まおり なに ぼぉーとしてるの」って幼馴染の佳波かなみに言われるまで、自分では無かったようだった。確か、あの時だけ、別の世界に居るようだった。私と彼だけの世界に・・・。何故か、ず~ぅっと昔・・・


 私は、今、3年生で、ずうっとあの電車で通っていたのだけど、今まで会うことが無かったのは、同じ中学ではないのか。学校内でも見たことが無い。そうだ、たぶん、彼は、中学からあの私立に行っていたのだ。でも、この辺りに住んでいるのなら、小学校は同じはずなんだけど・・・。そうだ! 最近越してきたのかなー。だけど、以前から知っていたような感覚は何なんだろう。


 私は、もう一度 会いたいと思うようになっていて、一緒に学校に行っている佳波に理由をつけて断わって、1本早い電車にしたけど逢えなかったのだ。そうすると、次第にあの人のことを考えているのが多くなっていた。第一、名前も・・・多分高校生だと思うんだけど、何年なんだろうかとか。家はどこなんだろうとか。


 私は、日曜日でも、我が家の秋田犬の雑種だという カイ を連れて、散歩がてら近所をうろうろとしていた。カイは運動不足なのか、長い時間歩いているとくたばってしまって、直ぐにへたり込んでしまう。それでも、私には好都合なのだ。しばらく、その場で見張ることが出来るからだ。でも、そんなに偶然に会えるわけも無かった。


 私の家は集落の端っこにあって、お母さんの実家の古い家でおじいさんが亡くなって、おばあさん一人になるのでと、私が小学校になる時、京都から一家で越してきたのだ。そのおばあさんも、私が3年生の時にもう亡くなっていた。私には、高校2年の姉ちゃんが居て、やはり、電車で6駅乗るので、私より早い電車で行くのだ。テニス部に入っているので、帰りも遅い。お父さんも勤め先が京都で、朝早いし帰りも遅くて、たまに泊って来る。忙しいと言っているが、私は、どうも怪しいと思っているのだ。


 この辺りはお年寄りが多くて、若い人が少ないので、お母さんは、結婚が早くて、やっと35になったばっかりなので、この地域の世話役を幾つも押し付けられているのだ。仕事はしていなくて、季節的に近くにバイトに行くだけなので、だから、カイをもっと散歩に連れて行ってよーって私は頼むのだが、カイは身体が大きいから疲れるので、嫌よーと理由をつけられる。


 そんな訳で、この地域には、子供が少なくて、ウチの集落には、中学生は私ともう一人の佳波ちゃんだけで、小学生も3人。高校生は、姉ちゃんと同じ学校に通う3年生の男の子だけなのだ。そして、駅の反対側の集落もそんな調子なのだ。だから、私は、子供の顔は大概知っているのだけども・・・知らないとすれば、山に沿ってチラホラと出来てきている新しい家なのだ。


 今度は、そっちも散策してみようと思うのだけど、カイの根性無しと一緒なのはどうかなとか、その辺りを散策とは言え、不審者みたいだしと思案していた。

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