第11話 初配信の裏方側
時間は少し遡り、視点が変わる。それは初配信が始まってリスナーの名前を決めようとしてグダグダしているときのこと
「コミュ……ニティ……アンケート……作成……アウアウ……」
流石に大量の知識のインプットに脳の処理が追いつかなかった夕希……ここではこころがダウンしてしまった。
【おそらく原因は短期間による知識の詰め込み過ぎですね】
本来は基本的に全部こころにやってもらいたかったがわたしがやるしかないだろう。そもそも、ほぼ休憩無しでぶっ通しで五時間位Vtuberについて勉強させてしまったのだ。
【確か、入院中は一日十時間らしく、それに加え今日の初配信前に五時間程ですね。とんでもなく知識を吸収してしまうので教えることはすぐに終わりました】
加えて、入院中にも長時間での勉強で疲れも溜まっているはずなのに、それも考慮しなかったわたしに責任がある。
【澄風トウカ】:このままじゃあ配信事故になりますよ!
新たな四期生、トウカのコメントの通り、このまま配信事故になってしまう。なんとか場繋ぎをしようとした時、夕希から発する雰囲気がガラリと変わった。
「もう大丈夫です社長……」
【え?】「え?」
スタジオにいる夕希が目を見開き、その目は初めてあった時の碧色の目ではなく決意に満たされた赤色に染まっていた。
「リスナーの皆さん、二つの選択肢でいいなというほうをコメントで流して下さい」
:え?
:もう大丈夫なの?
:お、おう。俺はパレットかな
:メモリー
:パレットの方がいい
:パレットかな
:メモリーがいいかな
:パレット
:メモリー
:パレットで
:メモリー
リスナーからも困惑の声があり、それでも進行するこころ配信はあまりにも奇妙だった。
淡々と話すこころが次々とリスナー名や配信タグを決めていく。わたしも明子もポカンとして唖然としている。
・
・
・
「はい、これで終わりです」
:あそこからまじで十分以内で終わった……
:的確な指示過ぎた
:いやぁ、短かったけど長く感じる三十分だった
:これほんとに記憶喪失にできることなの?
:今日で五時間Vtuberの勉強したはずだからいけるはず……
「はっ!」
唖然としている間に決め終わったようでわたしはようやく正気に戻った。
「はぁ……これでボクの初配信は
終わりかなぁ……」
:初配信お疲れ様
:途中から迫力感があった配信だった
:めっちゃゆったりしてるなぁ
:さっきの真面目さ?集中力?は何処へ?
「う〜ん、なんかは配信タグを決めるところから意識がぼやけるような感じがしてあんまり覚えてないんですよね……」
:え?
:大丈夫?病院行く?
:さっきまでめっちゃ雰囲気どころか喋り方まで硬かったぞ
:あんまり覚えてないって……
:あとで配信見返そうな
:記憶喪失になる前の癖とかだったりするのかな
:極度に集中して記憶が吹っ飛ぶ癖?
:いやそんな癖あってたまるか
覚えていない? わたしもポカンしていたせいか、記憶がちょっと吹っ飛んでいる。でも、今の夕希を見てみると目はいつもの碧色に戻っていた。
「うん……、なんか眠い……すぅ……」
こころはそういうと机に身体を預け眠りについてしまった。
【えっと……、こころちゃんが寝ちゃったので終わりですね】
:寝ちゃった……
:寝息助かる
:結局放送事故になっちゃった
:どうするのこれ
【最低限のやりたいことがまさかの時間内で終わったので今回はお咎め無しです】
:やったねこころちゃん。怒られないよ!
:パレット民として今後を待とう
:プロフィールだけでもこころちゃんはホントに分からないことだらけだからな
:本人も自分のこと分かってなさそう
【こころちゃんもぶっつけ本番で知識不足なところもありましたのでしばらくは勉強に集中させる必要がありそうですね】
急に決まり、急に準備して、急に始まったからまだ半分も知識がついていない。だから少なくとも学校とかも考慮して、一ヶ月は配信ではなく勉強させるつもりだったが……。
:いやこのまま行こう!
:勉強は平行していこう
:俺達はこころちゃんの成長を間近で見たいんだ
押してくるパレットの方たち。
【あ、あの、さすがに厳しそうですけどこころちゃんが……】
:関係ねぇ!
:うるせェ!!!いこう!!!
:勉強も配信でやろう!
:パレットみんなで面倒を見ますので!
【う、うぅぅ……】
:あと一押し!
:勉強とかも思い出の一つだから!
:苦しいときも一緒に味わうから!
:社長!
:僕達!私達は!こころちゃんを守ることを約束します!
:代表!パレット民!
【わ、わかりました……】
:やったぜ
:それでこそ社長だ
やっぱり押されると弱いなと思うわたしだった。でも、最後にやるべきことがあるからそれやって終わろう。
【で、でもまだこころちゃんは未成年ですからそこは弁えてくださいね! あと色彩こころ_chのチャンネル登録よろしくお願いしますね!】
わたしは有言実行する女だ……。夕希……いや、これからはこころちゃんか。わたしはこころちゃんのスケジュールを決めるために、こころちゃんのお母さんに終わったことを伝え、事務室へと向かうのだった。
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