十一章 パラグラフリーディング

 未堂棟は自身番の抱えている検屍医に、大村菊太郎と大村昌村の死体を再度、調べてもらった。未堂棟のにらんだとおり、ふたりの死体と回収された凶器には矛盾があった。

 菊太郎は絞殺され、昌村は刺殺された。犯人の捨てた風呂敷から小刀と組紐が回収されている。しかし、菊太郎の傷口と凶器の組紐は、痕跡が合わなかった。まるで太さがちがったのである。絞殺に使った凶器はべつにちがいなかった。

 大村昌村の死体も同様である。こちらも傷口の断面と刃物の形状が一致しなかった。大村昌村を刺した凶器は小刀ではなく、キリのように先端がとがっており、持ち手にちかづくにつれて、太い円にかわる形状だった。

 別府は、この新事実が連続殺人事件にどう関係していくのか、察することができなかった。

 いっぽうの未堂棟は、みずからの推理をつぎの段階へと進めていた。作間藤三郎の調べていた変死体の解明へととりかかった。九兵衛から覆面の男と接触した人物が見つかったという知らせを受ける。未堂棟たちは目撃者の暮らしている長屋へと向かった。

 青物問屋の主人だった。主人の話によれば、覆面の男は気付け薬として、謎の粉末を売っていたらしい。さらに、覆面の男はひとりではなく、ふたりいたことが判明する。主人は粉末を受けとったものの、使っていなかった。未堂棟は粉末を受けとった。粉末の正体にいたった。

 未堂棟たちは長屋を出る。自身番へともどった。下屋敷と蛇崩池から役人を待避させることにした。九兵衛にうそのおふれを出すように指示した。犯人を誘き出すための罠である。未堂棟はすでに犯人がだれか突きとめていた。不可能犯罪を可能にするだけの証拠を集め終わっていた。

 あとは犯人があらわれるのを待つだけだった。

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