ゴッドブレス 魔法戦車と戦少女

きるきる

魔法戦車と魔法少女

第1話 タンクの少女

 鋼鉄の分厚い装甲板で隔たれた頭上に位置する砲身。そこから放たれた高熱で蒼白い帯が前方に伸びていく。

 数百メートル先のゴツゴツした岩石地帯に吸いこまれる様に着弾し、大爆発がおきた。

 肉眼では確認できないが岩場に潜んでいた多くの悪魔の息を止めた事だろう。

 そこに複数の敵兵がいた事はすでに確認済みだ。


「フレデリカ、次行くよ。フルチャージ頼む」


「了解……いけるよ!」


「発射」


 蒼い光が地平線に向かって伸びてゆく。

 再び爆発。青い火柱が立った。


「ふう、終わったー」


 軽く伸びをする。

 視線を少し下に下げると、私と同じ行動をしている人が見える。

 私がいるシートより一段下にあるコックピット。

 そこには私の上官であり、そしてパートナーであるホーク・バーナー司令総監が操縦桿を握っていた。

 司令総監というのは我が『北アクワ国』の戦略司令に配置されている戦闘部門管轄の一番偉い人間だ。

 上官とはいえ、パートナーである私は対等な立場で名前で呼ぶ事を本人から許されている。


「ねぇ、ホーク。あいかわらず狙い通りの場所に撃ち込むわよね。前に組んだエースは相当苦労していたわよ」


 ちなみに『エース』というのは、一般的な言葉に直すと『パイロット』のことだ。

 通常、エースと言ったら腕利きのパイロットの事を指すと思うのだけれど、私が乗っている『機械式魔法戦車』という戦闘マシンのパイロットは優秀な人間しか扱えないので、呼び名は『エース』で統一されているのだ。


「まぁ、この射撃の腕で出世した様なものだからな。これがダメになったらオレはすぐにお払い箱だよ」


 他人事の様に事を語る。この人は、いつもこんな感じだ。やる気があるのかないのか全く掴めない。

よくこんなんで出世できたものだ。


「それにフレデリカ。君と組んでから今日までに上げた戦果は、ほとんど君のおかげみたいなものだよ」


 嬉しい。褒められる事はあまり得意ではないが、ホークに褒められると素直に嬉しい。


「そうかしら。あなたの腕前あっての戦果だと思うわよ。私は座っているだけだし」


 間違っていないと思う。

 以前に組んだエースは車両の操作は一流以上だったが、射撃精度がいまいちだった。

 操舵担当、射撃担当と役割分担ができれば一番いいのだが、この機械式魔法戦車はなにぶん二人しか乗れない。エースが車体の操作と射撃を両方こなさないといけない。

一芸特化ではこの戦闘マシンで最前線を生き残れないのだ。


 そして、二人乗りであるこの戦車のエースとは別の重要な役割分担がある。つまり私の役割。それは動力担当。

 この『機械式魔法戦車』という乗り物。動力は人の中にあるエネルギー。通称『魔法』と呼ばれるもの。魔法といえば、おとぎ話やファンタジー小説で手から「ぶわぁー」って炎や氷が出るアレがイメージなわけなんだけど、私のはそういうのじゃない。

 わかりやすく説明すると、電気やガソリンみたいに機械の燃料になるエネルギー。それが私の国で『魔法』と呼ばれる力。


 この『魔法』が出せる人間は希少であるようだ。

 そして、どの世界にもあるように力の強い者と弱いものがいるわけで。


 この『魔法』の強さは等級で区別される。

 一番下が五級になる。そこから一級まで五階級。

 さらに強い魔法が出せる者は特級と区別される。

 ちなみに私『フレデリカ・クラーク』は聖特級。

 『聖特級』は私だけの等級。

 突然変異か神様のイタズラか。

 私の魔法のキャパシティは他の誰よりも大きかった。測定では特級の八十八倍以上あるそうだ。

 研究所で私は『伝説の勇者』扱いだ。


そんな特別な私だからこそ、ホークという高い階級のパートナーに選ばれた。

 そして、私の様な『魔法』を秘めている人間は、こう呼ばれている。


『タンク』と。


 タンクの名前の意味は『戦車』というところからきているわけではない。燃料タンクの『入れ物・容器』からきている呼び名だ。

 兵士の中には、陰でタンクの事を話題に上げられる事は多い。もちろん悪い内容で話題の種にされる。


「あいつら呆けているだけで飯食っていけるんだからラッキーな生まれだよなー」


 基地の中で耳に入ってくる陰口で一番多いものがコレだ。

 何もわかっていない。

 ただ座っているだけじゃない。

タンクは魔法エネルギーの放出をコントロールしているのだ。常に全開でエネルギーを送っていたら燃費が悪くなる。

 それに、戦車に搭載されているメインの武装は、タンクの魔法をエネルギーに変換して撃ち出す仕様だ。

 戦場のど真ん中でガス欠になったらどうする気なのか。

 まぁ、軍は大体の活動時間を、測定とテストで把握しているのだろう。でも予定通りに帰還できるとは限らないのだ。

 

「ふぅ、着いたよフレデリカ。ほんとおつかれ。今回もよくやったな」


 ホークが任務完了の安堵から、溜息とともに労いの言葉をかけてくれる。コックピットの制御パネルを操作するのが上から見える。


 プシュー


 溜まっていた気体が一気に吹き出す様な音を立て、私のカラダに繋がっていたケーブルが弾ける様に勢いよく分離した。

 両手首と首の後ろの合計三本のケーブルだ。

 それと同時にカラダを固定していたベルトと器具も外れ、私は自由になった。

 このケーブルが外れた時の開放感はたまらない。

 逆に接続する時はなんとも言えない感覚が全身に流れる。


 タンクになる人間は必然的に自らのカラダをいじられる事になる。両手首とうなじ部分にマシンと接続する機器を埋め込まれるのだ。ヘッドホンのプラグを差し込む端子みたいな穴がカラダに三つできる事になる。

 これは倫理的に非難され、現在も問題視される事が多い。たしかに人体改造されてしまうみたいでイメージは悪いかもしれない。


 まぁ何はともあれ、この処置をする事によって『魔法』を備えた人間は、大抵の魔法製品を自らの力で動かせる様になる。

 五級のレベルの人間は家庭の電化製品くらいしか動かせない。体に埋め込む機器も片腕の手首くらいで済む。

 軍事車両を動かす為には特級くらいのキャパがないと厳しいといわれている。


 ホークがハッチを開き外に出る。


「フレデリカ、頭気をつけて」


 ホークか手を差し伸べて、狭いハッチから出るのを助けてくれる。

 パーティーでエスコートしてくれる紳士みたいだ。普段の力を抜いた、やる気のない感じからは想像できない行動をする。意外と優しい。


「よいしょっと。ありがと。あとお疲れさま!」


 ホークの胸に飛び込む様に車両から飛び降りる。


「フレデリカも。疲れてないか……って聖特級のフレデリカはこんな任務朝飯前だな」


 まぁ、確かに。十二時間くらいの任務ならまだまだ余力はある。

 ふり返りると、先程まで乗っていた機械式魔法戦車が泥だらけになって停車している。

 長い戦車砲、無骨なキャタピラ。

 動力を失った鋼鉄の塊は静かにたたずんていた。

 格納庫内を見渡すと、他にも十両ほどの機械式魔法戦車が待機している。

 ただ、私の車両と形が違う。

 明らかに違うのは私の車両には腕が付いている。

 主砲として装備されている『魔導砲』の少し下から腕が生えていた。部隊の中では「ダサい」ともっぱらの評判だ。こんなにカワイイのに。


 他の車両に腕がついていないのには理由が二つある。それはパイロットの腕とタンクの魔法力の問題だ。

 腕が二本増えた事により兵装を増やせたり、物を運搬できたりと非常に便利だが、ハイレベルの操縦技術が要求される。ああ見えて、ホークは我が国で最強のパイロットなのだ。


 そしてもう一つの魔法力の問題。

 これは単純で、搭乗するタンクに、腕を動かすパワーとスタミナがあるかどうかということ。

 特級クラスでも、この巨体を動かすのに精一杯で、腕を動かす余裕などないのだ。

 まとめ。腕付き機械式魔法戦車はホークと私の乗っているこの子だけ。

 私たちだけの専用兵器。

 

「ねぇホーク、夕飯は私の部屋で食べない?たいしたものはないけどご馳走するよ」


 夕食を誘うのは、ほぼ毎日のルーティーンとなってきている。


「いつも悪い。これから報告も兼ねた会議があるから……二時間後でもよかったらお邪魔するよ」


 最近は、二人で一緒に食事をとることが……と言うより一緒に時間を過ごすことが増えた気がする。


「うん!待ってる。楽しみにしていて」


ウインク付きの笑顔をのこし、私は自分の部屋へと走り出した。


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