第13話

「どうしたの光莉?」


 いつもと様子が違う私の変化に気づいた昴が、私の顔を覗き込む。彼の吐息が、鼻先にかかって、余計心臓が跳ねた。


「好き、なの」


 気がつけば、苦しさを吐き出すみたいに、口から本心が漏れ出ていた。こんなふうに告白をするつもりではなかった私は、はっと自分の口を押さえる。でももう遅かった。昴は、目を大きく見開いて、私の顔を凝視している。握り締めた手のひらに汗がジジリと滲んで気持ち悪い。私も手袋、はめてくればよかった。

 私は、唇を噛み締めて昴の返事を待った。

 もう言ってしまったのだ。後戻りはできないから、私にできるのは昴の返事を聞くことだけだ。彼の気持ちが自分と同じだったらいい。何度もそう夢見て、目が醒めるたびに彼と会えることを喜びもした。


 昴だっていつも、私と会っているときは心底楽しそうに笑ってくれていた。冗談を言って、私の弾くピアノを綺麗な絵画みたいだって褒めてくれた。星が降っているみたいだと表現してくれたあの日から、昴が自分と同じ気持ちであることを祈っていた。


「あのね」


 昴がようやく口を開く。

 私はきゅっと縮こまる身体を無理やり彼の方に向けて、次の言葉を待った。


「僕も好きだよ」


 彼の言葉は、文字通り私の胸にすとんと降ってきた。視界の端にぼんやりと映るイルミネーションの光の玉が、まるで涙みたいだと思う。目尻に浮かんだ珠が、光の玉になって、彼の瞳に映っていた。


「でも、ごめん。光莉とは付き合えない」


 昴の表情がくしゃりと歪み、私の目尻に溜まった涙は、簡単に滑り落ちた。


「どうして……?」


 震える手のひらをもう一度握り直そうとしても、やっぱり震えは止まらなくて。彼の口から出てきた返事は、私を幸せの絶頂と、絶望の淵に、同時に連れて行った。


「それは……」


 昴は、付き合えてないと言った理由を口にするか逡巡するそぶりを見せた。視線を泳がせて、腕にはめた時計を見やる。時刻は午後12時前。今日は門限を設けなかった。だからもう少し、一緒にいられるはずだ。それなのに、彼の心が私から離れていこうとしているのが分かって、私は再び涙した。


 ちょうどその時、彼のポケットでスマホが震え出した。着信だとすぐに分かった私は、はっと我に返る。昴がスマホの画面を見ると、驚愕の表情が広がっていくのが見てとれた。


「どうしたの?」


 告白の返事を気にしていた私だったけれど、電話に出ようともせず、スマホを凝視して固まっている彼が、私には不自然に映った。


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