バッドエンドを迎えたアラサー探偵が10年前にタイムリープしたら、吸血姫とヴァンパイアハンターと一般JKに言い寄られて目指すトゥルーエンド

佐波彗

プロローグ

『人生をやり直せるチャンスがあるとしたら、何をしたい?』

  

 なんて問に答えるのは、俺――三友亨みともとおるにとっては簡単なことだった。

  

 俺の周りにいる人たちを不幸にしないために、あんな最悪な結末を二度と繰り返さない。

  

 それが答えなのだが、実現するのはとても難しい。

 現に、今だってそうだ。

 その日、俺たちはとある用事があって、みんなで集合したあとに目的地へ向かう途中だった。

 四人で集まった駅のホーム。

 電車を待つ間、俺の隣では、よそ行きの格好をした異国風な顔立ちの小柄な金髪少女が不安そうにしている。


「有須川、緊張してんのか?」

「う、うむ。ちょっとだけな」

「お前の好きなカードを買いに行くだけだろ? そもそもお前、常連じゃねえの?」

「それはそうなんじゃが……」


 買い物をするだけなのに、こんなにも緊張するものか?


「なんで気を張ってるのか知らんけど、何かあるようだったら俺も手伝うから。気楽にいけよ」

「んむ。そうじゃな……」


 ぎゅっ、と両手の拳を握りしめる有須川璃々子ありすがわりりす

 せっかく、こうしてみんなで出掛ける気になってくれたんだ。

 これを機会に、俺もみんなも、有須川と仲良くなれたらいいんだが。

 そんな俺の隣に、凛としたイケメン女子な印象がある長身少女がすすっと寄ってくる。


「三友は甘いね。まるでそいつをお姫様扱いだ」


 來栖切那くるすせつなはどこか拗ねているようでもあった。


「まあ、今日の主役は有須川だから」


 俺は、優衣実ゆいみと有須川に聞かれないように注意しながら。


「このイベントは大事なんだよ。俺がタイムリープしたのだって、きっと有須川に関係があるんだから」

「そう言われたら、何も言えないよ」

「俺は、お前と出掛けることだって楽しみにしてたからな?」

「……キミはお世辞が上手いね」


 來栖は俺の背中を向け、それ以上は何も言わなかった。


「ふふ、亨は本当に璃々子ちゃんのこと好きだね?」


 有須川の両肩に手を添えて、長い黒髪が印象的な高垣優衣実たかがきゆいみが微笑む。

 優衣実には悪いが、好きとか嫌いとか、そういう理由で有須川のことを気にしているわけじゃない。

  


 有須川璃々子をひとりぼっちにすると、世界が滅びる。

  


 信じられないかもしれないが、本当だ。

 別に義務感や使命感だけで有須川に関わっているわけではなく、同情や共感を持てる部分はちゃんとあるし、俺も親心みたいなものが目覚めて放っておけなくなってるんだけどな。


「まあなぁ、好きなことは否定はできねえかもな」

「……!?」


 背中を向けている有須川の耳がぴくんと跳ねる。

 金髪の隙間から見える白い耳は、ほんのりと赤くなっているように見えた。


「ほら、手のかかる子ほど可愛ってよく言うだろ?」

「なんだい。そういう意味か……」


 何故か來栖が安堵の表情を見せたと思ったら、優衣実はちょっと腹立つ顔で苦笑いをする。


「うわ、出た。最近の亨ってなんかおっさんくさいんだから」


 うるせえよ、余裕ある大人の魅力が出てるだろ。

 そう胸を張って答えられたらよかったのだが。


「……え? マジで?」


 動揺してしまう俺。

 とある事情から、俺はこの時代に生きる正真正銘の17歳だと思われないようにしないといけなかった。

 とあるファンタジーな出来事を経験してこの場にいることを知られたくない。

 優衣実には、この先も幸せに暮らしてほしかったから。


「うーん、ま、なんとなくなんだけど?」

「じゃあいいだろ! お前の気のせい気のせい!」


 優衣実はあまり細かいことにはこだわらないタイプだから、ゴリ押しすれば誤魔化せる。


「ほら、電車来たぞ。電車の中では騒ぐなよな」

「はいはい。なんだかんだで、あんたが一番騒がしい気がするけど?」

「今日の優衣実は口うるせえな~」

「そりゃカノジョなんだから色々言うでしょ」


 優衣実に耳を摘まれながら車内へと連れて行かれる俺。

 こいつは本当に気が強いんだから。

 乱暴なカノジョではあるが、こういうことをしてくれるのも、優衣実が生きているからこそ。


「トールはユイミに頭が上がらんのう」

「いいな、高垣は。ボクだって……」


 口々に言いながら、有須川と來栖も俺たちに続く。


 17歳の高校二年生として迎えた春。

 けれど俺の実年齢は、27歳だ。

 一度命を落としたものの、気づいたら10年の歳月を遡って高校二年生に戻っていて、人生をやり直すことになったタイムリーパー。

 過去に戻ったことに意味があるのだと信じて、二周目の人生を生きていかないといけない。

  

 優衣実も。

 來栖も。

 そして、有須川だって。

 今度こそ、誰にとっても幸せになる未来を掴み取るために、今日は大事な一日なるだろう。

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