デスリセット
ボウガ
第1話 ザイルとヒッヅ
僕、ヒッヅが彼と出会ったのは、入学を控えた少し前の事だった。その時何か落ち込んでいて、大学入学への期待と不安で押しつぶされそうになっていた僕は、貧民街の公園に来ていた。貧民街は解体された。30年前“技術的特異点突破による進歩の社会還元”というが細かいことはどうだか。ともかくほとんどの人間は“デジタル端末抑制・制御チップ”“QIQIQ”を脳に埋め込まれているのだ。だから貧乏人はいなくなったが、ただインフラは地球環境の悪化によって密集地帯と放置地帯に分かれたままだ。
なぜ、両親の離婚の際にこの“芸術特化コロニー・ピロ”に来たのかはほとんど覚えていない。あるいは思い出したくない事があるのか。思い出したくない事ならたくさんあった。だが素直に向き合っているうちに物事はどんどんうまい方向に向かっていった。
音楽、自分の好きなギターも、大学に入ってよくなったし。大学生ともなると周囲も大人になり落ち着きを持ち始める。そうすると、ほとんどの人間はとげとげした雰囲気がなくなり、絡みやすくなる。
昔はそんな事ないと思っていた。力や能力が全てを支配して、永遠にピリピリした競争を続けていくものだと思った。あるいは社会に出ればまたそのフェーズに逆戻りするのかもしれないが。そんなことをぼんやり考えていた僕は、この荒地、極端に気温が熱く、何もない空き地に人が来ることなど想定はしていなかった。
<ガタン>
突然、音がしてブランコから顔を上げる。そちらをみると少し前方の路地から一人の男がとびでてきて、知らんぷりをして立ちあがり去ろうとしたら、次の瞬間、自分の肩に男の手が触れて、振り返る。
同年代の、それでもきめ細やかなまるで同じ生物とは思えない美麗な造形をもつ男、長いまつ毛に赤子のような肌、するどくも異国の王子のような美しい曲線美をもった輪郭。下がり目と上がり繭。同性に好意を持つ事のない僕が初めてほれぼれしたような顔つきの人だった。どこか、中性的な。ピアス穴をあけ、黒髪の前方を金に染めているが、同性に感じるいやらしさをもっていなかった。
「俺は、ザイル、お前は?」
「は?」
「礼はそれでいい、もっともハックすればわかるが、問題は形式的なもので、儀式的なものだ、つまりお前から礼を貰ったという事実が“儀礼院”もとい俺にとっては重要な事実となる」
電波入ってるのかな?と思い、ふと彼の足が赤く塗れていることに気付き目を落とすと、近くにあきらかに物騒な格好をした男たちが5,6人倒れていた。
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