ページ15 苦く、思い出したくない物それは罪

 〜黎〜


『こんにちは、突然ですが朝のニュースです昨晩の5月2日の深夜1時に愛知県碧南市にある海沿い近くの倉庫にて爆発した事件が昨晩に発生しました。』


 爆発したであろう場所が映し出されると、若い女性アナウンサーが声が聞こえてくる。

 火はまだ残っており、黒い煙と上へ上へと登っていた。


『現在はまだ鎮火されておらず、素早い対応を期待してます』

「……爆発……物騒」

「ね〜えぐいよね〜これ4件目なのよ……良くこんなに事件を起こせるもんだわ〜」


 ゴロゴロと人様の事務所にあるソファーに寝転びながら、氷室ひむろと話している彼女――雛菊ひなぎく達を見ているのだが。

 なんと言うか……雛菊この人を見ていると本当に警察官なのか?……と疑ってしまう。

 現在時刻は10時、学生である氷室も学校に行っていないとおかしいのだが、そこはまぁ目をつぶるとする。

 私はここで事務処理……と言っても活動休止しているから請求書とか諸々の書類の片付けをしていた。

 これ溜まると面倒くさいのですね……。

 私と氷室はまぁ……はい。

 ですが、ここにいる警察官の雛菊は勤務時間であり、今まさに街中をパトロール、または虚構物フィクショナリーズを片付けているのだが。

 当の本人は何故か、私の事務所でコンビニで買ってきたであろう弁当を食いながら、テレビを見ていた。

 そう、ここまで言えばわかるであろうが、詰まるところ私の事務所をサボり場にしているのである。


「……そろそろ仕事に出たらどうですか?雛菊さん……ここに来て2時間経ちますが?」

「嫌だね〜私はダラダラするんじゃ〜」


 食べ終わった弁当を片付けると、人の事務所のソファーに豪快に寝そべる。

 この人、本当に警察官なんでしょうか……。

 というか、人なんでしょうか。


「おいコラ私はちゃんと人間だよ!」


 私の考えが分かったのか、ソファーの上に上がると、まるで昭和のアニメで見る怒り方をし出す。

 毎回思うがこの人、勘が良すぎはしないでしょうか?


「……思ってないですよ?」

「嘘つけ!仮面越しだが、私には分かるぞ!」


 ソファーから飛び跳ねると、一気に私のいる方に近づいてくる。

 事務机にくると、野々宮議員並に机を叩きまくる。

 こらこら、そんなに叩いたら机が可哀想ですよ。

 と言っても、そんなに思入れのない机なんだが。


「……雛菊……さん……そろそろ辞めて……うるさい」

「?あ……ごめんね〜氷室ちゃん〜」


 不愉快さを分かりやすいように表情と声を調整しながら、呟く。

 その言葉をつぶやく時の氷室の目は死んだ魚のような目つきに、あの瞳だ。

 私と初めてあった時のあの瞳の色……深淵に引きずり込まれるような。

 話を変えようと黎は1つ咳払いをする。


「では、私はそろそろアルバイトして来ますね」

「アルバイトォ〜?……あんたまだ」


 雛菊の言いたい事は分かる。

 分かるが……私はもう、探偵業からは足を洗った。

 今更探偵業に戻るのは……あまりにも無責任すぎる。

 そのまま黎は身支度をすると、2人の方に視線を合わせず、事務所を後にする。


 〜氷室〜

「というか……あの人バイトして生活してたんだ」


 探偵さんの事務所や家を興味本位で調べてみたが、アルバイトして賄える物ではないんだよな。

 今住まわせて貰ってる部屋が10万、この事務所で5万。

 それに食事とか色々。

 これだけを調べた瞬間、私の鼻から鉄分の匂いがしだし、やめた。


「そうだね〜……1日に結構バイト持ってたような」


 私は見てしまった、探偵さんのバイト数を指を折っていくのだが……結構な量を追っている。

 1日にどんだけ持ってるんだあの人。

 ある意味凄い方だなっと思う私だった。


「私的にはそろそろやめて欲しんだよねぇ〜あーあー……早く探偵してくれないかなぁ」

「……探偵さん……探偵の事になると……少し暗くなってるような」


 黎が出てから数分だろうか、窓を開け放った雛菊の隣に行き、少し先にいる黎の姿を見つめながらそう呟く。

 その時の雛菊の表情はニコニコとしていたが、どこか辛そうに思えた。

 まるで人生今最高潮!って言ってるけど心のどこかではもうちょっと幸せになりたい……そう思える。



「……あの」


 窓際にいた雛菊に氷室が声をかける。

 ゆっくりと雛菊が頭だけ後ろに向く。

 私は1つだけ、この人に聞きたい事がある。

 それは多分その人の人生に踏み込む覚悟が必要なほど。

 私は人に興味なんてないし、どうなろうとどんな人生だろうと知ったこっちゃない。

 人の事を知ったって何もない。

 けど……なんだか……探偵さん《あの人》の事は……無性に知りたい。

 理由は分からないけど、あの人の人生……なんであんなになってしまったのか。

 なんで探偵業を辞めたのか。


「どったの〜?」


 私は声を絞り出し、少しだけ声量を上げる。


「なんで……探偵さんは……探偵業から足を洗ったんですか?」

「……そうだね……私は噂程度だけど」


 その次の雛菊の言葉を聞いた私は……少しだけ後悔した。

 無性に知りたいっていう幼稚な考えで聞くようなものでは無かったと、反省したい。

 私がそう思ってしまう一言。

 これを本人から聞くには……あまりにも酷な事。


「彼……依頼人と師匠を殺したらしいんだよねぇ〜」

「……え?」


 多分これは、苦くて思い出したくない物……罪……罪悪感。
















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