ページ12殺人鬼とお殺し合い(お話し合い)

 話し合い……それは古来より人同士の小さないざこざや喧嘩、はたまた世界を揺るがす戦争だったりと行われてきた和解の手法の一つ。

 この手法はどこでも使われている。

 だが、今警察署内である人物が話し合いをしようと持ちかけていた。

 その人物は探偵をしている男泉導せんどうれいと、提案を聞いて驚きを隠せず放心状態になった殺人鬼 二十の狂人トュエンティー・マーダーの一人道化のジェスターだった。


「……いや……いやいや!!泉導くん何言ってちゃってんの?毎回君の奇行行動見てたけど……殺人鬼に話し合いで解決とか……そんな探偵見た事ないよ?!」


 最初に沈黙を破った雛菊が声を少し大きめに言いながら黎に近づく。

 そして黎の表情を見ようとのぞいてみが、仮面をしている事を思い出し、踏みとどまる。

 だが、雛菊の反応は当たり前である。

 こんな危機的状況になっていきなり犯人と話し合いをして解決なんて聞いた事ない。

 その反応は氷室も同じだった。


「い、いや僕最初っから暴力行使はしたくないんですよ……それに彼は話し合いが出来そうだなぁーって」

「……ぷ……ぷははははは!」


 黎の発言を聞いていたジェスターがしばらく沈黙していたのだが、何かツボに入ったのだろう。

 突如腹を抱えながら笑い始めていた。

 突然の爆笑に黎や氷室、雛菊が顔見合わせる。

 少し笑った後、笑いで息が切れたのか近くにあった壁に片手を置いて息を整えていた。


「あー……やっぱ君面白い……」


 そう言いながら悠々と受付テーブルに近づくとドスッと上に乗っかる。

 どうやら黎と話すのが楽しみなのか、足をバタバタとさせながら黎に向かっておいでおいでとしてきた。

 その姿はまるで新しいおもちゃを待っている子供のようだった。

 手招きに招かれるかのように黎がジェスターの前にくる。

 すると、ジェスターが黎の耳元に顔を近づけ、小声で話し始める。


「君とは話したい……けど」


 一度、視線を見つめていた黎から雛菊の方に向く。

 視線を合わせるとすでに彼女は見つめていたのだろう。

 ジェスターがこちらを見つめた時、何か背中が疼き始めた。

 その時雛菊は自身が恐怖に支配されているのだと分かり、紛らわす為か、下唇を力強く噛み締め、恐怖をかき消していた。


「話してる時間はないんだ……君のお友達が今まさに飛びかかって来そうだからさ」


 そう言われ、チラッと視線だけを雛菊の方に向けると、ジェスターが言う通りだが。

 一見普通の佇まいのように見えるが、腰に隠している愛銃を抜けるようにとスタンバっていた。

 どうやら彼はここから逃げるつもりらしいが、多分無理だろう。

 いや無理と言ったが訂正しよう。

 一かバチかでジェスターが逃げれるかもしれない。

 何故かと言うと最初雛菊から聞いた情報によれば、ここにいた警官全員はジェスターに拳銃を向け、いつでも発砲ができる状態だった。

 そしてジェスターがショーを始めたと同時に銃撃戦が始まったのだろう。

 玄関方面を見ると、無数の銃痕の後があった。

 玄関扉はガラス張りになっていたが、そこだけ銃痕はなかった。

 多分だが、ジェスターがそこだけ影の能力で警官に注いだのだろう。

 それを踏まえると彼女の専門分野の早打ちで仕留めようとしてもジェスターは全てそれを避けて反撃をしてくるかもしれない。


「またいずれ話そう……探偵君……僕を止めてみな」


 ジェスターの影が少し動いたような気がし、影に目が映ったと同時に数発の銃撃音と硝煙の匂いが黎の後ろから匂い、聞こえてくる。

 ジェスターがいた場所の壁には撃った数の銃痕があった。

 

「ッ!」


 外した事を確認した雛菊はすぐさまにジェスターの行方を探すとなんと天井の影から上半身だけだしてこちらを見つめていた。


「僕はジェスター……サーカス団の座長……これからよろしく」

「逃すかァ!」


 影に吸い込まれていくジェスターを必死ににがさんと強張った顔付きになった雛菊がお得意の早打ちで撃ち抜こうとする。

 だが、時すでに遅くもう逃げられていた。


「しまったァ!犯人逃してアーティファクトまで……」


 うあぁぁぉぉぉ!っと項垂れながら髪の毛を掻きむしりながら悔しがっていた。

 それから10分後、他の署から来た応援が到着したのかパトカーのサイレン音が聞こえいくる。

 流石に部外者の黎がここにいると犯人に疑われるかもしれないと項垂れていた雛菊が我に帰ると共に察し、急いで黎とついでに氷室を裏から逃して、事なきを得た。

 こうして警察署襲撃事件が終わった。







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