ある探偵の虚構事件簿

狂歌

序章

ページ1自殺願望少女

 時々色々考えてしまう。

 この世で一番苦しまず、手っ取り早く死ねる方法はないかと。

 これを時々考えるんだけど、結局いつも同じ考えに辿り着く。

 よく使われるのは、首吊りや入水に薬、それに飛び降り。

 首吊りは、うまくやれば、一瞬で苦しまずに死ぬことがあるけど、場所を探すのが一苦労だし、もし見つかったとしても、遠すぎるから却下。

 入水は手っ取り早いからだが、溺れ死ぬのはとてつもなく苦痛だそうだ。

 例える事すら、できない苦痛を味わいながら死ぬのは流石に嫌なのでこれも却下。

 なら薬で逝くのは?。

 これは気持ちよく殺してくれるけど……買うのが困難すぎるから却下。

 と、したら最後に残った死に方は飛び降りだけど、これもダメ。

 飛び降りた寸前はもう解放された感が出てくるが、落ちた後運が悪すぎると、激痛だけ味わって、病院で生き返すかも……。

 だからこれも論外。

 そして、これらすべてを考え、導き出した答えは、薬からの入水……睡眠薬を飲み干して、眠気に襲われ、気を失った瞬間、水に飛び込めば、苦しまずに死ねる。

 今までは考えるだけだった……けど、もう今は違う。

 だって、私……雪季は今、入水自殺を測ろうとしていたからだ。




 辺りが真っ暗な時間、隣の区へと続く橋の歩道に設置されている岩製の柵に一人の少女が座っていた。

 その容姿はまるで人形のような肌に、細々とした体で、強い風が吹いたら吹き飛んでしまうのではないかと思ってしまう。

 服装はどこかの学校の制服であった。

 その少女は無表情で何を考えているかわからないが、視線は一点をずっと見ていた。

 その見ている方向には、大きな川が流れていた。

 その川の少し先には大きな白い壁があり、そこから川の水が流れ落ちていった。


 数分後、少女はゆっくりと柵の上に立つと同時に心地いい風がヒューっと少女の体を通り抜けていく。

 勢いが強く少しバランスを崩せば、真っ逆さまに落ちるぐらいだ。

 履いていたスカートを押さえ、風が止むのを待つ。

 今から死ぬとはいえ、スカートの中を見られるのは正直恥ずかしい。

 少しして、風が止むと、腰まである髪の毛を手入れし、少女はスカートのポケットから一粒の薬を取り出す。

 自殺用に買っていた睡眠薬である。

 一粒飲めば、数分後には効果が現れ、プチンっと意識が消えるらしい。

 少女自身、まだ使った事がない。

 まさか、自殺のために使われるとは、製作者は思いもしなかっただろう。

 薬を少し見つめると恐る恐る口へと持っていく。


「自殺なんてしない方がいいですよ」

「……え?」


 まさに自殺しようとする後ちょっとの所で、後ろからとても優しそうな声が聞こえる。

 少女は少し驚きながら、少し顔を横にし、目で見てみる。

 さっきまで誰もいなかった場所にいつの間にか一人の人がいた。

 横目でチラッとみると、角度的に顔は見えず、首の下は確認できた。

 足まである黒のコート、その下は黒と白を基調としたスーツを着ていた。

 そして首には不思議な首飾りをつけていた。

 クリスタル状の飾りが吊るされており、そのクリスタルは青色をしており、とても綺麗な首飾りだった。

  


「……自殺? 何のことです?」 


 見ず知らずの通りすがりの男に指摘され、咄嗟に少女は誤魔化したが、男は微笑んだままこちらを見つめていた。

 ここで自殺をする事が当てられて、少女は少し戸惑っていたが、表情に出さず、やり過ごそうとする。

 流石に警察を呼ばれるのはこっちにも困る。

 せっかく人がいない時間を何とか探し出した為、ここを警戒されると、しばらく自殺できない。 


「何の事って……誤魔化してもダメですよ」


 そう言いながら、後ろにいた男が私の方にジリジリと近づいてくる。

 突然だった為私は少し身構える。

 私の隣に着くと、男は柵にもたれかかり、頬杖をし、私の目を見つめてきた。

 男の顔を見つめると、仮面がつけられていた。

 そして男の仮面の中にあった青の中に少し黒が混じった瞳を見つめている。

 そのままジッと私は男の瞳から、顔を見つめている。

 

「誤魔化してない……」


「……その手に持っている薬は市販で売っている睡眠薬、一錠飲めば数分後に効果が現れる優れもの」

「その為、自殺に使われる事が多くなった為販売中止になった」


「……」


 男の角度からだと、うっすらしか見れないのに、薬の性質を当ててくる。

 薬の詳細を当てられ、私は咄嗟にに持っていた薬をポケットに隠そうとした時、男が素早く私の手首を掴むと、自分の方に持ってくる。


「手荒な事をすみません……すみませんついでに、この手のひら……開いてもらってもいいでしょうか?」


 掴まれた手を引っ込めようとしたが、うまく力が入らず、引っ込めることができなかった。

 この細い腕のどこにこんな力があるのか、少し不思議に思ってしまった。

 そして、力を入れられているはずなのに、痛みが無く、不快な気持ちにならない。

 いきなり掴まれた私は少し驚いたが、少し考え、定番のセリフを呟いた。


「断る……」

「そう……ですか」


 すると、仮面の男はゆっくりと離すと、少し下がる。

 そう簡単に離すと思っていなかった雪季は少し驚き、表情に出るが、少し立ち、無表情になる。

 ここでは死ねないと思い、雪季は柵から降りると、置いていたカバンを持ち、歩き出す。

 少し歩くと、男が気になり、後ろをみると、仮面の男は雪季の方をずっと見つめていた。

 雪季はその視線を気にせず、また歩き始めると


「あ、そうだお嬢さん〜」


 走る音が後ろから聞こえてくると同時に雪季を呼ぶ声が聞こえ、また振り返ると、仮面の男が近づいててた。


「?……まだ何か用でも?」


 そう言い放つと、ものすごく嫌そうな顔をしながら仮面の男の方を見つめる。


「今から帰られるなら、送りますよ……夜は色んな人がいますから」

「お断り」


 仮面の男の提案を即座に切り捨て、早歩きで去っていく。


 仮面の男から離れて数分経つ。

 そそくさと歩き続けていると、住宅区の中心部へと来ていた。

 心地いい夜風が少女の体を通り抜けていく。


「……」


 今日死ねなかったなぁ……っと少し寂しげに思うと、ポケットにあった薬を取り出すと、じっと眺めていた。

 じーっと眺めていると、頭の中に一つの疑問が浮かぶ。

 あの時、少女の腕を掴まれた際、仮面の男は一切力を使っていなかったのに、何故振り払えなかったのだろうか。

 あの時掴まれた感覚ではなく、こう、まるで少女の腕が仮面の男と同化していた……そんな感覚だった。

 ふと、掴まれた場所の袖を捲り、見つめるとそこには掴まれた跡がなかった。


「……不気味……」


 そう呟くと、袖を直し、歩き出すと、後ろに違和感を覚え、チラッと横目で見てみると、誰かがつけていた。

 暗くて容姿はよく見えないが、少女はひとつ心当たりがあった。

 その心当たりとは先程の仮面の男であった。

 少女は小さくため息をすると、歩くスピード上げていく。

 どうせしばらくしたら離れるだろうと思い、家の近くまで歩くが、まだ後ろに気配を感じる。

 流石に家を知られたくなく、途中で道を変え、路地裏に入ると一気に振り返る。


「あの……いい加減にしてください、付き添い入らないっていいましたよね?……警察呼び……ます……」


 そこまで言うと、言葉が詰まった。

 少女の景色には、仮面を着け、黒のコートを着た男……ではなく、別の人物だった。

 普通ならここで人なら、安堵するが、少女の瞳に写ったモノは、果たして人と呼んでもいいんだろうか……。

 そのモノは容姿は人だ。

 ジーパンに白のTシャツを着たごく普通の人に見えるのだが、その上……頭部はこの世の物とは思えない形だった。

 首には自殺で使用したのか、首吊り用のロープが巻きついており、顔面は黒い塵状のモヤがあり、そこから不自然に目や口などが出たり入ったりを繰り返していた。

 未知なる生物を見た少女は恐怖の表情をし、ゆっくりと数歩後ろに下がる。


「な……何……貴方」


 何とか声を絞り出す事が出来、質問する。

 すると、怪物は少女の方をジロっと、まるで獲物を見るかのような目で見つめる。

 その視線を向けられ、少女は無意識に鳥肌が経ち、悪寒が現れ始めた。


「〇■■■?」


 突然怪物の方から声が聞こえたが、何を言ってるのか、理解が出来なかった。

 何かこの世界の言語ではなく、全く未知の言語で喋りかけていた。

 少女は恐怖でゆっくりと後退りをすると、逃げると察したのか、先ほどの言葉を言いながら、こちらにジリジリと近づいていた。

 

「……に……逃げなきゃ」


流石にこのままではヤバいと思い動こうとするが、足がゆうことを聞かず、震えている足を思いっきり少女は叩くと、前を向き、走り出す。

 少し走り出し、角を曲がり、振り返ると、さっきの怪物が追いかけてきていた。

 追いかけてくると知ると、少女はまた走り出す。

 少し走りすぎて、息が上がり、目の前がクラクラっとし出していると、瞳に建設予定のマンションがあり、そこに逃げ込む事にした。

 建設ならば、隠れる場所はたくさんあり、凌ぐ事もいい。

 少女は出来上がっていた一室に入ると、息をひそめる。

 

「○◼️◼️◼️?」

「ッ!」

 

 しばらく身を潜めていたが、扉の方から怪物の声が聞こえ、一瞬、少女はビクッと体をびくつかせると、息を止める。

 ドクンドクンと静寂した世界で自身の心臓が大きく聞こえる。

チラッと扉に備え付けられていた窓を見てみる。


「?!」


扉の前に、怪物が立っており、ドンッ!と扉を叩きつけていた。

少女は目をつぶり、耳を塞ぐ。

私はなんで……なんで隠れているんだろう。

その時だった。

頭の中にその言葉が生まれた。

少女は死にたかったはずだ。

自分じゃ死ねないのなら、誰か……そう例えば今扉の前にいる怪物に。

すると、少女はゆっくり立ち上がると、フラフラと扉の前にあるきはじめる。


「〇■■い?」


扉に近づく度、怪物の言っていた言葉が理解出来てきた。


「〇■たい?」


そう……貴方は、私を。


「〇にたい?」


私を……この灰色がかった孤独な世界から


「死にたい?」


「殺してくれる?《救ってくれる?》」


その瞬間怪物は不気味な笑いと笑みを浮かべ、扉越しから少女を見つめていた。


「救うよ」


その言葉を聞いた時、少女の目は正気を失い、ゆっくりと、扉に手をかけようとする。

怪物は扉が開くのを今か今かと待っている。

その時だった。

怪物は何かを察知したのか、勢いよく、横を見る。

そこには、1人の仮面をつけた男がいた。


「やはり……尾行して正解でしたね」

「?……ッ!」


怪物はその人間を見つめるやいなや、体から危険信号が発信し、一気に仮面の男から、離れる。


「……夜、人気が居ない道路に現れ、死にたい人に恐怖を覚えさせ、密閉された場所にその人物を入れる」

「そして、ゆっくりと恐怖を与えると、音を立てて、暗示……そして人に死を強調する。」

「キサ……マ……ナニモノ」

「……通りすがりの探偵ですよ」

「タンテイ……」

「何故、死を強調させ、殺そうとする」

「シンダホウガ……スクイニナル……ダロウ」


 怪物の言っている事は……情けないが、少しわかる……。

 死は救済だと掲げている人達は大勢いる。

 だが。


「死にたい人間に救いを与えるのなら、死んだ方がいい……一理あります……ですが」

「……死を強要……それは救いではない」


その時、腹にも響くような咆哮を出し、鋭い無数の眼球が探偵を見つめると、怪物が探偵目掛けて、高速ダッシュで接近する。


「そんなものはタダの幻想……あなたの思想の押し付けです」

「うガァぁぁぁぁ!!」


 怪物が探偵とそんなに遠くない距離に近づいた時、二発の発砲音が辺りに響き渡ると同時に、怪物が探偵を通り過ぎていく。

 しばらくそのまま両者振り向かず、その場で止まっている。

 次の瞬間、怪物の方から何かが崩れる音が現れ始めた。

 その音を聞いた探偵は咄嗟に取り出した銃を懐にしまうと、怪物の方を向く。

 崩れる音の正体は、怪物の体が崩れていく音だった。

 しばらくし、完全に塵と化した。

 その姿を見届けた探偵は、怪物がいた場所に合掌し、お辞儀をし、少女の元に行く。

 少女がいた場所の扉を開けると、気を失い、床に倒れ込んだ少女を発見し、抱き上げると、その場を去っていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ある探偵の虚構事件簿 狂歌 @kyouka00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ