七五三の神隠し
「惠ちゃん、綺麗だよ」
「ありがと ! 珠代ばあちゃん」
曾祖母にお礼を言うと、鏡の前に立って自分の姿を見る。赤い着物を着て白い髪飾りを付けて、化粧をした自分の顔はなんだか不思議だったけど、
母が選んでくれた赤い紅が綺麗でほんの少し大人になった気分だった。
その日は、私の七五三の日。着付けは曾祖母が化粧は、母がしてくれた。
「さぁ、神様にも可愛くした姿を見てもらおうね」
「うん ! 」
赤い下駄を履いて、カランコロンっと小気味いい音を鳴らしながら父と弟たちの待つ車へと向かう。
「どう ? 似合ってるでしょ ? 」
「姉ちゃん、かわいい ! 」
「馬子にも衣裳……」
下の弟は素直に褒めてくれるが、上の弟はチラッとだけこちらを見て憎まれ口を呟いた。
「なんでよ ! 赤い紅、似合ってない ? 」
「そんな事、言ってない」
そのまま少し言い合いになりかけるも、運転席に座る父が振り返り怒鳴って来る。
「うるせぇ ! 良いから、早く乗れじゃ ! 」
「っ ! ……はい」
きっと、着替えに時間がかかったから怒っているのだ。父は、身体だけが大人になってしまった子供の様な人。
弟の入園式の朝も、母が弟の準備を手伝っていたら「子供の事より、俺の世話をしろ ! 」ってあり得ない事を怒鳴ってた。本当に恥ずかしい人だ。
血こそ繋がってはいるが、私は父が好きじゃない。私だけじゃない、上の弟なんて先月に母方の曾祖母宅に行った時「俺は、家を継がない。親父の跡継ぐぐらいなら家を出る」とまで言っていた程だ。
今回は怒鳴るだけだったから良いけど、酷い時は物も飛べば手も出るしもっと酷い罵詈雑言でなじって来る事だってある。父の車は五人乗りだから、曾祖母は祖母の車で後から来ることになった。
曾祖父は病院、祖父は仕事なので少し残念だが母が沢山写真を撮ってくれるので後で見せようと思う。
駐車場の砂利道から鳥居に向かって歩くが、履きなれない下駄で多少の歩き辛さを感じたんだ。だけど、曾祖母と母が両手を握ってくれてそれが凄く嬉しかったから歩き辛さなんて二の次になってた。
鳥居を潜ると、手水舎で曾祖母から手順を教わりながら母と二人で手を洗い口を漱いだ。そして、石段を上がり拝殿へと向かう。
大人の足ならそうでもないのだろうが、当時7才になったばかりの私にとってはなかなかにきつい石段だった。下駄の所為で、より上り辛さを感じつつも何とか上っていると下の弟が隣へやって来て煽りだす。
「姉ちゃん、おそ~い。俺の方が早いや ! 」
「しょうがないでしょ ! 下駄なんて履き慣れないし……」
「もしもしカメよ~。カメさんよ~」
「誰が亀だ ! 」
負けず嫌いの私は、弟の言葉に怒り覚え一気に駆け上がった。そして、上り切った私はドヤ顔をしてやろと振り返る。
でも、振り返った先には誰もいなかった。家族はもちろん、他の参拝客の姿さえなくなっていて私は訳が分からず一瞬固まってしまう。
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