第30話 救世作戦『黎明のアドリビトゥム』


アトランティスの都市そのものが、要塞として独立して海中から地上へと浮上していく。


目の前の出来事が理解を上回りすぎていて、もはやリアクションすら追いつかない。


 


「すごいなぁ………✨まるで夢みたいだ………✨」


 


いや、なんかアインは終始興奮気味で落ち着かない様子だったが……


アトランティスはそのまま空を飛び、山も谷も越えて連合軍本陣のある常夜の国を目指して直進した。


今思ったが、このように地形すら無視して敵陣にカチコミかけられる水底の国に戦争仕掛けたら、まず勝ち目はなさそうだ。


その気になれば、他国を侵略する事も簡単だろうな………


 


「なァ、ナギ。水底の国の技術力があれば世界征服でもなんでもできるンじゃアないか?」


 


俺は思いついたまま、ナギに尋ねてみた。


 


「いやいや、そう簡単にはいかんよ。なにせ常夜の国には、神話時代から生きる世界最強の魔法使い、クロツキ陛下がいるからな」


 


ふむ、そういう物かァ………?


 


「それに、我らは今の平和な海底暮らしも気に入っている。世界中を敵に回すなど愚かな事だ。ただし、《侵略行為には徹底抗戦するがな》》………当然、邪神も例外ではない」


 


途中まで和やかに話してたのに、最後辺りナギがガチの軍人の顔つきになってる………


とりあえずこの話題はもうやめとこう。


そうこうしている内に常夜の国が見えてきた。


スゲェな………夜天よりも速い。


 


『こちらは水底の国である!!!常夜の国との同盟に基づいて機動王都アトランティス、これより連合軍に合流する!!!』


 


 


▷▷▷


 


その後、俺達はアトランティス王と共に連合軍の会議に参加する。


 


 


「久しぶりだな………炎皇」


 


 


炎皇は無言で俯いている。


 


「アンタがミユを犠牲にしようとした事は、正直今でも割り切れちゃアいねェ。今は幸いにも全てなんとかなったが、俺もアンタの背負う物や都合を考えてなかった………だからここで筋を通す、すまなかった………!!!」


 


俺は最大限の誠意を込めて頭を下げる。


 


 


「クロード殿、頭を上げてくれ。他に選択肢がなかったとはいえ、そなたらには酷な役割を押し付けてしまった………そなたが頭を下げるというのならば、余も謝罪せねばなるまい…………」


 


互いに気まずくなり、黙り込む。そんな中唐突にアインが口を開いた。


 


「ここは一つ、お互いに水に流しましょう!!邪神との戦いが終わったら、盛大に宴でも開いてパーッと!!!皆で一緒に!!!」


 


アイン……………おめェ、酒飲みたいだけだろ…………まァ、それはそれとして………


 


「ありがとな、アイン…………」


 


やっぱ、こいつこそ勇者にふさわしい。たとえ飲んだくれでも、戦う事しかできない俺なんかよりもよっぽど、精神的な意味で勇者としての器がある。


 


「話を戻しますが、水底の国の連合軍参加により、本日を以て救世作戦『黎明のアドリビトゥム』を始動します」


 


氷雪帝ナターシャ陛下が場を仕切り直した。


 


「常夜の国率いる連合軍本隊は、邪神の眷属を突破しつつ邪神樹へと全力で攻勢をかけます。そして、本隊そのものを陽動として勇者パーティの皆様には、風の国の竜騎兵部隊と共に邪神樹へと突入、邪神の本体を発見するまで交戦していただきたい」


 


「我が水底の国は、アトランティスに備え付けられた防衛兵装で火力支援、それと平行してアトランティスそのものを補給拠点とする。だが、勘違いするな………我らはクロツキに免じて協力してやるだけの事………、貴様らが過去に行った侵略行為を許した訳ではない………!!!」


 


アトランティス王は各国の王達を睨みつけながらそう言った。


 


「我が水底の国は、いかなる侵略行為も容認しない。それは、邪神とて例外ではない。利害が一致している以上、いくらでも力を貸してやるとも………ただし、今後も常夜の国以外との関わりは持たぬ!!!我らの安寧を妨げるのならば、何者であろうと排除する!!!」


 


いっそ清々しいくらいの断固たる拒絶。だが、アトランティス王は過去のしがらみすらも呑み込んでまで連合軍に力を貸す事を表明してくれた。


そして、今やアドリビトゥムのあらゆる国が協力して邪神の脅威に立ち向かおうとしている。


決して負けられない戦いが、俺達のすぐ目の前に迫っていた。


 

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