第10話 凍鎧竜降臨
「フフフッ……、クロード様もアイン様もなかなか波乱万丈な旅路ですね」
雪に覆われた森の中で俺が遭難してたミユに襲撃されて、成り行きで一緒に『氷雪狼王 ロボ』を討伐した話。アインがお人好しゆえに騙されまくって金を巻き上げられた残念エピソード。呪詛喰らいの件は少しどころか相当ぼかしたが俺とミユの馴れ初め、そしてアリアとの出会いと、もうこの世への未練はないはずなのに何故か守護霊にランクアップして憑いてきたアリアの話。
「そこで私は
「アリアさんは愉快な方ですね」
「もちろんですとも!!人生エンジョイ勢ですから!!もう死んでるけど(笑)」
アリアがハイテンションで、氷雪帝相手に自身の話をしている。
なんか、既にアリアのキャラが面白幽霊メイドとして俺達の中で定着しつつある。と言うか、微妙に笑いにくい部分を自分からネタにするのやめろや………
リゼルはというと相変わらず幽霊であるアリアが怖いようで、紅茶のカップを持つ手が震えていて顔面蒼白である。
「リゼルさん?私は人畜無害な幽霊だから怖くないですよ〜♪むしろクロード様の方が目付き悪くて怖いし、刃物の収集が趣味のミユ様の方がよっぽど物騒で怖くないですか?」
とりあえず、やかましいわ
アリアはなるべくリゼルを怖がらせないようにと笑顔で近付くが、やっぱり駄目だったらしくリゼルは恐怖のあまり放心状態となり虚ろな表情になってた。
「皆さん本当に愉快な方達でとても楽しいお茶会でした。さて、ここからが本題ですが勇者様、この国を救ってもらいたいのです」
氷雪帝が真剣な表情でそう言った。
話を聞くと、氷雪の国を守護する神獣『凍鎧竜』が謎の呪いによって狂い果てて国内で暴れているらしい。
凍鎧竜とは氷雪の国に古くから住んでいる神竜の事だ。
口からは万物を凍てつかせる氷のブレスを吐き散らし、その外皮は氷属性の魔力を帯びた分厚い永久氷塊の層で守られている為にありとあらゆる攻撃が通用しない正真正銘の怪物であり、現在進行形で氷雪の国を脅かす災厄でもある。
「うん、絶対無理!!」
俺は脊髄反射で即答した。
「クロード!?諦めるの速すぎるよ………!?」
「うるせェーーー!!神話級の怪物なんか倒せるかァーーーー!!!」
アインが呆れてるがそんなの知った事じゃない。そもそも勝てる訳がないのだから、凍鎧竜と戦う事じたい遠回しな自殺のような物じゃないか?
「あの………、倒さなくてもいいんです。というか、凍鎧竜を倒すのも勇者様達が死ぬのも困ります………勇者様達は大地の国を蝕んでいた呪いを浄化したと聞いています。なので凍鎧竜を狂わせた呪いの浄化をお願いしたくて………」
氷雪帝がこちらの反応を伺いながらおずおずと提案する。
「なるほど、それなら難易度は少し下がるな………あながち不可能でもなさそうだ」
たぶん効かないと思うけど万が一の事を考えて、凍鎧竜を殺してしまいかねない『
だが要はどうにかしてミユを凍鎧竜に接近させる時間稼ぎをすればいいだけだ。
しかし、呪いを取り込んだミユが狂ってしまわないか、それが唯一の気がかりだ。
「ミユ………、任せていいか?」
俺は不安を抱えたままミユに問いかける。
「クロードがボクを必要としてるのに断ると思う?ボクの全てはキミの物なんだから、クロードの為なら地獄だろうと死地だろうと、どこへでも………♪」
ミユは笑顔で即答するが、俺はその姿にどこか危うさを感じた。まるで、俺の為なら自分は死んでも構わないというような歪な覚悟というか、自己犠牲すら惜しまない狂気的な愛情というか………
だが、ミユに任せるしかない。他の手段など最初から存在しないのだから。
突如、猛吹雪が発生して外の景色が白一色に染まった。
「どうやら準備をする時間すら与えてくれないようですね………凍鎧竜のお出ましです。皆さん、ご武運を………」
氷雪帝が指差した先には、白一色に染まる景色の中、迫りくる巨大な黒い影一つ。氷雪の国の守護神獣、凍鎧竜だ。
俺達はバルコニーに出た後、リゼルを正気に戻らせて戦闘準備をした。
『我ハ…………許サヌ…………神ヲ…………コノ世界ヲォォォォォォォ!!!!』
吹雪を切り裂いて降臨した災厄の化身は、クリスタルパレスを睨み咆哮する。
大地の国のマーテル神殿でも聞いたこの言葉、おそらく呪いの根源は同じなのだろうが何を意味しているのだろうか?
そんな事を悠長に考えるだけの時間を凍鎧竜が待ってくれるはずもなく戦闘となる。
凍鎧竜は氷属性のブレスを吐き散らして攻撃してきた。ブレスの余波でクリスタルパレスを構成する氷が次々と砕け散る。
さらにブレスが放射された場所はもちろんの事ながら空気中の水分すら凍って、氷の礫を伴う暴風が俺達を襲った。
事前にミユが設置した『
「私に任せてください!!」
苛烈な氷風の中、リゼルが大魔法の詠唱に入った。
「炎の神アグニに願い奉る。太古より伝わりし創世の業火、万物の根源たる神炎、星の
「其は根源なり、其は全てを灼き尽くす物なり、創世の時を再び刻み、汝を灼き尽くすは終わりの炎!!!極大焼却魔法、
リゼルが放った大魔法は凍鎧竜のブレスを打ち消しながら直撃して、凍鎧竜は燃え上がる炎に全身を包まれた。
しかしそれもわずかな時間だけで、リゼルの渾身の大魔法は大したダメージにはならなかったようだ。
「なら………手数で勝負するまで………!!術式並列展開、魔力供給オールクリア。
リゼルは先程のブレスのお返しとばかりに
決定打にはならないものの凍鎧竜の視界を遮る事と、足止めする事には成功した。
「僕も負けてられない………!!心剣、最大出力!!
リゼルに負けじとアインも心剣から放出される巨大化した光の刃を凍鎧竜めがけて振りかざした。
ダメージはないにも関わらず、魔法による集中砲火と心剣による滅多斬りを一方的に受け続ける事が不愉快だったのか知らんけど凍鎧竜は空高くまで舞い上がるとリゼルとアイン目掛けて突進して、その巨大な爪で急降下を伴う引っ掻き攻撃を繰り出した。
「危ねェ!?
俺は自身の存在固有時間を加速して凍鎧竜とリゼル達の間に割って入り、さらに凍鎧竜の存在固有時間を停止して動きを止めた。
停止できる時間はせいぜい7秒。そして俺自身も凍鎧竜から離れる事ができない。
「アイン、リゼルを守れ!!!ついでにアリアは俺のフォローだ!!」
「だが断る!!!」
アリアは、『バァーン!!』という擬音が似合いそうな奇妙な決めポーズをしながらそう言った。
「断るのかよォォォ!?」
ふざけんなよ
そろそろ時間停止が切れそうだってのによォ………!!
「仲間を守る、敵の足止めもする………両方やらなきゃいけないのが優秀な守護霊の辛いところですね………『
アリアが手に持った針に繋がる光の糸、アリアはその針と糸で固有時間を停止された凍鎧竜の足をクリスタルパレスの床に縫い付けた。そのまま凍鎧竜の全身さえも虚空に、否、空間そのものに縫い付け拘束する。
「ナイスだアリア!!今だミユ、行けェ!!」
ミユは、アリアがいつの間にか瓦礫を縫い合わせて作った足場を使って凍鎧竜の背中に登った。
そして案の定、凍鎧竜の背中には黒い樹木の形をした呪いの塊が植え付けられていてミユが呪詛喰らいの力でそれを吸収した事により凍鎧竜は正気に戻った。
『礼を言うぞ人間。貴様らのおかげで我は正気を取り戻せた。それと……………そろそろ拘束を解いてくれませんかね…………?ナニコレ全然動けんのだけど!?貴様ら我に何したの………?』
そういえばアリアの魔法で拘束したままだったの忘れてたわ………
アリアが魔法の効果を解除して、その後凍鎧竜はブレスではなく今度はひとしきり不満を吐き散らして住処へと帰っていった。
□□□
用語解説
アリアのユニーク魔法。アリアが所持している針と、魔法の効果で生み出された光の糸であらゆる物を縫い合わせる。
分類としては概念系の魔法に属する。
この魔法で縫い合わされた対象はアリアが魔法の効果を解除するか、あるいは概念系の魔法による干渉で糸を断ち切るかをしない限り永続的に縫い付けられた状態となる。
余談だが、
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