第20話 中村航:置いて行かれてる

【中村航 置いて行かれてる】


 幼馴染の二人が同じアニメに出る!


 すごいことになってきやがった!


 これなら二人とも余計な気遣いなしに喜べるんじゃないだろうか?

 帰ったら直接言おうと思いつつ、今すぐ祝いたくてしょうがない。


(航)二人ともおめでとー!!


 オレは机の下でスマホを操作し、三人のグループにメッセージを送った。

 これを機会に、二人のギクシャクがなくなってくれたらなおうれしい。


 先に返事をくれたのは葵だった。

 ゆるい感じのワンコが、目をカッと見開いているスタンプを送ってきた。


 何これ? どういう感情?


 葵のおかしな言動や反応には慣れているつもりだが、わからない時はわからない。

 とりあえず、オレも手持ちにあったワンコが喜んでいるスタンプを返しておく。

 晴香からの返信は、昼休みの終わり際にやってきた。


(晴香)ありがとう。がんばるね!


 晴香にしてはシンプルな一文だが、それだけにどう反応するか悩んだ感じが伝わってくる。

 昼休みいっぱい悩んだのかもしれない。


 いつもクライメイトと話す時間を大事にしているのに、昼休みが終わるぎりぎりまで教室に戻ってこなかったし、そういうことなのだろう。

 このグループに書き込むのに、それほど考え込まなければならない状況というのが悲しい。

 それでもこれは大きな一歩だ。

 ここからなんとかつないでいきたい。

 当面の目標は、ギャラナスの一話を三人で笑って見ることだな。



 その日の夜、ギャラナスファン界隈は荒れた。

 SNSでも当時のファンがひっそりトレンド入りするほどだ。


[VTuber投入かあ]

[前からゲストってもともとあったけど、ちゃんと声優使ってたよな]

[VTuberでも別にいいだろ、上手けりゃ]

[上手けりゃな]

[演技の上手いVとか見たことない]

[そりゃお前が見たことないだけ]

[それで話題になって、次の続編作ってくれるならしゃーない]

[芸能人枠みたいなもんだと思えば]


 作品のファンからは、否定的な意見が多い。

 一方、葵の配信では高額の投げ銭が飛び交っていた。


[バイオレットちゃんおめでとおお!](一万円)

[絶対見ます](五百円)

[前からギャラナス好きだって言ってたよね。おめでとう](五千円)

[なにげに声優デビューかー](百円)

[オレ達のバイオレットの美声が世間に知られてしまう。それでもバイオレットちゃんを応援し続けます。変わらずかわいい僕達のバイオレットちゃんでいてください](一万円)


 これだけ話題になれば、とりあえず製作側の狙いとしてはばっちりなのだろう。


 いかんいかん。配信ばかり見てないで、勉強しないと。


 二人を仲直りさせたはいいけど、オレが一緒にいる資格のない男になっていてはしょうがない。

 目立った特技のないオレにはこれしかないのだから。


 『航がふがいないから、ファンと結婚することにしたわ』なんて言われたらイヤすぎる。


 考えただけで頭がおかしくなりそうだ。


 二人と同時につきあえるわけでもないどころか、どちらか一人だけでも釣り合わないなんてことはわかってる。

 今すぐどうこうなんて考えてないけど、せめてあの二人から見て、選択肢に入るような男にはなりたい。


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