VTuberの幼なじみと声優の幼なじみが険悪すぎる

遊野 優矢

第1話 中村航:幼馴染を応援したい(1)

■■■ エピソード1 幼馴染が声優とVTuber ■■■


【中村航 幼馴染を応援したい】


 高校二年生の始業式は特別だ。


 学校にも慣れ、受験までまだ余裕のある一年間という、貴重な時間を一緒に過ごすメンバーが決まる日だからである。

 二年C組は特に男子達の喜びようがすごい。


「晴香(はるか)ちゃんと影川((かげかわ)さんが同じクラスってマジ?」

「学年の……いや、校内顔面偏差値ランキング一位二位がまとめて?」


 教室は朝からずっとこんな感じである。


「それじゃあみんなお先に! 明日からもよろしくね!」


 ぱっちりした瞳をみんなに向けて明るくそう言ったのは、日向晴香(ひゅうがはるか)。ぶんぶんと大きく手をふると、生まれつき茶色がかった緩いウェーブのロングヘアーをなびかせ、教室を出て行った。

 始業式後のホームルームを待たずして、初日からの早退である。


「待って日向さん。クラスのメッセージグループ作ったから入ってくれない? ムリにとは言わないけれど……」


 いかにもまじめそうで、今日にもあだ名が『委員長』にでもなるんじゃないかといった感じの女子が、遠慮がちに晴香に声をかけた。


「もちろん! あんまり書き込みとかはできないかもだけど、みんなとは仲良くしたいもん。よろしくね!」

「あー! じゃああたしもアドレス交換したい!」「ずるい! あたしも!」


 委員長風の女子とスマホを付き合わせているところに女子が群がっていく。

 晴香のすごいところは、男子だけではなく女子人気も高いところだ。


「ちょっとちょっと! 個人的なのは後からグループ経由でできるでしょ。日向さんはお仕事に行くんだから邪魔しちゃだめよ」

「みんなごめんねー。お仕事おわったら、グループのみんなに友達申請しておくから、拒否ったりしないでね?」


 笑顔で去って行く晴香をみんなが眩しそうな目をして見送る。


「さすが晴香ちゃん、アイドル声優ってのは忙しいんだな」


 オレの肩に腕を乗せ、晴香の背中を眩しそうに見つめているのは、一年から続いて同じクラスとなった佐藤だ。

 顔はほどほどにイケメンと言って差し支えないはずなのに、言動がたまにアレなせいで、性格を知らない他学年の女子からだけモテるというちょっと残念な男である。

 友達と呼んでもよい程度にはつるんでいるが、学校でだけという微妙な仲だ。


「幼馴染がアイドル声優なんていいよなあ。今年こそ紹介してくんね?」

「佐藤はそればっかだな」

「だってよう、この先の人生で声優さんと接点持てることなんてないだろ」

「お前の人生がどうなるかは知らんけど。そういう頼みは全部断ることにしてる。自分でがんばってくれ」


 ただでさえ晴香は、知らない男子からしょっちゅう声をかけられ辟易しているのだ。 オレがさらに負担を増やしてどうする。


「やっほー航(わたる)。今年は同じクラスだね」


 オレと佐藤の会話にひょこっとわりこんできたのは影川葵(かげかわあおい)。

 黒く艶やかな長い髪に長身、ブレザーの上からでもわかる大きな胸が目を引く美少女にして、オレのもう一人の幼馴染である。


「マジかよ。中村って影川さんとも知り合いなのか?」

「まあな」

「影川さん、オレ佐藤っていうんだ。よろしくな」

「よ、よろしく……」


 葵はオレへの対応とは違い、すんっと真顔になる。


「俺ってMeTubeでゲーム配信やってるんだけどさ、こないだ登録者千人行ったんだよ」

「そ、そうなんだ……」


 こういった自慢にしか聞こえない話題をいきなり出すあたり、これが佐藤の残念なところである。

 葵が引き気味なのに気付く様子はない。

 彼女の反応が微妙なのには、別の理由もあるのだが。


「だからさ、連絡先交換しない?」


 なにが『だから』なんだよ。


「え、えと……私、そういうのはちょっと……」

「ちょっと! 葵が困ってるでしょ」


 葵を庇うように佐藤を睨んだのは、ショートカットの似合う快活そうな女子だ。

 晴香と葵がいなければ、クラスで一番かわいいと言われてもおかしくない美少女である。


「キミが中村君だよね。葵から色々聞いてるよ。わたしは家塚仁美(いえづかひとみ)。よろしくね」

「よろしく。色々って……?」


 葵のやつ、いったい何をふきこんでるんだ。


「ふふーん、それは女子の秘密ってヤツよ」


 オレの陰口を言ってるとは思えないが、それでも不安しかない。


「わたしも学年一桁常連の中村君に勉強教えてもらっちゃおうかな」

「ちょっと仁美。私は航に勉強を教えてもらったりしてないよ」


 なぜそこでちょっと暗い顔でオレを見るんだ?

 たしかに葵はあまり勉強は得意ではない。でもそれをバカにしたり、オレから自慢したりなんてことは、当然していない。


「え? そうなの!? せっかく幼馴染なのにもったいない!」

「じゃあさ、四人で勉強会ってのはどうだ?」


 佐藤の提案に家塚さんはちらりと葵を見る。

 葵はぷるぷると小さく首を横に振った。


「だそうよ」

「おい中村からもなんか言ってくれよ」

「オレもイヤだが?」

「中村ぁぁ……」


 がっくりと肩を落とす佐藤である。

 すぐイキって調子にのる彼となんだかんだでつるんでいるのは、どうにも憎めないところがあるからかもしれない。

 葵と家塚さんが席に戻ったあと、腕組みをした佐藤がしみじみと頷いていた。


「どうした?」

「影川さんって、お前の前だとあんな顔で笑うんだなって」

「そんなにしみじみ言うことか?」

「クールビューティーってイメージがあったからなあ」

「クールねぇ……」


 葵が見た目からそう言われがちなのは知っている。

 だが、普段のあいつを知っていると、絶対そんな言葉は出てこないんだよな。


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