母は私の説を否定するのでした

 黒猫のチビがあらわれるよりすこまえ、母がっているニワトリが数羽すうわ野良のらねこころされた。はないにしていたからで、正直しょうじきはなし、私はニワトリにはまったおもれがかったのでいとして。母にとってはにくかたきである、ころしの犯人はんにんは、黒猫であった。


 いつもくさむらにかくれていて、ほとんどうし姿すがたしか見えない。その黒猫がニワトリを殺したのは確実かくじつで、そしてもうひとつ確実なのは、黒猫とミャーコがっていたことだ。


 これは黒猫が実家のまわりをうろついていたからで、交際こうさい事実じじつは母もみとめている。一度いちど、私は至近しきん距離きょりで黒猫を見たことがあって、瞬時しゅんじはしった姿すがた洋猫ようねこのように見えた。それからあと、実家にはチビがあらわれて、ニワトリごろしの黒猫はかなくなった。


 まとめると私のせつは、「ニワトリ殺しの黒猫が、ミャーコとって、チビがまれた」である。チビは父親ちちおやの黒猫なのだ。なにむずかしいことはない理屈りくつで、しかし母は、けっして私のせつみとめないのだった。


「いやぁ、いよ。それはい」と言う母は多分たぶん、ニワトリ殺しのどもが家にいるとはみとめたくないのだろう。そしてなにより、自分の『むすめ』が、いつかは母親ははおやになることもあるのだと。そういう事実を、母は実感じっかんとしてみとめられないでいるように、私には見えた。

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