第135話 ショックの動悸

 数分後、優月たちが戻ってきた。彼女たちはそれぞれ袋を持ちながら歩いた。亮は彼女たちから袋を受け取り、車の床に置いた。中身を見ると、3人分のコーヒーだけでなく、さらに多くのコーヒーと、パンやケーキ、ジュースも入っていた。


「沢山買ったな?」


「この件を協力してくれた方々におごりたいのよ。」


二人は車に乗り込み、優月はスカートの裾を整えてからソファー席に腰を下ろした。二人がシートベルトを装着すると、ピコルスが操縦し、車はゆっくりと空に浮かび上がた。


「いや、量が多すぎるんじゃない?このパッケージのジュースと洋菓子はどうした?」


葉月が説明する。


「矢守くん、それは近所の幼稚園に寄付するものなの。」

「知らない幼稚園の子供たちに?」


それから優月が説明を続ける。


「一人親家庭をはじめ、親が仕事で忙しい家庭や特殊な事情で園に預けられている子が多いのよ。たまたまこうして余った食べ物を園に寄付することにしたの。売れ残りそうな食べ物を有効に使い、必要としている人たちに届けたいの。」


「なるほどね。」


 その行動は彼女たちの義母の教えに影響を受けたものでしょう。頭が良く、強く、有能で、人懐っこい優月を愛する人がたくさんいるでしょう。亮にとって、彼女の命を狙う者たちは一体どんな人々なのか、理解できない。


 彼女を殺す理由が、彼女が皇月の姫であり、皇月が人間に災害をもたらすのを阻止するためだというのは、根本的な問題を解決できないことに疑問が残る。彼女を殺しても、ただ災禍を引き起こす導火線を点火させるだけだ。損得を考慮すれば、人類にとっては何のメリットもなく、リスクばかりが高い。まるで誰かが仕掛けた罠のようだ。これを達成すれば、状況は一気に悪化するだろう。違和感だらけだった。


「亮くん、どうしたの?ぼーっとしているよ?」

「いや、ちょっと考え事をしていただけだよ。」


葉月が亮の表情を見て意見を述べた。


「矢守くん、疲れているのではない?この数日間、戦いが続いていたからかもしれないね。」


「それもそうだね。それで、亮くんが頼んだアイスラテだよ。」


 優月はアイスラテが入った紙コップにストローを差し入れて亮に手渡しました。亮はその細い指に触れると、照れくさい気分を隠す亮はいつも気明るい声で応じながら受け取った。


「ありがとう、ラテはいくら?」


「気にしないで、みんなの分だから奢るよ。」


「いや、それは悪いな。特に今回、野原兄妹の件で、昨晩の戦いでは一人で解決できなかったし、和博さんも助けられなかった。」


「それは完結形ではなく、進行形だよ。昨日の行動は、これから彼を救うための第一歩だったのだから。」


「それでも、オカスソリスを持っていたら、人を助けると思っていたけど、和博さんと戦った時は、彼を射殺するしかなかったんだ。」


 亮の顔付きを見て優月が気になって訊ねる。


「亮くん、本当に悩んでいるんだね?」


「さらに、野原さんの体の確保や千幸さんの手術とその費用、杉臣の件もあって、事件のけじめはほとんど優月さんがつけた。俺は何もできなかったんだ。」


「言ったでしょ、私は私のやり方で協力するって。亮くんができないことは、私に頼っていいのよ。」


そう言われて、亮は苦笑いで応じる。


「俺がうまくやっていないから、優月さんは奢りたいと思っているんだけど、でもいつも優月さんの好意に甘えるわけにはいかないんだ。今回の件では、ピコルスさんや海凪さん、そして勇真くん、みんなの協力で、昨晩の作戦が成功したんだ。だから、この買い物は半分、俺が支払いたい。」


優月は亮の本心に少し驚いたが、喜んで受け入れた。


「そうなんだ、それでは半額ね。」


優月は自らのMPデバイスを操作して、計算した金額を表示さた。亮はその金額に目を丸くになった。


――1000ネオドル(20000円相当)を超えるとは、これには子供たちに寄付するものも含まれているのか……まあ、いいか、これは良いことだからな。


 亮は先に気前よく言いつつ、寄付の部分には少し抵抗を感じてしたが、それを言うと器が小さいと思われるかもしれないと感じ、そのままにした。


 亮もディバイスを取り出して、振込の金額を設定し、支払いのバーコードを表示させた。優月はそれをスキャンして、送金を完了した。


財布の残高はわずか15円しか残っていない。


――財布がもう空っぽか……後で貯金から入金しないと……


亮は冷や汗をかきながら、ディスプレイのライトを消して、ポケットにデバイスをしまいした。


「ところで、亮くんは先、何を考えていたの?もしかして先に言った悩みのことかな?」


 亮は直ぐに反応なかった。先の話に戻ると、彼の弱みと月読のメシアとしての資格に関する根本的な悩みが浮かび上がる。これらを口に出すと護衛役としての資格を失うことになり、守るべき人の前では話せない。男としてのプライドを持つ彼には、それが言い出せできなかった。


 亮は話題を変え、今日から二人がそれぞれ【月の心】の半分を身につけていることに気がつきた。優月は月の心の外枠を、葉月はその核部分を身につけていた。亮はしばらく見なかったそれを見て、懐かしさを感じた。昨日まで優月がそれを身につけているのを見ていなかったため、今から姉妹がそれぞれのパーツを持っているのが新鮮でした。亮は優月の胸元に垂れた月の心の外枠を指差しながら尋た。


「それは、優月さん、今日から月の心をつけて出かけるようになったのか?」

「ええ、そうね。今更気をつけて、遅すぎると思う?」

「君と葉月さんがそれぞれ一部分を持っているのは、何か意味があるのか?」

「そう、次のステップに進むためよ。これは皇月内部の闘争を抑えるために必要なの。」


亮の表情は真剣なものに変わった。


「それはビシリン先生が言っていた皇月内部の派閥のことか?親王派しんおうは真理派しんりはがもう本格的に争っているのか?」


「親王派と真理派は表面上は意見が対立しているけれど、実際は王族が王権を巡って内部で争っているのよ。」


「王権のために争っている?君たちの親戚が王権を狙っているの?」


「そうよ。皇月の王族は五つの王家に分かれていて、私たちの血筋以外の分家も王権を狙っていると思う。それがムーンセイバーが現れる訳、彼の目的は月の心の奪還、それと王権を犯すに関する一切の事相を抹消することよ。」


亮は首を傾げ、疑問を持ちながら尋ねました。


「しかし、月の心がなぜ争いを抑える効果があるの?それは単なる王権の象徴では?」


「それを身につけると、7人の大賢官だいけんかんが集まるの。彼らがいる場所では、王族の争いが意味をなさなくなる。王権を選挙以外の方法で手に入れるのは法的に禁じられているからね。」


「7人の大賢官って何?」


「彼らは皇月の重要な案件を審査し、最終的な判断を下す者たちよ。人類が災害を起こすかどうか、その決定も彼らが握っている。彼らはすでに人間社会に潜んでおり、審査のために様々な調査や観察を行っているの。審判の日が近づくにつれ、彼らの活動はさらに活発になるでしょ。」


「それを聞いて、まるで連邦政府の議案や法案を最終判断する大法官みたいなシステムだな。」


「その通り。人類の政府は私たち皇月のシステムを参考にして作ったのよ。ただ、違いは、人類が決めたのは各州の議員が投票で大法官を任命できること。皇月の場合は、審判の秘宝に認められた人だけが大賢官になれるのよ。」


「なるほど、彼がいる場所には法が存在し、不法行為を取り締まる効果があるわけか。」


亮は手を顎に当て、聞いた情報を頭の中で整理した。


「そうか、ビシリン先生が言っていた、俺が人類の代表として対話する相手はその7人の大賢官のことだったのか。」


「ピンポン、それが正解よ。」


優月の真剣な笑顔を見て、亮は表情を崩さないものの、心の中で驚愕し、深い衝撃を受けた。


――首がさらに硬くなった感じがする……俺は本当にそれができるのか……月読様よ……

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