第116話 謎の戦士 ④

 こうしてライトと勇真が追い討ちに来る鬼人グルートを次々と倒し続ける一方で、送迎ポイントに向かって後退している優月たちは、道のない斜面を慎重に小さな足取りで進んでいた。

その途中、退路を塞ぐように鬼人が突然跳び出し、鋭い爪を振りかざして襲いかかる。


「シャァッ!!!」


優月はその奇襲を間一髪でかわすと、即座にマナを掌に集めて撃ち返した。


衝撃波のように放たれたバリアが鬼人を弾き飛ばすが、ダメージを耐えた鬼人はすぐに体勢を立て直し、新たに4体の鬼人が姿を現す。


「シャシャシャ! ドコヘ逃ゲルツモリダ!」

「ニオイ、オト、ハッキリト覚エテルゼ!」


目の前に立ち塞がる鬼人たちを見て、葉月が震える声でつぶやく。


「まさか……他の追手も合流してくるなんて……」

「鬼人にとってこの森は自由自在に移動できる場所なのね」


三人の最後尾で苦無を構えている海凪が険しい表情で問いかけた。


「いったい、相手は何体の鬼人が仕掛けてきたでしょうか?」


優月は鬼人の動きを警戒しながら答える。


「分かりません。でも、ここで戦っても不利ですよ。強行突破するしかないですね」


「オマエヲ、メチャメチャニ殺セタイ!!」

「カクゴシロォォォォ!!」


鬼人たちの咆哮に対し、優月は淑やかな口調で毅然と言い放つ。


「そこまで言うなら、かかってきなさい。全員まとめて相手をしてあげるわ」


 優月は柔拳拳法らしい構えを取り、身にマナの光を強くまとわせた。マナの輝きが半径5メートルの視界を明るく照らし、彼女は柔軟かつ素早い動きで鬼人の攻撃をかわすと、一瞬の隙をついて間合いを詰める。そして、足腰の力を活かして打ち出した掌から衝撃波を放ち、鬼人を吹き飛ばした。


 続けて襲いかかってきた2体目の鬼人の腕を掴むと、その勢いを利用して三体目の鬼人に向けて投げ飛ばし、2体をぶつけて倒す。さらに、4体目の鬼人が低い姿勢で攻めてきたが、優月は両手にマナを集めると突風を放ち、鬼人を遠くへ吹き飛ばす。その勢いで鬼人は木の幹を3本もへし折りながら倒れ込んだ。


だが、その隙を狙って5体目の鬼人が葉月に襲いかかる。


「きゃあああ!」


 恐怖で叫びながら頭を抱える葉月に、海凪が素早く駆け寄り、手裏剣を鬼人の顔面に投げつけた。鬼人が怯んだ隙に、海凪は苦無で爪を受け流しながら軽やかに跳び上がり、蹴りを入れてさらに連続攻撃を仕掛ける。鬼人の体勢が崩れると、優月が追撃に回り、拳に集めたマナを炸裂させる一撃で鬼人を吹き飛ばした。


「今のうちに行きましょう!」

優月が声を上げると、三人は急いで倒れた鬼人を振り切り、その場を離れた。


数秒後、ダメージを負った鬼人たちは立ち上がり、さらに獰猛な咆哮を上げながら追いかけてくる。



 やがて、木々がまばらになり、視界が開けた場所に出た。そこには前紀元に残された廃墟のような民家がいくつか立ち並んでいる。風化したブロック塀や、蔦が絡みついた壁が目に入り、一部の建物はほぼ土石に埋もれているようだった。


「ここがピックアップポイントですか?」


葉月が怯えた声で尋ねる。


「ええ。ピコルスさんはもう山の上空で待機しているわ。いつでも撤退できるはず。でも、亮くんと勇真が戻るまで、私たちで鬼人を抑えなければならないわね」


そう言う優月の前に、先ほどの5体の鬼人に加え、さらに3体が合流して現れる。


「また追ってきたのね……」

「こんなにいるなんて!」

「葉月ちゃん、海凪さん、先に屋上に上がって!」

「畏まりました。葉月お嬢様、参りましょう」

「お姉さま、どうか気をつけて……」


葉月は胸に両手を当て、怯えた様子で縮こまりながらも、戦いに立ち向かう優月を心配そうに見つめる。


「亮たちが戻るまで、ここは私に任せて!」


優月は毅然とそう言い放ち、迫りくる鬼人たちに向かって構えを取った。


 鬼人の動きが加速し、間合いはわずか5歩の距離。衝突する寸前、青い光が突然遺跡の上から照らされた。次の瞬間、青い球体が闇を貫くように一直線に鬼人の1体を打ち抜き、そのまま他の鬼人たちをも次々と叩きつけていく。


わずかな時間で、球体が打ち込まれた部位から圧力が爆発し、8体の鬼人たちは甚大なダメージを負った。


「シャアアアア!!!」


「グッオオオオ!!!」


悲鳴を上げる鬼人たちの中、葉月が目を丸くして屋根の上からその光景を見下ろす。

海凪は冷静を保って、頭に冷や汗を溜まって吐く。


「これって……さっき坂道で起こった攻撃に似てますね。いったい誰が……?」


「あちらの屋根の上に誰がいます」


葉月が振り返ると、優月もその気配を感じ取り、目を細めて遺跡の屋根を見上げた。そこには1人の人影が立っていた。


 暗闇の中、青緑色の光をまとった球体が宙を舞い、その主の元へと戻っていく。その人物の全身は、緑と青を基調にしたフルアーマーで覆われており、肩と脚にはさらに7つの球体が収納されているように見える。そして、顔を覆う仮面の目元には待月のような鋭い線、頬には三日月の紋様が刻まれていた。さらに、マスクの凹凸が影を際立たせ、顔つきに威圧感を与えていた。額にはバンドが巻かれ、金髪がワイルドに立ち上がっている。


「これが神宮寺家の令嬢か。なんだ、大したことないじゃないか」


その人物の顔はマスクで隠れているが、青年らしき低めの声が軽蔑するように言い放つ。


その声を聞いた優月は、凛とした表情で問いかける。


「そなたは何者ですか?」


 その人物は両手を銃の形にして右手を天に掲げ、左手を股の間に向ける。そして、そのポーズを取りながら満月を描くように大きく手を振り、次の瞬間、左手を腰に添え、右手を前方に突き出す戦闘姿勢をとった。そして、名乗りを上げる。


「俺は正義を貫き、ミラクルを起こす救世主、ムーンセイバーだ!」


「ムーンセイバー。その名を名乗るということは、そなたは皇月が差し向けた“レフェンタ”ですね?」


優月の言葉にムーンセイバーは肩をすくめ、両手で「さあな」とでも言うようなポーズをとる。


「どうだろうな?ま、邪魔者を始末するのが先だが」


 ムーンセイバーの言葉を聞いた優月が、背後の鬼人たちに目を向けると、傷を再生させた鬼人たちが軍勢を整え、再び攻撃態勢を取ろうとしていた。


 ムーンセイバーの言動を読んで、次に起こる事相が見抜いたように、一歩先に葉月に退避を促す。


 「まずい、葉月お嬢さま、屋根の裏側に身を伏せてください」


 「はい」


 その時、ムーンセイバーの身体を覆うマナの光が一斉に集まり、球体へと注がれる。黄緑色に輝くその球を足元に移すと、彼は鬼人の群れを見据え、足を大きく振りか蹴る。


「シャイニングクラッシュ!!」


 ムーンセイバーが球を蹴り出すと、眩しい光が周囲を包み、球は火流星のごとく一直線に飛び出していく。猛烈な速度と力を伴ったその球は、鬼人たちの中心に突き刺さり、瞬間的に巨大な爆発を引き起こした。


 衝撃波を感じ取った優月は即座にブロック塀の陰に身を隠し、さらにマナでバリアを展開して防御態勢を取る。その瞬間、衝撃波がブロック塀を容易く崩壊させた。


「グゥオオオオオ!!!!!」


爆風と共に、8体の鬼人が塵一つ残さず灰と化して消滅された。


「お姉さまーー!!」


 屋根の裏側に隠した葉月は顔を覗き、爆風に巻き込まれた優月の安否を心配て、悲鳴を上げる。しかし、衝撃波が収まり、煙と砂埃が薄れていくと、地面には大きな穴が空き、鬼人たちの姿は完全に消えていた。


 バリアを展開していた優月は無事だったが、彼女が見ているその光景に一瞬言葉を失った。


(これは単なる援護のための攻撃ではない。むしろ、明らかな威嚇の意図が込められている……)


優月はムーンセイバーに振り返り、その力の使い方を指摘した。


「手助けに感謝しますが、少々やり過ぎではありませんか、ムーンセイバーさん?」


「ふん、それが命を助けてもらった相手に言う台詞かね?」


「そなたは、味方なのですか?」


ムーンセイバーは優月をじっと見つめていたが、次第に視線を葉月へと移し、言い放つ。


「それはお前次第だな、神宮寺優月。今日はただ挨拶に来ただけだ。その命、しばらく預けておくといい。生き延びるためにせいぜい頑張るんだな」


そう言うと、月明かりが再び雲に隠れるのと同時に、ムーンセイバーの姿も闇の中へと消えていった。


「ムーンセイバー……。彼が使った秘宝は、もしかして……」


優月が顎に手を当てて考え込んでいると、遠くから亮の呼び声が響く。


「優月さん!」


「追いつくのが遅いですね?」


「悪い、追手の数が思ったより多かった。全滅させるのに時間がかかったんだ」


「そうですか」


亮は辺りに漂う煙と、爆発で残った燃え跡を見て問いかけた。


「ところで、さっき何があったんだ?まさか、例の“レフェンタ”に遭遇したのか?」


優月は難しい表情を浮かべながら、ゆっくりと頷いた。


「ええ。彼について謎は多いですが、皇月が差し向けた刺客である可能性が高いです。詳しい話は、ここを離れてからにしましょう」


「ああ、分かった」


その時、ピコルスが操縦するマシンが上空から降りてきた。完全に着陸することなく、建物の屋根近くでホバリングすると、ドアが開く。


 亮と優月、そして葉月等五人はマシンに乗り込み、通報を受けて駆けつける警察の車両が現場に到着するよりも早く、その場を後にした。彼らが向かうのは、亮の家だった。

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