第96話 情報の纏め 

 病室を出た亮たち三人は、優月ゆうづきの指示でピスコルが操縦する車に乗り込む。真黒になった空を飛んでいる。高さがちょっと上げてきた月が良く見える。


 ライトは屋上で和博と話した内容をMPデバイスで録音していたため、それを再生して二人に聞かせる。


 録音を聞きながら、優月は顎に手を当てて考え込み、葉月は緊張した様子でじっと座っている。再生が終わると、亮は操作画面のストップボタンを押して言った。


「これが屋上でのやり取りの全てだ。連絡先を交換するときに録音を切ったから、それ以降は特に話していない」


「なるほど、和博かずひろさんの考えがよく分かりました」


優月は真剣な表情を崩さず、しばし黙考する。その一方で葉月は気の毒そうに語りかける。


「和博さんは学校の事件について、仲間が鬼人に変えられていることを知らない可能性が高いですね」


「ええ、少なくとも現時点では彼には知らされていないでしょう。亮くん、彼と話した後、どう思っていますか?」


亮は少し俯きながら答える。


「彼は頑固で、道が見えなくても全力で進むような人だ。覚悟を決めているのが伝わってくるが、そのやり方は長続きしないだろう。決めた事なら誰も彼を止められない」


「彼との協力については、本気で言っているのですか?」


優月が問いかけると、亮は即答する。


「ああ、本気だ」


厳しい目付きで亮を見つめ、優月はさらに問いを重ねる。


「なぜですか?彼は亮くんの力を利用しようとしているのではありませんか?」


「そのくらい分かっているさ。でも、兄妹そろって事情を抱えていると知ってしまった以上、見捨てるわけにはいかない」


その答えに優月は少し驚いたようだが、言葉を詰まらせたまま静かに考え込む。亮が不思議に思い尋ねた。


「何か気に入らないのか?」


「いえ、反対するわけではありません。彼と関わりすぎるとリスクがありますが、この事件から逃れたとしても彼は何度でも現れる気がします。そんな固執する人なら、影に置いておくよりも、光の下に引き出したほうが対処しやすいかと。とはいえ、まさか彼の提案を受けるとは意外でした」


「彼を断ることで何が起こるか分からないからな。それに、千幸さんのことも心配だ。何もしないと嫌な予感がするんだ」


亮は視線を一度そらしてから、優月を真っ直ぐ見据えながら続ける。


「優月さんが心配することも分かっている。和博は彼なりの正義で世の中を変えたいと思っているが、彼の正義には復讐心や強い怒りが絡んでいる。だから、彼の行動には常に気をつけるつもりだ」


すると葉月が心配そうに訊ねる。


「月読のメシアのことを、彼に伝えて良かったのでしょうか?」


「いずれ誰かに知らせる時が来るでしょう。彼が事件の関係者である以上、信頼を得るためには言っても悪くないと思いますが、目立つな言動で衆に名乗るのは禁物ですよ」


「分かっている」


葉月は切なそうな顔で語る。


「でも、千幸さんが体調も良くないのに無茶をするなんて、酷い兄ですよね……」


亮は、考え込んで渋い顔をしている優月に気づき、声をかけた。


「優月さん、何か気になることがあるのか?」


「ええ、和博さんは千幸さんを救うために、黒い仕事を続けているのかもしれません」


その言葉に亮は驚いて身を乗り出した。


「どういう意味だ?」


「イカロスの剣は、ただの半グレ集団ではないかもしれません。和博さんは彼らの裏にある利益に支えられている可能性が高いです」


葉月も疑問を浮かべる。


「裏にある利益とは何のことでしょう?」


「金銭的な援助に限らず、組織の拠点を提供したり、法的支援をすることもあります。千幸さんが入院している病室も、普通の家庭では支払いが難しいでしょう」


亮は深くうなずき、応じた。


「それは確かに妙だ。千幸さんの入院費用を含めて、イカロスの剣が長期的に誰かから支援されている可能性が高いな」


優月は懸念を抱きつつ言葉を続けた。


「その人が実直な方なら良いんですが、和博さんが力を求めているところが少し気になりますね。この件が別の事件を引き起こさなければいいんですが」


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