第265話【拐った理由】



◇拐った理由◇


 ゼファー・クリスタラー戦は、ルクスの無謀な説得で勝利となった。

 力なく座り込むゼファーは、大きな声で叫ぶ。


「あーーーー止めだ止め!!抽出ストーーーップ、終了だ!」


「え、ええ!?大尉〜!は、半分いってますよ!?」


「あのあの!いいからお嬢さんは動かないでねぇぇ!?」


 と、ポンコツコンビのミリルとレレノが言う。

 しかしゼファーは。


「いいから止めろっての。これは命令だぞ……ミリル・エンバー少尉、レレノ・オリバ少尉」


「「は、はい!!大尉!!」」


 ビシィ!と敬礼をして、二人は作業を中断した。

 そしてラフィリアは解放され、ルクスのもとへ猛ダッシュで駆けてくる。

 それはもう、マリーも驚きの猪突猛進だった。


「ルクスーーーーーー!!」


「ラフィ……がはぁぁぁぁっ!!」


 ドスンと、もはや頭突きをかますラフィリア。

 そのまま二人共倒れる。まぁ……いいか。


「プレザ、二人を頼む。姉さんには悪いけど、ルクスの治療をしてあげてくれって言ってくれると助かる」


 そう言うと、プレザは何も言わずに笑顔でうなずいてくれた。

 ゆっくりと二人の元へ行き、説明を始める。

 さて……それじゃあ僕も。


「商人……いや、ゼファーでいいな」


「んだよチビガキ……お前もオレを殴んのか?」


 殴りたい気持ちも無くはない。

 しかしそれはしない……後でプレザが一発殴るだろうけど。


「そんなくだらない真似はしない。それより、姉さんを拐った理由だ……聞かせろ」


 僕はゼファーの正面に座り込む……次のボス戦まで時間がない。

 姉さんがルクスの治療をしている内に、さっさと説明しろ!!


「なんでそんなに偉そうなんだよ……まぁいいが。はぁ……」


 ため息交じりに、ゼファーは先程まで姉さんが座っていた装置を指さした。


「ありゃあな、人の中に眠る潜在能力……それを抽出して、形にする機械だ」


「姉さんから力を抜き取ると言うのか?」


「……ぁ?いや、今はいいか」


 まずい。機械という言葉に反応しなかったのを怪しまれたか?


「抜き取るんじゃねぇよ。参考にして、それをコピーするんだ」


「コピーだと?確か、本物と遜色ない物を作り出すという言葉……神の文字テキストで、あった気がする」


「おお、それそれ。だからラフィリアには、無理に抵抗さえしなけりゃ危害は加えないんだよ。言ったろ?無傷で帰すって」


 ゼファーは懐からタバコを取り出し、【メルトガン】の銃口で火を着けた。器用だな。


「ふぅーーー。オレたち三人は、あそこから来た」


 ゼファーはタバコの煙を天井向けて吹きかけ、示す。

 意味は当然、空の上……宇宙からだ。

 しかし、ここはわざと。


「天井か」


「……そうだ。ってんなわけねぇだろ!空だよ空、お前さんたちが毎日祈るように見上げてる、あの星空だ」


 僕は目を細めてゼファーを見る。

 なんだかな……知っていてこの演技をするのも難しい。

 ゲームの二周目をプレイしている気分だ。


 しかし空から来たとなると、この惑星の住人が思うことが一つある。

 それは一年前に起きた未曾有の危機……大災厄だ。

 僕はそれを口にする。


「なるほど。つまり、大災厄はお前たちが引き起こしたと……そう言いたいのか」


 するどい目つきで、僕は確信に迫る。

 さぁゼファー……こうなれば、お前は話すしかなくなる。

 僕たちを巻き込むんだ。この【アスカラド光星】の現地民である僕たちを……宇宙を股にかける壮大な戦いに!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る