第十六話 ――カーット!
『――前方に敵3体。あと7秒後に会敵するよー』
「はい、ミルちゃん! ベルーガさん!」
「バウッ!」
:ダブルスイートボイスで耳が嬉しい。
:ワンコもいいぞ(犬派)
:流石は全冒険者のお耳の恋人、霞ミルちゃんだぜ。
:オモイカネ工業主力製品トップ10から降りたことがないベストセラーなだけはある。
:マッピング・ナビゲート・エネミーサーチ・アナライズ・オペレートをまとめてAIにお任せできるのマジで凄くない?
『オークが2体、吸血蝙蝠1体だね。蝙蝠は火弱点。それと超音波に警戒!』
「まずオークを倒します! 続いて!」
†《魔弾》†
「グラァッ!」
†《硫黄の吐息》†
:呪詛とファイアブレスがそれぞれオークに命中!
:呪詛喰らった方は戦闘不能。ブレスの方は火傷負いながら突っ込んでくる!
「ブモオオオオオオオォォォッーー!!」
:しぶといな。いや、ブレスの方が火力低いからか。
:昨日までなら銃撃での牽制に切り替えてたが――、
「バウッ!」
:ベルーガくんが突進してガード!
:その隙にれんれんちゃんが次弾を装填。
:で、ベルーガくんがオークを弾き飛ばしてから――ブッパ!
「もう一発!」
†《魔弾》†
「ブモッ、ブギッ……ブギィィィ……」
:逝ったか……。
:オーバーキルだったな。
:油断は出来んぞ。まだ敵は残ってる。
『蝙蝠の超音波が来るよー。3、2、1――いま!』
:あの怪音波喰らうと一瞬だが平衡感覚狂うから乱戦中だと地味にヤバい。
:喰らったことあるの……?
「キィィィィッーー!」
†《超音波》†
:ぐおっ、耳いてっ!?
:耳がキーンとする。
:マイク越しにこれかよ。
「ベルーガさんっ!」
「バウッ!」
:二人とも横っ飛びに躱した!
:鮮やか!
「これで終わりです!」
†《射撃(初級)》†《魔銃:黒火箭》†《乱れ撃ち》†
:数バラ撒いて撃ち落としたか。
:レベル的にはオークよりワンランク落ちるし弱点攻撃だからね。当たれば終わりよ。
『戦闘終了。周辺に敵影無し。お疲れ様でしたー』
「はい、お二人ともお疲れ様でした」
「バウッ!」
:うーん、順調!
:もう8階層なのに昨日の苦戦っぷりが嘘みたいだぜ。
:ミルちゃんがマジで優秀すぎる。うちのパーティにも組み込むかなぁ……。
「そうでしょうそうでしょう! ミルさんはもう全冒険者必須のサポートAIと言っても過言ではありませんからね。しかも今ならお試し版が1か月間無料!」
:一瞬でドローンの前まで飛んできやがった。
:ドアップで映るな。
:相変わらず冒険者の育成に余念がない……。
:オモイカネ工業の回し者かな?
『ふっ、正直それほどでもある。なのでもっともっと宣伝よろしくお願いしますね、大和さん! ワタシ、一人でも多くのマスターにご奉仕したいです!』
「お任せくださいミルさん。良いモノは推す、そのための《文明崩壊ダンジョンライバーズ》です!」
:ドヤ顔快活青髪ポニーテール美少女オペ子良いゾ~。
:応答もめっちゃ自然。AIってのが信じられんレベル。
:普段はリソース節約で出さない立体映像まで使ってあざとく媚びていくスタイル……嫌いじゃないぜ!
:バーチャル美少女のメチャカワビジュアルとスイートボイスであっという間にライバーズが陥落してる……。
:でも正直こうして効果を実演されると買いたくなっちゃうわ。
「まあ専用ドローンや毎月のサブスク代は安くないですけどね。でもそれだけの価値はあると思いますよ」
:やっぱりあの専用ドローンお高いのね。
:まあ周辺探査や立体映像投射、多機能を支える高度な処理能力まで揃えるとなるとなぁ。
:最低ランクのドローンでもまあ結構なお値段ですわ。
:いまれんれんちゃんが使ってるのドローンもミルちゃんもゴリゴリにお高い最高ランク品ぞ。多分三桁万円は吹っ飛んでる。
:ベルーガくんのレンタル代といい、息を吸うように推しへ重課金していく配信者がいるらしい。
「最後は結局財布との相談ですね。ただ、将来的に冒険者としてランクを上げるならサポート体制の充実は必須です。僕にもみそPがいますし」
『くっ、流石のミルちゃんもオリジナル相手では分が悪いですね……』
:ブイ@みそP
:無表情ドヤ顔ダブルピースしてるのが見える見える。
:ミルちゃんが参照しているアナライズデータもみそP由来なんだっけ?
:全部じゃないが大部分はそうらしい。
:まあ実際みそPはミルちゃんの上位互換よ。
:人間性とか愛嬌以外は。
『ふっ、やはりこのミルちゃんの可愛さこそオリジナルに勝る唯一無二の個性なのでは?』
:は??? 喧嘩売ってるなら受けて立つが?@みそP
:会話して10秒で喧嘩腰になるなよ子どもか。
「みそP、ミルさん、ステイ。ライバーズのみんなも言いたい放題するのは自重しましょうね」
:言っていることは正しいがお前に言われるのが気に入らない@みそP
:それな。
:つ「おまいう」
「1秒前まで喧嘩してたはずなのになんでみんなして僕に殴りかかってくるんですか???」
『日頃の行いじゃないですかねぇ』
:ミルちゃんも結構言うね。
:宇宙猫してないでまず鏡を見ろ。話はそれからだ。
:それにしてもテコ入れ2つで随分変わるもんだわ。
「ふふふ、もっと僕の慧眼を褒めてくれてもいいんですよ?」
:露骨に話題逸らしたな。まあいいけど。
:ドヤ顔で胸張ってるの可愛い。
:実際慧眼。色々上手くかみ合ってる感があるな。
:大和君はここまで見越してたの?
「まあソロ攻略で5階層まで行けてた時点でこれくらいはやれそうだなとは思ってました」
:そうなの?
:なんだかんだ戦術眼はあるから。
「結局ソロ攻略って余程格下相手でもなきゃレベルが高くても1人じゃ物理的に手が足りなくなるんですよね。昨日のれんれんさんも索敵・攻撃・移動と常に目まぐるしく動き続けて休む暇もないくらいでしたし」
:軍隊でさえ戦術行動の最小単位は
:そんなに違うの?
:ものすごく単純に言うと人間は右を見ているときに左は見れない。警戒も休憩も1人じゃ完璧にはできない。
:それでメンバー増やしてキッチリ役割分担したら
:れんれんちゃん、判断役と火力役に徹した分動きにキレがあったな。
「メンバー全員が索敵能力を持ってるのがこのパーティの強みですね。情報格差で先手を取って奇襲をかけ放題!」
:確かに。勝ちパターンが固まってきた感じがする。
:先に見つけて奇襲や囮使って先制攻撃。近づいてきたらベルーガくんが抑えてれんれんさんが追撃。横入りの警戒もミルちゃんがやってて隙が無い。
:敵が弱ければれんれんちゃんが弱らせてベルーガくんの追撃で終わるしな。
:めっちゃ効率的に狩ってますねぇ。
:Lv.も上がって21から22になったし順調順調。
:裏山。でもあれだけモンスターを狩ってればそりゃ上がるだろとは思う。
「テコ入れした甲斐がありました(ドヤ)」
「あ、ありがとうございます大和様」
「いえいえ、好きでやっていることですから!」
:うーんこの裏のないニコニコ笑顔。
:多分本気で言ってるんだろうなぁ(好きでやってる)
「でも結局はれんれんさんがこれまで積み上げた
「――――、ぁ」
:それはそう。冒険者の土台がすごくしっかりしてる。
:全面同意。
:パーティ組んだ最初はぎこちなかったがすぐベルーガくんとコミュ取って息を合わせてたし。
:正直うちのパーティに欲しい。ベルーガくんのレンタル代込みで用意するから加入しない?
:【朗報】れんれんちゃん、無駄に目が肥えたライバーズからも歓迎される。
「ちょっと? うちのれんれんさん引き抜くの止めてもらえます? 先に声かけたのは僕なんだから……って」
「――ぁ、はは。ありがとう、ございます、みなさん……ごめんなさい。嬉しくて」
:ちょっと男子ー、れんれんちゃん泣いちゃったじゃないのー。ゴメン待って、マジで大丈夫? 距離感間違えた? ごめんね? とにかくごめんね?
:焦りすぎ落ち着け。
:泣くほど嬉しかった、のか?
:もしやれんれんちゃんソロという名のガチボッチ?
:確かにその素振りはあったが。ソロでの動き方が異様にこなれてたし。
:あんなに強いのに?
:もしやワケあり?
「――カーット!」
:配信を一時中断します@みそP
:え。
:おいこら。
:画面が真っ暗に――
◆
「ご、ご迷惑をおかけしました……」
:迷惑なんかじゃ全然ないよ!
:そうそう。
:なんか突然配信が中断して再開したと思ったられんれんちゃんがめっちゃ大和君の方チラチラ見ているのが気になるだけだよ!
:裏でナニがあったんやろなぁ。
:お前ら……空気読め。
「いいですか、ライバーズのみんな。何もなかった。リピートアフターミー、何もなかった。OK?」
:うおっ、久しぶりの殺気に背筋がゾワゾワする。
:あ、これ割とガチな警告だわ。変な憶測とか誹謗中傷バラまいたら社会的制裁喰らわせるやーつー。
:オモイカネがバックにいるから社会戦でも無敵なんだよな。金あるから容赦なく裁判沙汰にするし。
:一線を越えた馬鹿が破滅するのを何人見てきたことか。
:それでも私刑にかけてないあたり他所の国のトップ冒険者と比べてめちゃくちゃ理性的やぞ。
:そりゃ外国の治安が終わってるんだよ。
「それじゃ気持ちを切り替えてこのまま行っちゃいましょう! 21階層のボスまでもう一息です」
「は、はいっ。頑張ります!」
:ここのボスってなんだっけ? 教えてWikiニキ!
:水魔グレンデル。Lv.は22だが近接戦闘に限ればLv.30近い特化型ビルド。叙事詩『ベオウルフ』に登場する怪物巨人。別名をオーク=ナス。オークと同族という説もある。特徴は巨大・怪力・頑丈。ボス補正は自己強化一点集中型。
:呼んだら現れるWikiニキ流石やでぇ……。
:迷宮のモンスターって大半が神話や伝説由来なんだよな。なんか理由でもあるのかな……。
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