第3話

「・・・ん、」

窓から射し込む光で目を覚ます。

(今何時だ?)

そう思いスマホに手を伸ばす。

8時12分...

「やべぇ!」

遅刻の8時30まであと18分しかない。

昨日色々考えていたせいかあまり眠れなくて、その結果がこれだ。ますます自分が嫌いになる。

そんなことを考えるのをすぐにやめ、俺は慌ててベットから飛び出る。

そして、すぐに制服に着替えて家を出る。

あと11分...

家から学校までは大体20分。

(全力ダッシュしかねぇ!)



結果、学校には8時28分につき、遅刻は免れた。

息が荒いまま、教室に入り、席に座ると

「よぉ。」

遅刻ギリギリだな、ともう1人の幼馴染の井上雄貴が笑いながら声をかけてきた。

「間に合ったからいいだろ。お前はさっさと自分の席に戻れ」

「はいはい、わかったよ。」

そう言いながら自分の席に戻って行く雄貴に慌てて話しかける。

「やっぱ一つだけ聞いていいか?」

そう言うと彼は、すぐに振り向き、目を輝かせながら、

「なんだ!?なんでも教えてやるぞ!」

「うるせぇ。もうちょっと静かにしろ。」

「お前が俺の事を頼ってくるなんて滅多にないからな。で、何に悩んでるんだ?」

そう笑顔で聞いてくる。

「佐藤桃花って知ってるか?」

「もちろん知ってるぞ。なんならこの学年で1番有名じゃないか?」

「そうなのか?」

「逆になんでお前は知らないんだよ...」

呆れた顔で雄貴が言う。

「そりゃあ、話す奴なんてお前と莉緒しか居ないからな、他のやつは興味なんてないし、どーでもいい。」

「いい加減俺ら以外の話せるやつも作ったらどうだ?」

「俺が他の奴と喋らないのはお前も知ってるだろ。」

「ま、それもそうだな。てか、なんで佐藤さんのことを聞いてきたんだ。」

そう言うと雄貴は納得した顔をし、話を戻す。

こういう時に必要以上に言って来ないのが、こいつの良い所だ。

「昨日屋上に行ったらたまたま会ってな、話しかけられたから。」

「なんで立ち入り禁止の屋上に当然のように入って言ってるんだ...それで、気になったんだ?」

からかったように言ってくる雄貴にイラつくも、その気持ちを抑えて話を続ける。

「話しかけられたからどんなやつか知りたいだけだ。」

「佐藤さんは誰にでも優しくて明るい人間だぞ。悪い噂も聞いたことがない。」

「そういう奴ほど裏の顔はすごいんだ。」

「そう思うなら、少し話してみればどうだ?ってなんだよその顔」

嫌そうにしている僕の顔を笑いながら続ける。

「まぁ俺に言えるのはこのくらいだ。佐藤さんと話すかどうかもお前が決めな。」

そう言いながら雄貴は今度こそ自分の席へと帰っていく。



俺はどうするか考えながら、授業を受ける。

(誰かと話すだけ無駄だしな...)

相手を傷つけたくないと言いながら結局は自分が傷つきたくないだけ。そんな自分に嫌悪感が湧く。

(なんで俺は、こんな人間なんだ...)

ただ、こんなことを考えても俺の考えは変わらない。

(彼女は無視しよう。)

そんなことを考えてるうちに午前の授業が終わった。いつもなら一人で屋上にて飯を食べるとこだが、今日は遅刻したため飯がなんも無い。

購買に行くのもめんどくさいため、屋上で寝ようと思い、立ち入り禁止と書かれた階段を上り、ドアを開ける。

すると

「あ、やっぱ今日も来たんだ!」

そこには佐藤桃花がいた。

(最悪だ...)

なんで今日も彼女がいるんだ。

「ここで待ってたら会えると思って待ってたんだー!まさかほんとに会えるとは思って無かったけど。」

そういう彼女を僕は無視しながら横になり、寝ようとする。

だが、それを彼女が許すわけなく、

「ねぇねぇ、君って名前なんて言うの?」

「・・・」

「ねぇってばー、無視してんの?」

「・・・」

どうせすぐに諦めるだろうと思っていたら、

「よいしょっと。」

僕の横に寝っ転がってきた。

(何を考えてるんだこいつは!?)

そう僕が慌てていると

「私はさ、昨日ここで出会ったのもなにかの運命だと思うの。だからさ、君とは仲良くしたいなって。」

「・・・」

そう言われても僕は無視を貫く。もう傷つきたくないから。

ただ彼女は、僕が無視を続けても話を辞めない。

「私さ、こういう性格してるから、友達が沢山いるの。でも本当は大人数のいる所は苦手で、落ち着いてる所の方が好きなの。だからさ、屋上には、居させてもらってもいい?」

そう言う彼女の声はいつもとは違う、嘘なんてついていないような、真剣な声だった。

そんな彼女に僕は何故か、なにか似ているものを感じた。僕が少しの間黙っていると彼女は、

「そう、だよね。急に近づいてきてウザかったよね。」

ごめんね、とそう言いながら立ち上がろうとしているであろう彼女に僕は声を掛ける。

「別にここは僕の屋上では無いから、好きにいればいい。勝手にしろ。」

元々ここは立ち入り禁止な場所の訳で、僕の住処ではない、だから僕が彼女をいることを断れる理由はないわけだ。

「ほんとに、いいの?」

(めんどくせぇ!)

彼女は困惑した感じで聞いてくる。

「何回言えばいいんだ、勝手にしろ」

「・・・ありがと」

彼女は、穏やかな声で言い。また寝っ転がる。

やがて昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、僕は目を開けて起きようとすると...

「・・・っ!」

彼女の顔が真横にあり、僕は慌てて声を出しそうになってしまう。

(なんでこいつはこんなに無防備なんだ...!)

そんな僕の気持ちなんて知らずに彼女はすぅすぅと寝息をたてながら気持ちよさそうに寝ている。

(可愛い...)

思わずそんなことを思ってしまうほど、彼女の寝顔は魅力的なものだった。

だがもうチャイムはなっているため、少し残念な気持ちもあるが彼女を起こす。

「おい、起きろ。」

「う〜ん。て、え!?」

「大声を出すな...!」

「ごめん、私寝ちゃってた。」

「警戒心のないやつだな。」

「最近疲れがあまり取れなくてね。それより、私に何もしてないよね?」

彼女はそう僕に聞いてくる。

「する訳ないだろ。あほか。」

僕はそう言いながら屋上を去ろうとすると。

「ま、待って!」

「・・・」

「君の名前、教えて欲しい。」

「・・・夏川瞬」

「夏川瞬。覚えた!ありがと!」

そう言って僕は今度こそ屋上を去る。

なんで彼女を起こしたのか、なんで彼女に名前を教えたのか、分からない。

ただ、僕は彼女には笑顔でいて欲しいと思った。苦しむのは、僕だけでいいから...。

そんなことを考えながら教室に入ろうとすると

「君は1-Bなんだね。覚えた。」

背中からそう言う佐藤桃花の声が聞こえ、

僕は自分の名前を教えたこと、彼女を起こしたことを後悔した。

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