第39話 業火に落ちる街
「くっ! あんなに……」
アリアドの街に駆けつけたプリシラは街の入口の手前で立ち止まり、思わず
街の惨状は思ったよりひどいものだった。
あちこちで火の手が上がり、夜空を赤く染めている。
すぐ前方では街の北側の出入口である大門が見るも無残に焼け落ちて、
そして街のそこかしこにアリアド兵の遺体が転がっていた。
思わずエミルは肩を震わせる。
そんな彼の手を
「エミル。ジュードの居場所は分かる?」
姉にそう言われたエミルは、閉じていた
そして彼は探った。
ジュードのあの優しげな気配を。
だが……1分ほど経過したところでエミルは顔を曇らせ、姉に目を向ける。
「……感じない。ジュードさんの力を……この街のどこにも感じない」
「えっ……」
エミルの言葉に思わずプリシラは絶句した。
ジュードの気配を感じ取ることが出来ない。
最悪の事態が頭によぎる。
だがそんなプリシラの肩をガシッと
彼女の顔は
「言っただろう? あいつはそんな簡単にくたばりゃしないって」
「だけど……」
思わず口ごもるプリシラだが、そこで震える声を
「……いっぱいいる」
「え? 何が?」
そう聞き返すプリシラを見上げてエミルは不安げな
「ジュードさんは見つけられないけれど、それ以外の
「何ですって?」
エミルの話に思わずプリシラは
彼女はジュードから聞かされて知っているのだ。
「なるほどな。ここを襲ったのは王国兵だ。連中の中には
そう言うとジャスティーナはエミルの肩にポンと手を置いた。
「感覚を閉じな。ジュードは生きている。おそらく
彼女の言葉にエミルは
だがその
「でもジャスティーナ。ジュードが感覚を閉じているのなら、彼を探し出すのは難しいんじゃ……」
街はあちこちで火災が拡大し、人々は逃げ惑い、混乱を極めている。
この状況で
だがジャスティーナは首を横に振る。
「ジュードは街からの脱出を考えるだろう。だが、この状況では他の大門はすべて
そう言うとジャスティーナは2人を先導して再び走り出すのだった。
☆☆☆☆☆☆
「くっ! た、たった一晩もしないうちに……」
アリアドの街の中心部に建てられた庁舎の最上階では、この街の領主であるエイムズが
この街を守る1000人を超える部隊は、たった200人ほどの王国兵によって壊滅に追い込まれようとしていた。
庁舎の前面で今も激しく燃え続ける業火による熱気と黒煙で、窓を開けることすらままならない。
そして階下からは激しく争う音や、兵士たちの悲鳴が聞こえてくる。
「領主様……最後までお守りいたします」
しかし彼らにも分かっている。
じきにここに踏み込んで来る敵を前に、自分たちなど何の役にも立たないことを。
このアリアドを攻める王国兵団の総大将を務めるのは王国軍の将軍である銀髪のチェルシーだ。
彼女は今、50人ほどの兵を引きつれてこの庁舎を攻め上がって来ている。
武勇を誇るチェルシーを止められる者など、この街にはいないことはエイムズも分かっていた。
そしてついに領主の部屋の
「ワタシは王国軍の将軍を務めるチェルシーよ。アリアドの領主・エイムズ。今すぐ降伏し、この街が王国軍の管理下に置かれることを認めなさい。そうすればあなたの命は保証するわ。そちらの兵についてもこれ以上の抵抗をやめ投降するのであれば、こちらも攻撃を停止します」
「ぐっ……」
エイムズは
ここで自分が反抗しても、この街の
「分かった……アリアドは降伏する。これ以上の死者は出したくない。こちらの兵たちに我が意を速やかに伝えよう」
そう言うとエイムズは部下たちに命じ、アリアド兵に抵抗をやめて投降するよう伝令を出す。
チェルシーも部下たちに命じた。
「占領の
ほどなくして庁舎の屋上に
そして領主であるエイムズからの投降指令がアリアド兵たちに伝わっていき、戦いは一方的な結果で幕を引くこととなった。
公国領アリアドは一夜にして
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