第2話 曲芸団《サーカス》
「2人分ね」
エミルの手を引いて
入場料は母から持たされていた
受付の男は子供が平然と代金を支払ったことにわずかに
どこかの貴族の子女だと思ったのだろう。
「もう始まるからサッサと座って下さいな。お嬢さんとお坊ちゃん」
受付の男にそう言われるまでもなく天幕に入ると、そこにはすでに多くの観客が座席にひしめき合っていて、プリシラとエミルは
天幕の中は多くの明かりに照らされてきらびやかだが、
多くの動物たちが
エミルは思わずその
「
「このくらい何よ。ブライズおば様の獣舎のほうがずっと
そう言うとプリシラは
「あの
「
楽しくてたまらないといった姉とは正反対に、エミルは天幕の中に広がる独特でどこかおどろおどろしい
「ここ……何か嫌だよ。出ようよ姉様」
「何言ってるのよ。入ったばかりでしょ。ほら、もう始まるわよ」
プリシラがそう言った
そこからは顔を白く塗りたくった道化師の男が5つもの手玉を同時に使った軽妙な手遊びを見せながら、開演の口上を始めた。
その後すぐに猛獣たちによる見世物が始まったのだ。
燃え盛る火の輪の中を雄々しくくぐり抜ける
大きな玉の上に乗り器用に進む
さらにはかき鳴らされる音楽に合わせて幾度も宙返りをしながら細い棒の上を渡る猿。
そうした
だが手を叩いて歓声を上げるプリシラの
「エミル。めったに見られるものじゃないのに、見ないともったいないわよ」
そう言ってエミルを見たプリシラはそこで初めて気が付いた。
弟が青ざめた顔でわずかに震えているのを。
「エミル。どうしたの? 気分悪いの?」
「誰かが……苦しんでる」
か細い声でそう言うエミルにプリシラはハッとした。
これまでもエミルはこのようなことを言うことがあったが、それは彼の持つ特殊な体質のせいだ。
それは人並外れた鋭敏な五感と言葉では説明のつかない特殊な能力を持つ者たちだ。
この大陸にはそうした者たちがいて、それが大陸では
エミルの父であるボルドも
そしてエミルは父の黒髪のみならず、そうした力を受け継いだ、生まれながらの
プリシラは父や弟のその力の一端をこれまで
父はひどい
だがエミルは父が言い当てるよりも一週間も早く様子がおかしくなった。
不安そうな顔でソワソワし始めるのだ。
プリシラは父から聞いたことがある。
エミルは父よりもずっと強い力の持ち主だと。
だがまだ子供で心が幼いから、押し寄せる不安にどうすることも出来なくなってしまうのだと。
プリシラも弟のそんな様子をこれまでに
だからこれはただごとではないと思ったのだ。
「誰かって? この天幕の中にいる誰かってこと?」
プリシラは周囲を見回した。
観客たちは皆、猛獣の見世物に熱狂していて、誰1人として苦しそうな者はいない。
だが猛獣の見世物が終わって、次の出し物が始まった時に天幕の中の
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