第31話 最大の敵は運動不足!

ー貴族ベニー


「咲子ちゃん!」

「了解!サクラ、行くよ!」

「え!?いえ、私は戦います!」

「うるさい!」

「ひえ!?」

 どんどん二人の声が遠のく。無事に逃げられて何よりね。


「あぁ…咲子ちゃん…行っちゃった………」

「別に良いじゃねえか。目の前にまだ一人残ってるからよ。」

「あんまりでけぇ胸に興味はないんだよなぁ。」

「じゃあやっぱ、咲子ちゃ…」

「いや、あれはまな板すぎだろ。」


 ホント腐った人達ね。見てるだけならこっちも黙認してあげてたのに、これはおいたがすぎるわ。


「あなた達、今からおとなしくお家に帰る気はないわよね?」 

「当たり前だろ?ずっと目の前で待てされてたんだ。最推しは変わったが、あんたのことも大好きだぜ?」

「アハハ…咲子ちゃんを余計に傷付けないようにマスターでちょっと試せるかな?」

「あぁ、その目を!もっと!昂る!!!」

 ……安西さんも斎木さんも大分頭おかしいけど、小路さんこんなに気持ち悪かったのね。

「ハァー、疲れるけどやるしかないわね。」

 私はブレスレットを手で弄る。

 全身が紫に染まり、紫のローブをまとう。

「「「え?」」」


「さぁ、踊るわよ。リードしてあげるから、死ぬ気でついてきてね?」

 私がキメ顔でせっかく話してるのに無視!?

 ………いえ、これは脳の処理が追い付いてないのね。なら強制的に踊ってもらいましょう。

「液化。」

 私は指パッチンをする。特に意味はないけれど、この方が華麗に決まるものね。

 三人の近くの気体を液体に変化させ、熱湯の激流を浴びせる。

「ぐわ!?暑っちぃ!?」

「ひえ!?」

「これがあなたの愛なのですね!?」

 思考停止をしていたような三人は、我に返ると私を見ながら足を交互に踏む。

 若干一名あれだけど、ダメージはあると思いましょう。

「蒸発。」

 先程まで三人を襲っていた熱湯を気体に変化させる。

 前方の三人は疲れたように肩で息をしながらこちらを睨み付ける。

「下手に出てりゃ良い気になりやがって!楽しんだら切り刻んでやる!」

「うぅ…咲子ちゃん!?見てないよね!?今の俺をぉ!」

「切り刻んでも、死なない程度でね………切り刻まれるのは俺なのだから!!!」

 言葉に詰まる。劣情とはここまで人を変えてしまうのかと。

 この三人は私の初めてのお客様でこの三人が宣伝してくれたお陰で常連が増えたともいえる。……いえ、この三人がいなければすぐに店を畳んでいたでしょう。最初会った時は緊張しながらもぎこちない笑顔で美味しかったと言ってくれていた。それがどれだけ嬉しかったか。………でも最近では一滴も減っていない冷めた飲み物が返ってくるだけだった。


 ……他に被害者が出ないように、ここで私が止めるべきね。

「液化。」

 今度は三人の頭上にいった、先程まで熱湯だった気体をまた液体に変えるように指パッチンをする。

「がぼ!?」

「ぼぼぼ……」

「がぼがぼがぼっ!!!」

 ………意外と抵抗もなくあっさり片付きそうね。怪人はもうちょっと手強いと思ってたのだけれど。従者が興味を持てないのも納得だわ。

「フィナーレよ。」

 私は息の出来なくなっている三人に背を向けて、指パッチンをする。

「凝固。」

 瞬間、先程までの水の流れがピタリと止み、真っ直ぐに伸びた白い物体が姿を表す。よくその中を凝視すると微かに三つの影が見える程度だった。

 ………決まったわね。


 とりあえず、呼吸器の近くだけは酸素に変えておいたから死にはしないでしょう。

 私は大きく深呼吸をしてから力を封印し、目を開ける。そして目の前には……

「紅…さん?」

 …………マズイわね。

「桜………これは……………」

「す……」

「?」

「スゴいです!!あんな簡単に怪人を三体も倒すなんて!」

「え?」

「いつから魔法少女だったんですか!?」

「え?」

 あれ?……えっと……もしかして誤魔化せる?


「…ふ、まぁそんなとこよ。」

「わぁ…スゴいです!本当にスゴいです!」

 ま、まさかこんなに褒められるなんて。

「それと、倒してないわ。あの中で生きてる。」

「え!?ってことは怪人三人を無力化!?スゴいスゴい!偉業ですよ!!」

 この子、興奮すると圧がすごいわね。


「あ、でもこの事は…」

「咲子さんには内緒…ですよね?分かってます!今度二人でゆっくり話しましょう!」

「えぇ…そうね。それより咲子ちゃんは?」

「あ!………変身して振り切ってしまいました。」

 …軍師も大変ね。

「丁度良いんじゃない?"あの娘"運動不足だから。」

 私が言うと、桜は目を丸くしてから笑いだす。

「フフフ、そうなんですね?」



 暫く笑いながら歩いていると、汗だくの軍師と合流した。

「サクラ……あん、た……ねえ!」

 この状況でもツンデレ演技をする軍師に私は心底感服した。

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