第12話 私の解放されし力!

 あの後色々あった結果、ヨシを研究所配属にした。近々夏休みに入るとのことで、その方が良いだろうという判断だ。ヨシのお母さんに電話をしたら、宿題さえしてくれれば問題はないと言ってくれた。

 Dや他の研究員達は後輩が出来たと大喜びだった。やはり、情報漏洩防止のためにプライベート以外は地下に籠りきりというのは辛く、人との交流が少ないのだろう。Eにも伝えたが、特に表情は変わらなかったが。







 

「カズヤぁ、ちょっ…ゴホッ!ケム!」

 急いで窓を開ける。ここは医療チーム用の休憩所なのだが、最近臭いとクレームがあり、それの確認に来た。そして、一瞬で理解した。煙草やん。そして、煙草と言えば医者のカズヤだ。

「いた。」

 棚にもたれ掛かるように立ちながら煙草を持つカズヤがいた。

「おい、カズヤ。何してんだ。」

 私が肩を叩くと、バランスを崩したフィギュアのように倒れる。

「うお!危な!………寝てる?」

 これは…休ませるべきだな。幸い近くに仮眠用のベッドがあるし、運ぶか。

「よいっ!」

「あぁ?」

 瞼が半分程開いたカズヤがジト目で見上げてくる。

「…………起きたか。」

 ちょっと気まずいな。

「あぁ……………あ、すまんタロウ。」

 カズヤが周りを見渡し、ある一点を見詰めると急に謝る。

「なんだ?急に?」

 カズヤが素直に謝るわけがない。何か裏が?

「いやぁ、煙草の火がタロウのローブに……」

 …………恐る恐る、私はカズヤの手の先に近いローブの箇所を見る。そこには、火のついた煙草が私のローブに密着していた。

「うわ!」

「痛!?」

 急いで自分の手で、問題の箇所を触る。少し焦げてるが穴は空いてない……黒のローブだからセーフかな?

「おーい、コラー言うこと無いんかー」

 私は抱えていたカズヤを地面に落としたことが気にならないくらいホッとしていた。

「す、すまん。」

 私が手を差し伸べるが、カズヤは手でいらないとジェスチャーをして自分で立ち上がった。

「まったく、乙女になんてことをするんだか。」

「乙女?」

「まだ未婚なんだから乙女だろ?」

 そう…なのか?

「いや、そんなことよりそんなに疲れてたのか?立ちながら寝るなんて。」

「あぁ、仕事が一段落して、精神を整えるために煙草に火をつけたらちょっとクラッ、ときて棚に背中をつけてから……今って感じの記憶だな。」

「流石に幹部に倒れられたら困る。休むか?」

 そう尋ねると、カズヤの腹が鳴る。時計を見るともう昼だった。

「……いや、腹減ったわ。」

「だろーな。………じゃあ、奢るよ。」

 なんか、ここでほっとくのも後味悪いし。

「お?どこだ?」

「社食。」

「……ケチ。」

「美味しいから良いじゃん。」

 黙ったということは図星だな。








「あらぁ、タロウちゃんとカズちゃんじゃない!デートかしら?」

「イネちゃん、それはねぇよ。」

「そうだよ、イネコさん。」

「あらぁ、それでご注文は?」

 ここはニューワールドの社食で、ここの担当が板前のイネコだ。毎日部下数名と料理を作ってもらっている。全ての料理が一律五百円のお手軽さが売りだ。

「…私は焼きそばで。」

「……じゃあビーフシチュー。」

「はいはい、これ呼び出しベルね。」

「ありがとう。」

「あんがと。」





 数分経つと呼び出しベルが鳴った。相変わらず早いなぁ。




「「いただきます。」」



「カズヤ、そっちの部下はどうだ?」

「んんー?普通ー。」

「そっかー。」

 会話が続かねぇ………



「そういや、平民のあれは?どうなったん?」

「んえ?あぁ。」

 まさか、話しかけられるとは。変な声が出ちまった。

「楽しそうだったよ。カズヤもそういう願望あるなら研究所の方に伝えとくけど。」

「えぇー…あー……考えとくわ。」

 おや?………もしや………とりあえずDには男女別での設計も頼んどこうかな。



 その後は特に会話も無く、食事を食べ終えた。そして食器を片付ける時に一言……

「好きな色は………ピンク………」

 …………意外とノリノリじゃん。



「イネコさん、美味しかったよ。」

「はぁい、お粗末様。

 あ、そうそう。セータちゃんが人手不足だって言ってたわよ?」

「あぁ、確かに。この時期は野菜の収穫が大変ですもんね。後で手伝いに行ってきます。」

「あらそう?お願いね。」 












「う~ん、暑い!」

 現在の私の服装は、麦わら帽子にファンの付いた作業服に作業用ズボン。これなら大丈夫と思ったが、私は真夏の盆地を舐めていたようだ。

「先輩!来てくれたんですか!」

 籠一杯に入ったキュウリを運びながらセータが声をかけてきた。

「板前に頼まれてね。………それより、先輩?」

「あっ、タロウさん。」

「イエス!もうお互い卒業してるし、仲間なんだからいっそ呼び捨てで良いのに。」

「いえ、そこまでは出来ません。」

 キッパリと断られた。律儀だなぁ。

「そ。何をやればいい?」

「そうですね………あ、スイカの収穫をやってもらっても良いですか?」

「区画は?」

「南区3━5です。」

「あぁ、小玉のやつね。了解。」






 結果、収穫は十六玉で収穫予備軍が三十二玉。三玉は蟻にやられた。持ち上げた瞬間に崩れて、辺りに甘い匂いを漂わせながら地面には蟻がこれ見よがしにたかってきた。

 収穫予備軍である三十二玉は印をつけてセータに伝えておく。私もセータと同じ農業を学んでいたが、セータは将軍の力を使って、そういう農業に関する勘が良くなっているから、生育や色々な判断はセータの方が圧倒的に正確だ。


「おお!将軍に力を解放してもらったから十六玉が余裕で持てる!」

 前ならこの重さを引きずり気味に持っていっていたがこれは良いな。



「あ、あれ!?タロウさん!?」

 セータは私の非力を知っているからかなり驚いてるだろう。

「ほら、将軍の解放のやつだよ。私の筋肉が輝いてるだろ?」

「あぁ…服の上からなのでよく見えないかもしれないです。それよりも、迎えに行こうと思っていたのでビックリしましたよ!」

「ふふん!」

 なんか、貶された気がするけど気にしない!

「あ、それとAQさんから連絡がありましたよ。折り返して連絡して欲しいと。」

「了解、予備軍には赤いテープつけといたから。

 頑張ってね。」

「はい!任せてください!」

 爽やかな笑顔だなぁ。




『もしもし?』

「もしもし、AQ?何かあったの?」

『軍師様、お時間いただきありがとうございます。』

 こっちも律儀だなぁ。

「それで?」

『貴族様が経営されてるカフェがあるじゃないですか?』

「あぁ、あの土日だけやってるとこ?」

『はい、そこで……』

「そこで?」

『近くの高校生が常連客になったみたいなんです。』

「良いね、売上も順調らしいし、一回視察に行こうかな。」

『はい、それも良いかもしれません。貴族様も嬉しそうに……じゃなくて。』

「うん?」

『その高校生五名が全員魔法少女らしいのです。』

 へぇーー………行くの止めようかなぁ。

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