第19話 対策

DAMIAの隠れ家に来るのは二回目だ。

Rayからの連絡で今日もここに集まる事になった。

少し早く家を出た為、Rayよりも先にDAMIAの隠れ家に着いたが一人でも中に入れてもらえた事が少し嬉しかった。

DAMIAに少しは認めてもらえたような、そんな気がしたからだ。


「DAMIA、この間のテスト・・・結局のところどうだったかな?。なんだか、意味が分からないうちにこっち側の世界に戻ってきちゃったけど。中に入り込んでいた時の行動が自分の本来の姿なのかどうかも自分では分からなかった。・・・それでも、自分の能力がどの位なのかをDAMIAが少しでも解析出来たなら良いけど。正直、あまりにもリアルすぎる映像だったし、出てくる人物、見ている事全てが、夢というよりも現実としか思えなかった。父さんにしても、母さんにしても、目の前にいざ現れてみると、実際に会話をしているようにしか思えなかった。本当に不思議だったよ、あの時間は。でも、その僕が入り込んでいた世界が希望なのか絶望なのか・・・それすらも自分では分からないくらい、複雑な状況が目の前にあるんだとは感じた。とにかく体験した全ての出来事がリアル過ぎて何とも言えない気分。数日経ったのに、まだ浮遊感から覚めない感じなんだよね。」


「だろうね。潜在意識の中枢に入った人は皆そう思う。自分の心の奥底にあるひっそりと息を潜めて存在している中枢にある核の部分を、自分で潜り込んで目の当たりにした映像は現実としか思えないくらいリアルに受け止められる。だから、人によってはテストが終わって目覚めた途端、頭が少しおかしくなる人もいる位、深層心理は普段は自分では感じていない部分なんだよね。その部分に潜る事で本当の自分の思考がどこに向いているのか、そして本来の隠れている能力がどのくらいなのか?という事がこのテストでは明確になるんだよ。その為には精神と肉体の分離をしないと、本当の結果を導き出す事は出来ないんだ。だからSORAも、テストから抜け出した時にきちんと精神と肉体が一つになって目覚めてくれたから少しほっとした。」


「え?じゃ、僕も目覚めた後、もしかしたら頭がおかしくなっても・・・不思議ではなかったって事だよね?それ位、このテストは、人間の心を不安定にしたり、現実と夢の境の区別がつかなくなったりするって事?」


「そ・・・。」


前から薄々感じてはいたが、DAMIAは恐ろしい事でも顔色一つ変えずに言う為、本当に全ての事が軽く感じられる。


「それって、先に言うべき事じゃ…ないかな?万が一、目が覚めて頭がおかしくなった・・・?としたら?どうしてたの?」


「まあ、どうも出来ないんだけどね。でも、何事もなく無事だったから良かったじゃん。まあ、「たられば」を話しても意味が無いから置いといて、これではっきりしたよ。テストの結果でSORAは政府側の人間ではないという事も分かったし・・・そして一番には、SORAは俺が今迄に出会った事の無い能力の持ち主だったって事も・・・正直驚きだった。Rayから最初にSORAの事を聞いた時は胡散臭いと思っていたけど、Rayの見る目は間違っていなかったようだね。凡人なら、全ての場面でSORAの選んだ道とは反対の方の道を選ぶ。ましてや最後はお母さんではなく、自害するなんて・・・。初めて見たよ。あんな場面で冷静に自分で死ねる奴を。大体はあんな場面では誰かの声が聞こえたら刃物を持っている人を殺すからね。例えそれが親であろうと。あるいは、相手に殺されるかの二択。」


「ふーん、自分では分からないけど、何も考えずに動いていただけだから。」


そんな説明をDAMIAがしている所に、ちょうどRayがやってきたみたいだ。

DAMIAのパソコン前に掲げてある大きめのモニターにRayが映し出されている。

Rayが入り口のドア前に立ったのを確認し、DAMIAがロックを解除する。

解除と同時に扉が開き、Rayが装備を外しながら慌てて入ってきた。


「ふー、ごめん、待たせてしまって。」

HGPを外した後のRayの髪の毛が、少しはねていて滑稽だった。

相変わらず何も狙ってはいないのだろうが何故か面白い。

その天然さはRayの一番の持ち味だ。


「全然大丈夫だよ。今、僕もちょうどDAMIAから、この間のテストの結果を聞いていた所だったから。」


「あのテストの結末は本当にびっくりだったね。SORAの選択した道筋とそのスピードは、兄貴がテストを受けた時とは丸っきり違っていたよ。あんなのは他に出来る人いないね。しかもまだテストは続いてるのに、自分で勝手にこの世界に戻ってきちゃったから。本当に驚く事しかないね。やっぱりSORAは僕が思っていた通りの人物だった。」


「なんだか、褒められているのか・・・分からないけど、他の人とは違ってよかったのかな?」


「そうだよ!褒めてるんだよ。分かりにくいかもしれないけど、DAMIAも・・・同じように褒めてると思う。反応だけ見ていると、かなり分かりづらいけどね。」


Rayがさらに話し続ける。


「あ、ごめん、時間が無いから僕の話をしても良いかな?実は、今日集まってもらったのは他でもない、SORAのお父さんの秘密を…たぶんだけどね、見付けたんだよ!あの「聖地」で!」


それにしても、会う度に色んな表情が増えてくるRayに驚きを感じる・・・。これが本来人間が持っていた「感情」なのか、と思うくらいに・・・。


「え?この間、一人であそこに行って何か見付けてきたんだ!それで今日、僕らを集めたんだね。そうか、あの父さんの場所に秘密が・・・。よくRayはそれを見付けたね。僕なんか何度も行ってたけど、ただの屋上としか思っていなかったから・・・でも・・・どんな秘密が?」


DAMIAも続けて淡々と聞いてくる。

「秘密って何?早く言え。勿体ぶりすぎだ。」


「うん、えーと、まず、屋上の周りを囲んでいるパラペットの上部のパラキャップ部分に、一部だけ随分と汚れと錆がひどい部分があったんだ。殺風景な屋上だけど、よく観察していたら本当に僅かに気になる所があったんだよね。そこを拭き取ってみたら、細い繋ぎ目みたいなのが見付かったんだよ。確かにパッと見ただけだと全然分からないようにしてある。だからただ単に、空を見上げに行っているSORAだけじゃなくても、他の人でもなかなか気付かないと思うよ。」


「Rayは、よくそんなの見付けられたね。それにしても、繋ぎ目?あの手摺の所に?」

正直驚いた。丸っきり気にした事もなかった。


「うん、それでそこを持って行ったカッターで削って、マイナスドライバーで引っ掛けたら少し浮いてきたんだ。まさかと思ってその浮いてきた所を更に引き上げたんだよね。そしたら中に、SORAが前に言っていた、お父さんが作っていた機械?みたいなのがあったんだ。でも、そのまま外して持ってくる勇気もなかったからそのまま元の状態に戻して帰ってきた訳なんだけど。万が一、外して壊したらDAMIAに怒られると思って。DAMIAはそういう機械とか大好きだし。それでとにかく一日でも早く二人に伝えて、それを一緒に見に行ってもらいたいと思っだんだよね。」


「それ、すごく興味ある。壊してたらRayを殺してたかも。」

DAMIAは表情を変えずに言うから本当に怖い。僕らには冗談と本気の境界線が丸っきり分からない。


そんなDAMIAに、僕からもその場所の事を改めて説明してみた。


「あ、その場所は、父さんが最後に僕を連れて行ってくれた古い廃墟ビルの屋上で。そして、その時にいつでも何かあればここに来るといいよ、と言われていたんだよね。父さんがその場所だけ政府の監視電波が届かないようにしたんだよ。その時からずっと。本当に汚いただの屋上だと思っていたからまさか・・・。だから僕は、たまにその場所へは、空を眺めに行く為だけに通っていた所なんだよね。でも、それが本当なら、見付けたRayはかなり凄いよ。」


「ありがとう・・・。」


DAMIAもそれに答えるように話す。

「Rayからその「聖地」に行く前に連絡をもらって、その場所の電波検査を頼まれた。Rayから変な暗号に付き合わされたのだけは嫌だったけど、遠隔で俺も確認したから間違いなく電波なし。本当に今でもそんな場所があるんだと俺も驚いた。でも、何故そこだけ電波が届かないのか?っていうのは不思議だったから謎が解けてきた。あとは実際に見るだけだね。そしたらその機械の事もちゃんと分かる。」


「でも良かったよ。ただそこから先は、僕は機械にはあまり詳しくないから、DAMIAとSORAに見てもらって改めてちゃんと調べてもらえたらと思って。」


なんだか父さんの残した場所の謎が解けそうだ。そこに、何か父さんのやろうとした事のヒントがあるような気がして仕方がなかった。


「DAMIAが外出を嫌っているのは知っているけど、行ってもらえないかな?一緒に。やっぱり、DAMIAが見るのが一番良いと思うんだよね。」

と、DAMIAの顔色を見ながら話すRay。


「仕方ないな。それは俺の専門だろうね。外出は嫌だけど、SORAのお父さんが何かをやろうとして作ったその「機械」が凄く気になる。しかも、その時からずっと稼働しているっていうのが不思議でならない。それが見たいし、調べてみたいから行くしかない。Rayが機械を外してこないで大正解だ。」


「本当に外さなくて良かったー。」

Rayがほっとしている。


「じゃ、これで決まりだね。今度は僕とRay、DAMIAの三人で「聖地」に行こう。その場所は政府の電波を気にしなくて大丈夫という事が確定したから、政府のパトロールドローンだけ来ない事を祈るばかりだね。ただ、それなりに調べられるように道具もいくつか持っていくよ。DAMIAの持ってくるものだけでも事足りそうだけど。」


「良かった、僕も役に立ったみたいで。」

Rayが少しだけ誇らしげな顔をして呟いた。

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